第104話 元の世界で
【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―
きらきらと眩しく、黄金に輝く光。
柔らかな光に包まれた、ひとつの星。
果てなく広がる静寂の中に、私の怒鳴り声が響いた。
「トワーー!!あんたいい加減にしなさいよーー!!私たちが、どんな気持ちであんたのこと探してたと思ってんのよーー!!」
その声に、トワは少し困ったように目を伏せ、静かに息をつく。
「ごめん、杏歌。気がついたらあそこにいて……体が勝手に動いちゃってて……」
その言葉を聞いた瞬間、私はたまらずトワを強く抱きしめた。
「……ごめんね、トワ。一度もトワに会いに行けなくて……私が、悪かったわ……」
「……何言ってるの。杏歌は、桂ノ国を守るためにずっと頑張ってたんだもん。……それに、心配かけてごめんね」
トワはそう言って、私を抱きしめ返す。
しばらくの沈黙のあと、トワは小さく呟いた。
「……お菊さんは……大丈夫だったかな……私……その……」
視線を落としたままのその言葉に、私は静かに応える。
「……もちろん、知らせたときは悲しみに暮れていたわ。でも、お菊も少しずつ元気を取り戻して、お手伝い係の仕事に向き合ってくれていたの」
その言葉を聞いて、トワの表情がふっとほどけた。
安堵のような、わずかな微笑み。
私たちは、ようやく再び巡り会えたその温もりを、確かめるように抱きしめ合っていた。
「ちょっと二人とも〜、僕たちのこと忘れてない〜?」
軽やかな声に、ふっと現実へ引き戻される。
「まぁ哀伝、いいではないか。杏歌とトワは、久しぶりの再会なのだからな」
その言葉に、私たちはゆっくりと振り返った。
そこには──哀伝、栄善、七左衛門、そして団丸の姿があった。
変わらない、懐かしい顔ぶれ。
ここは、燦然の柔星。
私たちが本来在るべき場所。
そして──ずっと共にあった世界。
私たちは、知っている。
この星へ還るまでの、長い道のりを。
それぞれの人生を生きるために、幾つもの世界へ降り立ち──その中で出会い、喜びや悲しみを重ねながら、ここでの記憶を手放してきたことを。
そして。
その生を終えた魂は、再びこの場所へと還ってくる。
七左衛門が、くくくっと喉の奥で笑った。
「それにしても……トワだけ別の惑星に行くなんてな」
それを聞いた団丸は、豪快に笑い声を上げる。
「本当だなー!トワはどじなんだな!がははははー!!」
「本当よー!!トワ、あんたなんで別の惑星に行くのよーー!!」
──再び、私の怒鳴り声が響いた。
「うっ……みんな、そんな大きな声で言わないでよ〜」
「ぷはははは〜!みんなトワのこといじりすぎでしょ〜!杏歌は、怒りすぎて面白いんだけど」
「くすくす、本当であるな。トワはおっちょこちょいであるからな」
そのやり取りに、いつもの空気がふっと戻っていく。
「杏歌なんか、トワのこと、“トワちゃん”なんて呼んでたんだよ?本当、笑っちゃうよ〜」
「なによ、哀伝!あんた私に締められたいわけ〜!?」
言い合いを始める私と哀伝。
その様子を見て、トワは口元に手を添え、くすりと笑った。
「ふふふっ。杏歌と哀伝のやり取り、久しぶりに見られて……なんだか嬉しいな」
そんな柔らかな声に、胸がじんわりと温かくなる。
「……あぁ、そうだったわ。トワは私の癒しだったのよ」
その様子を見ながら、哀伝がにひひっといたずらっぽく笑う。
「杏歌〜、トワは栄善の大切な人なんだから、襲わないでよ〜」
「そんなことするはずないでしょー!さっきから、私のことなんだと思ってんのよー!」
みんなが私たちのやり取りを笑っている。
その輪の中で、私はトワを抱きしめたままだった。
腕の中のトワも、くすくすと笑っている。
小さな頭が揺れるたび、髪に飾られた簪が、かすかに揺れた。
「……トワ、その簪。見つけてくれたのね」
「うん、ありがとう杏歌。ここまで届けてくれて……この簪、栄善からもらったすごく大切なものだったから、本当に嬉しかった」
トワは頬を緩め、静かにそう言った。
「それに、この撫子の揺れる飾り……すごく可愛くて、すっかりお気に入りになっちゃった。これがあったから、ここでもすぐに見つけられたんだよ」
そのトワの表情に、私は胸が熱くなる。
「……あんたって子は、どこまで可愛いのよ……!」
そして私は、再びトワを強く抱きしめた。
「やめろ杏歌ー!トワが潰れるぞー!」
「ぷはははは〜!団丸、顔!顔!」
「くくくっ、なんて顔してんだよ、団丸」
「くすくす。愉快であるな」
私たちは、顔を見合わせて笑い合った。
長い時を経て、ようやく巡り会えたというのに──そんなことさえ忘れてしまうほど、そこにはいつもの時間が流れていた。
「私とトワは、別の惑星に降り立ってきたのだ」
「どんな惑星だったんだ!?楽しかったか!?」
トワは小さく笑って、視線を巡らせる。
「ふふふっ。すごく楽しかったよ。でも、その前に……みんなの話、聞きたいな」
「哀伝、聞かせてやろうぜ。俺たちの物語をさ」
「いいね、七左衛門〜。二人ともいい〜?あのあと、大変だったんだからね〜」
私たちは、これまでの出来事を少しずつ語っていった。
笑いながら、時には涙をにじませながら。
そしてその時間は、確かに「帰ってきた」という実感だけを残していく。
「……蛍火に、会えると思ったんだけどな……」
「……ここはとてつもなく広いからね。でも、蛍火もきっとこのどこかにいるよ。もしかしたら、もう別の惑星に降りてるかもしれないよ?外の世界を見ること、楽しみにしてたからね」
「……えぇ、そうね!」
やがて団丸が、弾む声を上げた。
「よーし!じゃあ次に降り立つ惑星はあそこだー!みんなおいらに続けー!」
「団丸、お前行くの早すぎるんだよ。トワがはぐれた原因は、間違いなくお前だな……」
「くすくす。七左衛門の言う通りであるな。だが心配ない。トワの手を、私はもう決して離さない」
「ふふふっ。私ももう、一人でどこかに行ったりなんてしないから、安心してね」
その様子を、私は静かに微笑んで見つめていた。
やがて哀伝が、そっと手を差し伸べる。
「杏歌、行くよ!」
私は満面の笑みで、その手を握り返す。
「ええ、次の惑星も楽しみね!」
次はどんな物語が私たちを待っているのだろう。
私たちはまた、新たな惑星へと降り立つ。
──蛍火にも、会えるといいな。
けれど私たちはまだ知らない。
この星が── “限られた魂だけが還る場所”だということを。
─第二部・了─
(第三部へ続く)




