第22話 歓迎会―閉宴―
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
茶々蔵の、どこか遠くを見ていた表情が、胸の奥に残っていた。
茶々蔵ってば、私と似てて頑張りすぎる癖があるんだから。気にかけておかないといけないわね。
──その余韻を引きずったまま、宴の空気は少しずつ終盤へと向かっていた。
栄善が静かに締めの言葉を告げる。
「皆、本日は意味のある深い時間を過ごすことができた。誠に感謝している」
栄善は深く頭を下げた。
「これから私たちは身分制度廃止に向け、そして後に控える対縁の儀に向けて、ますます忙しくなるだろう。この国を支えるためには、城にいる者だけでなく、国の人々の力が必要だ。そして何より、皆が健やかであってこそ、志は成り得る。どうか体調を崩すことなく、共に歩んでいこう」
「もちろんです!」
「おー!頑張るぞー!」
声が重なり合い、広間の空気が一気に引き締まった。
ふふっ、みんな同じ未来を見ている。
そんな気がした。
栄善は、改めて新しく入った四人へと視線を向ける。
「体調と言えば、間もなく寒い季節がやってくる。城の離れには囲炉裏のある部屋がある。冷えたときには、そこで暖を取るといい。皆、手の空いた折に案内してやってくれ」
「囲炉裏のある部屋で、杏歌様と密室……なんて素敵なのでしょう〜」
さっきの鋭い雲祈は、いったいどこへ行ったのやら……今はただ、体をくねくね揺らしながら、夢見心地の表情を浮かべている。
その危険な気配を察したのか、哀伝はさっと身を滑らせ、私と雲祈の間に割って入った。
「杏歌、絶対に雲祈と二人きりでは案内しないでね」
「……えぇ、もちろんよ」
春風にも付いてきてもらわないと危険だわ……
「……それから。大納、蒼月、雲祈、綿花。お前たちに、これを渡しておこう」
栄善が懐から取り出したのは、小さな箱だった。
その蓋を開けると──羽田家の家紋が静かに輝いていた。
「わぁ……」
四人の目が、一斉に輝く。
「皆、襟につけておくといい。これを身につけることで、城の者としての証となる」
目を輝かせている四人を見て、春風がにやりと笑った。
「さぁ、お前たち。学んだ成果を発揮するときが来たぞ」
「この家紋には、どのような意味が込められているのか、もちろん分かるわよね?」
「分からねぇ〜とは言わせねぇ〜ぜぇ」
各班の奉行たちが腕を組み、誇らしげに笑みを浮かべる。
それに応えるように、四人も胸を張って笑った。
「この家紋は、羽田家の“羽田”にちなんで描かれています」
「その模様は、鳥の“羽”と田んぼの“田”です」
「羽には、“自由に羽ばたく”という意味があります」
「そして、田には、“安定”という意味が込められています」
「よくやった」
「さすがだわ」
「やるじゃねぇ〜か」
ふふっ。
四人がきちんと覚えているのを見て、春風も柚寧も時雨も、嬉しそうに顔を緩ませた。
「あぁ〜杏歌様と同じ家紋を身につけられるなんて……もう忙しさも何もかも、どんとこいって感じです、私」
「そう。雲祈の活力になったのならよかったわ」
「忙しいと言えば……お手伝い係も増やさなくてはならぬな……」
「栄善の言う通りじゃの。お菊一人では、これからは大変であろうな……」
「僕も任務で外に出たときに探してみるよ」
「おいらもー!」
「任せとけ!」
「皆、助かる。よろしく頼む」
それぞれが席を立ち、片付けに動き出す。
やがて広間の喧騒は、徐々に遠ざかっていった。
──賑やかだった歓迎会も、静かに終わりを告げた。
しかし、私たちはまだ知らない。
このお城に──ありえないはずの出来事が、静かに近づいていることを。




