第19話 歓迎会―賑宴―
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
歓迎会が始まると、広間はすぐに賑やかな空気に包まれた。
私はその光景を見ながら、ふっと笑みをこぼす。
「みんな、いいこと。これは大切な国の予算で賄っているのだから、残さず大切にいただくのよ」
「はーい!」
柚寧の声に、私たちも声を合わせる。
「さすが柚寧さん。蒼月、私たちも将来は柚寧さんみたいにしっかり管理できるように努めような」
「うん。本当だね、大納。大切な町の人々のお金で、今こうして祝ってもらっているんだよね。心に刻んでおかなくてはいけないよね」
大納と蒼月の言葉を聞き、私はふっと胸が引き締まるのを感じた。
柚寧の言葉は、いつもながらに真っ直ぐで──その真っ直ぐさが、私の背筋を伸ばす。
この歓迎会は、町の人たちが納めてくれたお金で開かれている。
そのことを、私たちは決して忘れてはいけない。
普段は口うるさい柚寧だけど、勘定奉行が彼女だからこそ、私たちは安心して仕事ができる。
だから私は、より一層、責任を自覚するの。
歓迎会は中盤に差し掛かり、広間は笑いと杯の音で満ちていた。
みんな思い思いにお酒を飲み、料理を頬張っている。
お酒が回ってきたのか、団丸が突然、声を張り上げた。
「おいら歌いまーす!だっだんだんまる〜♪おいらはだんまる〜♪体力ゴリラ〜だんまる〜♪」
それを見た雲祈も負けじと口を開く。
「それなら私は杏歌様への愛を歌に込めます!あぁ〜、杏歌様〜あなたはどうしてそんなに美しい〜♪あぁ〜杏歌様〜私の杏歌様〜♪」
「だはははははっ〜!おめぇらぁ〜その歌はなんなんだよ〜ひっく、ひっく」
「ぷははははは〜!いつも思うけど、団丸のその歌、何?雲祈も何それ。杏歌の歌なの?僕、もうお腹が捩れて大変なんだけど」
出来上がっている時雨と、いつもの調子で笑い転げている哀伝。
ってか私、隣で雲祈に歌われて恥ずかしいんだけどーーー!!!!
頭を抱え込む私を見て、七左衛門と春風がからかうように言ってきた。
「くくくっ。どうしたんだよ杏歌。お前は雲祈に応えてやらないのか?あんなに気持ちよさそうに歌ってるんだぜ?応えてやれよ、歌で」
「杏歌、七左衛門の言う通りだぞ。雲祈の愛に応えてやらないと可哀想だろう?私たちの後輩なんだから。応えてあげないか。歌で」
……こんの酒豪たちめ!!
他人事だと思って、好き放題言ってくれるじゃない〜!!
だけど、常識人のこの二人に言われると、何も言い返せなくなってしまう私もいる。
ちなみに、春風と七左衛門、柚寧はお酒がめっぽう強い。量はたくさん飲むのに、顔色一つ変わらない。
団丸と私は気合いで飲む。
強くはないけど、弱くもない。
だから、たまに団丸と七左衛門と私で飲みに行ったりしている。
栄善と茶々蔵と哀伝は嗜む程度。
哀伝は意外だけど、紳士に飲むわね。
自分があまり強くないことを自覚しているから、酔っ払って迷惑をかけたりしない。
そういうところは、しっかりしてるのよね。
そして時雨は……弱いくせに、たくさん飲んで出来上がる。いつもその繰り返し……
時雨のことを考えてると、ふと綿花に迷惑をかけてないかが気になってきちゃったわ。
「綿花、大丈夫?時雨、いつも迷惑かけてない?」
「ふふっ。杏歌さん、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。哀伝さんに切り抜け方も教えていただいたので、楽しくやっています」
「ふふっ、そうなの。それなら安心したわ」
切り抜け方って、何か嫌な予感がするけど、綿花が楽しく過ごせているならよかったわ。
「そうだよ、綿花!時雨のことなら、この僕に任せてね!こんな酔っ払い、ちょちょいのちょいだよ〜!」
「だぁ〜れがこんな酔っ払いだ〜!上司に向かって、このやんちゃ坊主がぁ〜!だいたい、おめぇがなぁ〜、栄善を悪の道に誘ったからなぁ〜」
「ちょっと〜。時雨は『おめぇら、やるじゃねぇか』って言ってたじゃん!なんでまた茶々蔵みたいなこと言うの〜?」
また始まってしまった。
交易班の言い合いが。
「ほほっ、また始まってしまったな」
「ふっ、そうだな」
「まったくだわ」
「愉快だな!がはははっ!」
「くくっ、どんな言い合いしてんだよ」
「……呆れたやつらだな……」
「あれが噂の交易班の言い合い」
「大納、私も見るのは初めてだよ」
「私は日々目撃しております!」
「ふふっ。私もいつも見ています」
「綿花がいい子で、本当によかったわ」
みんなで時雨と哀伝の言い合いを眺めていると、時雨がふいに目を潤ませた。
そして、次の瞬間──泣き始めた。
ーーーーー!?!?!?
みんな一斉に、ぎょっとする。
だって、泣くなんて時雨らしくない。
目を潤ませるなんて、柄じゃないもの。
「……杏歌、失礼だぞ」
あら、やだ。
私ったら、また心の声が漏れちゃってたみたい。
七左衛門に言われて、慌てて口を閉じる。
「哀伝……お前、時雨に何言ったんだよ」
七左衛門が、やれやれと笑みを浮かべながら言った。
「え?僕はいつも通りのことしか言ってないけどな〜。この酔っ払い上司〜って」
「時雨は、それで泣いたのか?」
団丸は、不思議そうに首を傾けた。
しかし、次の時雨の言葉に、私たちは本当の意味で慌てることになる。




