第21話 歓迎会―残響―
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
その後も栄善は、四人に自身の生い立ちを語り続けた。
貧しさの中で育ったこと。
母に支えられ、学びを諦めずに生きてきたこと。
そして、その経験があるからこそ、身分制度の廃止を強く願っていること──
「だからこそ、私はこの現実を受け止めた上で、いつかはこの『血統で支配する世界』そのものを変え、身分制度を廃止し、誰もが平等に生きられる国を作りたい。……それは、城に生きる私たちも含めてだ。血統で区別される世界だと、頑張っても届かない人が出てしまう。それでは、皆が笑って暮らせる国には、私はならないと考えている」
四人は、言葉の一つひとつを噛み締めるように聞き、やがて堪えきれずに涙をこぼしていた。
栄善の話を聞き終えたあと、四人はしばらく沈黙し、静かにその言葉を心に留めているようだった。
その沈黙を破るように、雲祈が何かを確かめるかのように手を挙げた。
「はい!栄善様!」
「ん?どうしたんだ、雲祈」
「栄善様が養子であることは、ここにいる私たち、そして諭作さんだけの秘密ですが──身寄りがなくなったと知らせてくれた町の人が、養子であることを他言する可能性はないのでしょうか?」
……鋭いところをついてくるわね、雲祈。
いつもは哀伝みたいに、どこかおちゃらけて見えるけれど、こと仕事となると、こうして要を外さない。その切り替えの早さは、正直感心させられるわ。
雲祈の鋭さに感心した直後、栄善が静かに語り始める……
「私が育ったのは、城下町の外れにある小さな町だった。その町の人々は、私と母のことをよく知っている。
母は貧しくても、困っている者を見れば手を差し伸べた。食べ物を分け、子どもの世話をし、病を抱えた者の看病までした。身分制度で苦しむ者たちを、誰よりも気にかけていた。
その町の人々は、少し離れた城下町の中心にある大きな町の紙屋、諭作に、私の身寄りがなくなったことを伝えてくれた。諭作は幼い頃、母と一緒に通っていた店主であり、私のこともよく知っている。
諭作はそれを茶々蔵に伝え、茶々蔵は城へ届けてくれた。その知らせを受け、城は私を羽田家の養子として迎え入れてくれた。
その知らせがなければ、私は羽田家の養子になることも、殿として生きることもなかった。母が町の人々と良い関係を築いてくれていたお陰なのだろう。
城の役人たちは、その恩を忘れず、米を贈るなどの形で返してきたそうだ。それは口止めのためではなく、町が私を助けてくれた礼だった。
だから彼らは黙っている──
だが、それだけではない。このことが外へ漏れれば、城の体制に弱みが生じ、町の暮らしが危うくなることも彼らは知っている。
黙るのは恩のためだけではない。町のため、自分たちの生活を守るためでもあるのだ」
栄善の言葉を聞いた雲祈は、さらに涙をあふれさせた。
「栄善様のお母様の、人を思いやる優しさが、人と人との絆を紡いだのですね……!なんて、素敵なのでしょう……」
その言葉に、みんながふっと笑みを零す。
雲祈の目の潤みを見て、私も胸が温かくなる。
優しく、空気が広間の隅々まで満ちていくようだった。
──なのに。
茶々蔵だけが、ぽつんと浮かない顔をしている。
茶々蔵、どうしたんだろう?
腰が痛いのかしら?
それとも、飲みすぎちゃった?
私は、そっと茶々蔵へ近づき、声をかける。
「茶々蔵、どうしたの?大丈夫?具合でも悪いの?」
茶々蔵は一瞬こちらを見てから、ゆっくりと頭を振った。
「……ん?おぉ、杏歌。わしなら大丈夫じゃよ」
「……そう?それならいいんだけど」
でも、茶々蔵の声はどこかいつもより弱かった。
笑ってはいるのに、笑えていない。
その目は、どこか遠くを見ているようだった。
その違和感だけが、私の胸に残った。




