第26話 海を越えて来た者―疑念―
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
みんなが揃うと、栄善は静かに口を開き、これまでの経緯を話し始めた。
言葉が進むにつれ、重役たちは神妙な顔つきになり、新人四人は不安そうに沈んでいった。
栄善の話が途中のまま──時雨が突然声を上げた。
「俺ぁ反対だぜぇ。どこの馬の骨ともわからねぇ奴なんぞ。おまけに何も知らねぇだぁ?とても信用できねぇなぁ」
……時雨は普段、お酒に呑まれているように見える。けれど、こういう一大事の場では決して軽口を叩かない。
それは、長年重役を務めてきた者の確かな言葉だから。
時雨の言葉を受け、柚寧は左手を右肘に添え、右手を頬に当てた。
しばらく沈黙したあと、考え込むように言葉を紡ぐ。
「……確かにそうだわ。私が拝見したあの子の服装……とても不思議な装いだった。海を越えて来た以外、何を信じろというの……?」
それに続いて、春風も口を開いた。
「そうだな……何よりも問題なのは、この国の厳重な監視を越えて来た可能性が高いことだ。港の門番がいるのはもちろん、この城にいたという事実は確かなのだから、城の門は確実に突破されていることになる」
雲祈が恐る恐る声を上げた。
「……そっ、それって、重罪なのではないですか?」
その言葉に、部屋の空気が一段と重くなった。
「……うっ、雲祈の言う通りです!城に無断で侵入すれば重罪です。そしてそれは、門番の方たちにも処罰が下る……」
「私も……雲祈と大納の意見に同意します。これは、国の一大事です。私たちは、この国の人々を守る立場にあるはずです」
蒼月の言葉に続き、綿花も俯きながら答えた。
「このような言い方をして、大変申し訳ないのですが……それは、悪人を匿うということなのでしょうか?」
時雨の言葉を皮切りに、みんなが意見を述べる。
重役たちはその役職らしく、どっしり構えている。
しかし、雲祈、大納、蒼月、綿花の四人は、言葉の端々に不安を滲ませていた。
……そうよね。
みんなの言っていることも、もちろんだわ。
この国の人々を守る立場である以上、簡単に答えを出せる問題じゃない。
──だからこそ、胸が痛む。
しばらく室内には、重たい静けさが落ちた。
そんな中、春風が静かに言葉を告げた。
「……栄善。お前がそこまで言うということは、すでに覚悟を決めているんだろう。ならば──最後まで話してくれ。なぜその謎の多き者を、お前は“守ろう”としているのかを」
春風の言葉に、みんなが真剣な面持ちで栄善を見つめた。
栄善は、静かにみんなの目を見据える。
「……その者は、今にも消えてしまいそうな表情を浮かべていた。そして、彼女もまた……“身寄りがない”──」
────!!!!!
その言葉が落ちた瞬間、室内の空気が音を立てて凍りついた。
誰も、すぐには言葉を継げなかった。
それは──その言葉が、あまりにも重く、そして栄善自身の過去と重なって聞こえたから。
しばらくの間、誰ひとりとして口を開かなかった。
先ほどまで交わされていた理屈や理念は、栄善の言葉ひとつで、どこか遠くへ押し流されていた。




