第14話 羽田蛍火―絆―
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
蛍火は、山茶花団子を食べることを、とても楽しみにしていた。
けれど結局、楽しみにしていた山茶花団子を、もう一度食べることはできなかった。
嬉しそうにお団子を見つめていた蛍火の顔。
その記憶が、胸の奥に静かに残った。
蛍火が亡くなって間もなく、羽田家の跡取りとして栄善が、このお城に迎えられた。
私は栄善と打ち解けてから、彼に一つのお願いをしたの。
「将来、栄善が殿になったときには、山茶花団子の販売期間を延ばしてほしい」ってね。
あの頃は財政が厳しくて、山茶花団子は一日だけしか売られていなかった。
もし、もう少し期間が長ければ、蛍火だって、あの甘いお団子を何度も食べられていたかもしれない──
ずっと寝たきりだった蛍火の楽しみを、私はもっと増やしてあげたかったの。
もちろん、外交として私も協力するつもりだったわ。
その後、栄善が殿になり、交易、外交、勘定──さまざまな部署を巻き込みながら、みんなの協力を得て、時間をかけて少しずつ形にしていった。
山茶花団子は、山茶花の開花時期に合わせて、晩秋から冬にかけて発売されることとなった。
栄善にも、みんなにも、心から感謝してるわ。
そして今、私は山茶花団子の箱を小物入れにしている。
あの子が、そうしていたように。
「あれ?杏歌、何してるの?」
「んー?ちょっとね」
「あっ……その箱」
今、私が持っているのは、蛍火が小物入れにしていた箱。
哀伝からもらった石を、大切にしまっていた箱。
今も、そっと手元に置いてある。
「哀伝が蛍火に渡した石よ。この箱に入れて、大事にしていたわよね」
「うん。蛍火、いつも喜んでくれてたから……僕、嬉しくてたくさん持って帰ってたんだ」
「杏歌、哀伝」
振り返ると、後ろには茶々蔵が立っていた。
「茶々蔵。見て、これ。蛍火が大事にしていた、哀伝の石よ」
茶々蔵は、そっと手を伸ばし、箱の上から指先で触れるようにして、石を見つめた。
「山茶花団子の箱に入れて、いつも嬉しそうに眺めておったな」
その言葉に、私は胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じた。
「蛍火は、この箱もすごく大切にしてたよね」
「えぇ。あの子にとって、特別な宝物だった」
私たちは、空を見上げた。
蛍火は今、天国で夢を叶えてるかな。
山茶花の景色を、この目で見られたかな。
私たちは、お城で過ごした蛍火との日々を、決して忘れない。




