第15話 特別―秘密基地へのお誘い―
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
まだ、秋の入り口。
だけど、城内の空気は早くも晩秋の気配が漂い始めていた。
今日は、晩秋の山茶花団子の季節に向けて、朽葉ノ国から餅米を仕入れるための会議が開かれていた。
茶々蔵、栄善、そして交易班・外交班・勘定班に加え、訓練隊長と戦術担当も同席し、議論が進んでいた。
交易班は餅米の確保、外交班は交渉、勘定班は予算の算段。さらに、訓練隊長と戦術担当は、道中の警護や運送の安全確保について意見を述べる。
着々と話は進み、今年も山茶花団子が楽しめる季節になりそうだわ。
「あぁ〜、私、山茶花団子が大好きなんです。見た目も杏歌様のように美しくて……杏歌様、私と一緒に食べましょうね!」
「山茶花団子、私も大好きよ。えぇ、一緒に食べましょうね」
「……っ、大好きだなんて、そんな杏歌様。もう一度、私に言ってください!」
私にぐいっと顔を向けて言ってくる雲祈の頬を、哀伝がさっと押しのけた。
「ちょっと〜、雲祈、何勘違いしてるの?杏歌は“山茶花団子が大好き”って言ったんだよ?雲祈に言ったんじゃないんだからね」
「どうやったらそんなに都合の良い耳になるんだよ……」
「七左衛門の言う通りだな!だけど、山茶花団子と山茶花は特別だからな。みんな、味わって食べるんだぞ!」
「期間限定だから、確かに特別だな。それに、山茶花も晩秋から冬にしか咲かないしな。ん?どうしたんだ、杏歌。にやにやして」
「ちょっと、春風。にやにやって……私が変な人みたいじゃない」
だけど、このときの私は、思わず微笑んでしまっていた。
団丸が言った「特別」という言葉の意味を、改めて噛み締めていたから。
あれは、団丸と七左衛門がお城に加わって、しばらく経ったある晩秋の日のこと──
***
哀伝たちは、相変わらず凝りもせず、こっそりと町へ抜け出していた。
やんちゃ坊主は、いつの間にか四人。
茶々蔵は叱っては追いかけ、気づけば毎日てんてこまい。
──まぁ本人は、その賑やかさをどこか楽しんでいるみたいだけどね。
私がお城の池のほとりで勉強をしていると、にこにこ顔の哀伝が、ひょこっと顔を覗かせてきた。
「きょ〜うか!ねぇねぇ、聞いて聞いて!僕たち、秘密基地を見つけたんだ。山と海を一望できて、すごく綺麗なんだよ。だからさ、杏歌も一緒に行こうよ!」
「またそんなこと言って〜!勝手に町へ抜け出したら、私まで叱られるでしょ!」
……ったく、何考えてんだか。
そのとき、ぐいっと右腕を掴まれた。
「杏歌はおいらたちと一緒に行くんだ!お前はおいらと同じ体力ゴリラだからな!がはははははー!」
はぁ〜!?
団丸の言ってる意味、分かんないんだけど!!
「そうだそうだ〜!杏歌は僕たちと一緒に行くんだ〜!だけど、杏歌も絶対に気に入るよ?」
そして左腕を哀伝に掴まれ、私は二人に引きずられるように連れ去られていく。
「ちょっ、ちょっと、離しなさいよ!七左衛門と栄善も眺めてないで、何とか言ってよ!」
「くくっ、悪いな杏歌。団丸と哀伝は俺らにも手が負えないぜ。諦めてくれ」
「まぁ、いいではないか。杏歌もこれで、英雄になれるのだから。男たるもの、こっそり抜け出すことができてこそ、真の英雄になれるのだぞ」
……唯一の頼みの七左衛門と栄善だったのに。
っていうか、はぁ〜!?
私は女の子なんですけどーー!?
体力ゴリラの団丸と、細身のくせに力の強い哀伝に敵うはずもなく……私は町へと連れ去られた。




