第103話 祈りの先に
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
桜の花びらが、ゆるやかに舞っていた。
風にほどけるように、ひとひら、またひとひら。
私と哀伝は、ひとつの場所へと足を運んでいた。
そこは、綿花──そして、路傍斬りのお墓が並ぶ静かな場所。
静かな墓前に立ち、そっと花を手向ける。
手を合わせ、祈るように目を閉じた。
そして、その奥に眠っているのは──蛍火と栄善、トワちゃんの三人だった。
ただ、そこには、手向けた花だけが静かに残っていた。
心地よい風が吹く中、私は小さく呟いた。
「三人とも、天国で会えたかしら……」
哀伝はお墓を見つめたまま、静かに息を吐くように言った。
「きっと会ってるよ。きっとね」
私は、そっと視線を落としながら呟く。
「栄善が最後に穏やかな顔をしていたのは……トワちゃんの腕の中だったからかもしれないわね」
哀伝は少しだけ間を置いて、小さく頷いた。
「栄善……トワの腕の中で、安心してたのかもしれないね」
私はふと、お墓を見つめたまま、少しだけ口元を緩めた。
「……天国で会ったときには、トワちゃん、絶対に叱ってやるんだから……」
哀伝は、思わず吹き出すように笑った。
「ぷはははは〜!トワ、杏歌のこと知らないのに、いきなり怒られてびっくりするんじゃない?」
「……いいのよ、別に……」
そう言って、私も小さく笑った。
そして哀伝は、三人のお墓を見つめながら静かに言った。
「蛍火、栄善、トワ。僕たち、結婚したんだ。それに……栄善、聞いてよ。僕、この国の殿になったんだよ。栄善の遺志は、しっかり継いでるから安心してね」
私はその横顔を見つめながら、そっとトワちゃんのお墓へ視線を落とした。
「……あっ、それって……」
「そう。トワちゃんがつけていた撫子の簪よ」
私はそう言って、静かに膝をついた。
墓前にそっと手を伸ばし、撫子の簪を添える。
さらに、小さく揺れる撫子の飾りを結びつけた。
風が吹くたびに、かすかに揺れるように。
「……この簪、小さいから、きっと遠くからだと見つけにくいでしょう?」
指先で撫でるようにしながら、続ける。
「だから、撫子の花を添えたの。揺れるようにして……これなら、天国でもすぐ見つけられるかなって……思って」
哀伝はその揺れる花を見つめ、静かに息を吐いた。
「……うん。トワならきっと見つけるよ。杏歌の想いも、ちゃんと届く」
しばらく、言葉のない時間が流れた。
ただ風だけが、墓前を静かに通り抜けていく。
風は、静かに季節を運んでいった。
祈りも、別れも、想いも。
すべてが、この国の中で確かに生きている。
桂ノ国は今日も、人と共に歩み続けていた。
やがて──長い歳月が流れた。
私たちは桂ノ国を築き上げるため、日々を重ねていった。
小さな揺らぎも、痛みも、すべてを抱えながら。
そしていつか──その先で、もう一度、再会を果たすことになる。




