第31話 改革
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
ここ最近、城内では少しずつ慌ただしい日々が続いていた。
身分制度廃止に向けた新たな改革。
冬に向けて、他国との備蓄を巡るやり取り。
対縁の儀、そして栄善の御誕辰祭。
行事が目白押しに迫っているの。
私は相変わらず、仕事漬けの日々。
この間、春風が言っていた通り、ますます仕事が増えている。
だから最近は、私たちも朝座に出席することが多くなった。
だけど、人のお役に立てている──
そう思えるだけで、私は十分幸せ。
仕事漬けの日々も、苦にはならないの。
……まぁ、またみんなに「仕事詰め」なんて言われるのは目に見えてるんだけど。
気を引き締め直して、私は書斎で書類に目を通していた。
すると襖の向こうから、聞き慣れた声がした。
「杏歌〜、いる〜? 書類を届けに来たんだけど、入っていい〜?」
「えぇ、大丈夫よ」
次の瞬間、襖の向こうからひょっこりと哀伝が顔を出した。
「はい、これ。栄善に聞いたらさ、『外交補佐のあいつに渡しておけば間違いない』って。頼りにされてるね、杏歌」
にこにこと笑いながら、哀伝はそう言った。
その笑顔は、忙しいはずの彼には似つかわしくなくて……疲れた様子なんて、ひとつも見せない。
それどころか、こうして私を気遣う言葉まで自然にかけてくれるんだから。
「ありがとう、哀伝。書類、確かに受け取ったわ。それで……そっちの交渉はどう?うまく進みそう?」
「うーん、朽葉ノ国と同じ内陸国と今交渉してるんだけど、金額がさ〜、予想より少し高いんだよね。栄善も茶々蔵もそこで少し踏みとどまってるみたい」
そう言いながら、哀伝は考え込むように指先で頭を掻いた。
「……そう。確かに、そこは悩みどころね」
私は少し視線を落とした。
すると、哀伝の穏やかな声が室内に響いた。
「まぁ、僕に任せておいてよ。僕の交渉術に、右に出る者はいないからね!」
そう言うと、哀伝はにっと笑う。
迷いのない、輝くような笑顔だった。
「ふふっ……そうね、哀伝。心強いわ」
哀伝の存在は、いつだって私に安心感を与えてくれる。
彼と一緒なら、今進めている取引もきっと大丈夫。
自然とそう思えてしまうの。
私たちは今、栄善の指示のもと、ある取引を進めている。
それは私が提案した案だった。
栄善はそれを「名案だ」と言って、迷いなく受け入れてくれた。
そして実行へと踏み出す覚悟を、ためらうことなく決めていた。
殿としては、決して容易に下せる決断ではないはずなのに。
そのとき、改めて私は、栄善の殿としての偉大さを感じた。
その案は、桂ノ国が一国に依存せず、多くの国と手を結ぶためのもの。
権力に縛られない国を少しずつ作るための道。
──そして
対縁の儀で進められている、あの縁談を断つためでもあるの。
──それは、この国の未来を左右する決断だった。




