第20話 歓迎会―結心―
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
時雨が口にしたその一言は、広間の空気を一瞬で変えてしまった。
「栄善〜、おめぇはよぉ〜、本当に偉ぇ〜ぜ。養子として羽田家に引き取られてよぉ〜、殿としてここまで立派になってよぉ〜……うっ、うっ、ずっ……」
ーーーーー!!!!!!
「おい、時雨……」
「……時雨、あなた飲み過ぎよ」
春風と柚寧は、言葉を選ぶように口を開いた。
歓迎会の賑やかだった雰囲気は、一気に静けさに包まれる。
それもそのはず。
栄善が養子であるということは、新しく入った四人には知らされていない。
家老の茶々蔵、重役の時雨、春風、柚寧。
幼馴染の私たち四人──そして、栄善に身寄りがなくなったことを茶々蔵に知らせてくれた諭作。
限られた者しか知らない。
なぜなら、栄善が養子であることが他国に知れ渡れば、この国の立場が揺らいでしまうから。
少しの沈黙の後、栄善が口を開いた。
「茶々蔵……よいか?」
「あぁ、構わん」
静けさの中で、栄善は言葉を紡いだ。
「大納、蒼月、雲祈、綿花。四人には、まだ話しておらぬが、私は羽田家の血筋ではない。養子として羽田家に引き取られ、今に至る」
「……え……」
「まさか、栄善様が……」
「養子だったなんて……」
「……信じられないです……」
初めて聞いた四人は、驚きの表情を隠せずにいた。
知っている私たちも、栄善を心配そうに見つめる。
その気配を察したのか、栄善はさらに言葉を続けた。
「ここにいる者たちのことは信頼しておる。何よりも、これからますます忙しくなるこの時期に、隠し事なく、志を一つにせねばならぬ。時雨の言葉で、そのことに気付かされたのだ」
栄善の言葉に、みんなは口角を上げて頷いた。
その場の空気が、少しだけ柔らかくなる。
そうよね。
これから新たな改革に向けて、より一層みんなで力を合わせていかないといけない。
対縁の儀も控えてるし、忙しさは増す一方でしょうね。
だからこそ、志を一つにする──それが今、何よりも大切よね。
「しかし、私が養子であることが他国に知れ渡れば、この国の立場が揺らぐ。羽田家の血統こそが、城下における正統の証であり、諸国はそれを以て我が国を認めている。
その格式が崩れれば、他国に『羽田家は正統ではない』と見なされる。そうなれば外交が弱まり、交易も財政も揺らぐ。
つまり、国の根幹が不安定になる──だから、くれぐれも内密にしてほしい」
その言葉を締めくくるように、栄善は深く頭を下げた。
「栄善様、おやめください!」
「私たちに頭を下げないでください!」
四人は一斉に声を上げ、顔を見合わせる。
「栄善様、頭を上げてください!」
雲祈が慌ててそう叫ぶ。
しかし、栄善の頭はしばらく上がらなかった。
そんなとき、時雨が口を開いた。
「おめぇらよぉ〜、わかってねぇな。これが栄善なんだよ〜。殿だからって一線置いてるんじゃねぇ。みんな平等なんだよ〜。わぁ〜かったかぁ〜、ちびっ子どもめ〜……ひっく」
その言葉は、私の胸にもまっすぐ刺さった。
そして、四人の胸にも同じように響いたのが、表情から分かった。
これまで“殿”という距離があったのに、それが一気に縮まった気がした。
「……栄善様、私はどこまでもあなたについて参ります」
「このことは、決して他言いたしません」
その言葉を聞いて、四人は自然と微笑みを交わした。
胸の奥に固い覚悟が芽生えたのが、私にも伝わってくる。
「……皆、誠に感謝する。このことは、ここにいる者たち、そして諭作のみが知る。今後もより良い国を築くため、皆、共に歩んでくれ」
「もちろんだぜ、栄善〜!」
「ますます気合が入るな!」
その声に応えるように、広間のあちこちで笑顔がこぼれた。
栄善の言葉を受けて、みんなの瞳は同じ未来を見据えるように静かに輝いていた。




