第12話 羽田蛍火―刻―
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
私にとって雨は、忘れられない記憶と結びついている。
それは、悲しい出来事が決まって雨の日に訪れるから。
蛍火が亡くなった日も、空が泣き続けるように雨が降り続いていた──
***
「ほ〜た〜る〜び〜、お話しし〜ましょっ!」
「あっ、杏歌。来てくれたんだね……ごほっ、ごほっ」
「蛍火、大丈夫?苦しいの?」
「ううん、大丈夫だよ。少し咳が出るだけだから」
「なら、いいんだけど……」
蛍火は、苦しいはずなのに、それでも私に笑ってみせる。
羽田 蛍火。
桂ノ国の次期お殿様になる男の子。
生まれつき身体が弱く、ずっと寝たきりだった。
同じお城で育った私たち。
私はいつも蛍火の部屋へ行き、お話をするのが日課だった。
蛍火は、私たちと同じ年なのに、どこか大人びていて、包み込むような優しさがあった。
私はそんな蛍火のことが、大好きだった。
私の大切な友達──
静けさの中、襖がそっと開けられた。
中に入ってきたのは、茶々蔵だった。
「おぉ、杏歌。来ておったのか。ほれ、蛍火。薬の時間じゃぞ」
「茶々蔵……ごほっ、ごほっ……いつもありがとう」
茶々蔵はすり鉢を取り出し、小さなすりこぎで薬草を丁寧にすり潰す。
そして、横たわる蛍火をそっと起こし、すり潰した薬を口元へと運んだ。
「よし、良い子じゃ。蛍火、よく頑張ったな」
茶々蔵は柔らかな笑みを浮かべながら、蛍火の頭を優しく撫でた。
茶々蔵は、蛍火を誰よりも可愛がっていた。
その温もりに、蛍火も自然と頬を緩ませる。
蛍火の両親は、病に倒れ、この世を去っていた。
だから茶々蔵は、蛍火にとって本当の親のような存在だった。
──どどどどど……
大きな足音が、こちらへと駆け寄ってくる。
ぴしゃっ!
勢いよく襖が開けられた。
「蛍火〜!!見て見て〜!!」
「こりゃ〜、哀伝ーー!!もっと静かに入って来れんのか、お前さんは〜!!」
「ごほっ、哀伝。今日はどんな面白いものを僕に見せてくれるの?」
「へっへっへ。じゃ〜ん!かるただよ〜!手に入れたんだ〜。これで蛍火、一緒に遊ぼうよ!」
そう言って哀伝は、髪の色のようにきらきらと輝く笑顔で、かるたを差し出した。
「うん!すごく楽しそう!みんなでやろうよ!」
「じゃあ、わしが読み手を務めよう。ほれ、杏歌。これを並べておくれ」
「えぇ!すごく楽しそうね!」
そうして、私たちはかるたを楽しんだ。
蛍火も嬉しそうで、私まで胸が温かくなる。
時雨や春風、柚寧も、日常のように蛍火の様子を見に来ては、静かに話をしていった。
日々は、こんなふうに静かに過ぎていった──




