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第10話 僕の決意―お父上の言葉―【哀伝編】

【第二部】遺志を継ぐ者たち―巡―

僕は昔から、なんでもできた。


御用貿易商人の家系で育った僕は、将来商人の道を歩むため、幼い頃からいろいろなことを学ばされてきた。


政治、外交、情報──本当に学ぶことは多かった。


だけど、僕にとっては朝飯前だった。


その中でも、特にお父上が力を入れていたのが武術だった。


「商人に武術って関係あるの?」って思ったでしょ。


でも、お父上は言った。


「武術は集中力や洞察力を鍛える。それは商人にも必要な力だ」


そうして僕は、日々鍛えられていった。


何より、お父上が武術を重んじた理由は──大切な者を守るためでもあった。


***


まだ見習いだった僕は、いつものように訓練隊の大人たちを相手に、稽古に励んでいた。


「……まっ、参りました、哀伝(あいでん)様!」


「すげーな、哀伝!こんなに大勢の大人を相手にして。おいらも哀伝を見習って強くなるぞー!」


「本当にすごいな、哀伝。お前のその細身の体からは、想像もつかない強さだぜ。それにお前の戦い方って、なんか綺麗なんだよな。これはもう才能だな」


「へっへ〜ん!こんなの僕にかかれば朝飯前だよ〜。もう終わり?僕、あきちゃった」


「こらー哀伝!あんた法令の勉強さぼったでしょー!柚寧(ゆね)に叱られるの、私なんだからねー!団丸(だんまる)七左衛門(しちざえもん)も哀伝を甘やかさないでー!」


拳を握りしめて、ぷんすか怒りながらこっちに向かってくる杏歌(きょうか)


「だって法令の勉強、僕には簡単すぎてつまんないんだもん。それなら僕は、体を動かしてた方がいい〜」


「簡単ですって〜!?なんであんたはいつもそんなに余裕なの〜!?」


今にも頭が爆発しそうな杏歌を、団丸と七左衛門が宥めて連れ去っていった。


「……ったく、お前は法令の勉強さぼってここに来たのか?」


春風(はるかぜ)の声には、呆れが混じっている。


「春風!だって分かるのに勉強する意味が僕にはわからないよ。それより春風、僕の相手になってよ。戦術担当の春風と対戦してみたかったんだよね〜」


「しょうがないな。なら私が鍛え上げた戦術を叩き込んだ訓練部隊の部下たちが相手だ。部下たちを倒せたら、次は私が相手をしよう。容赦しないからな」


「へっへ〜ん、この僕に勝てるかな〜?」


僕は、軽く笑ってそう言った。


心の中ではもう勝負が決まっている。


だって僕は強いんだから。


そのとき、背後から声がした。


「哀伝、春風。なかなか面白そうなことをしているじゃないか。どれ、私に見せてくれないか。私の息子の戦いぶりを」


お父上の声だった。


僕は、わくわくが止まらない。


「お父上、見ててね!僕、すごいところ見せてあげるから!」


そうして交えた一戦。


──僕の圧勝だった。


「まっ、参り……ました……」


「ふざけているように見えるのに、どうしてこんなにお強いのです、哀伝様……」


「へっへ〜ん!どんなもんだい〜!」


僕は仁王立ちをして、誇らしげに胸を張った。


嬉しくて、近くにいたお父上と春風の元へ駆け寄る。

 

「お父上、どうだった?僕の戦いぶりは。僕、強かったでしょ?」


「あぁ、すごかったな。哀伝、よくやった。さすがは私の息子だ。綺麗な戦いぶりだ」


お父上は、嬉しそうに僕の頭を撫でた。


僕もお父上が喜んでくれたことが嬉しくて、自然と笑みがこぼれた。


だけど、お父上はこんな言葉を僕に残した。


「しかしな、哀伝。お前、あらゆる勉強をさぼっておるだろう。武術に関しても」


そう。


僕は、あらゆる勉強をさぼっていた。


武術も、真剣には学んでいなかった。


だって僕は強いから。


もう学ぶことなんてないもん。


「哀伝、お前は何でもさらっとやってのける。その才能は、誇っていい。だがな、武術は……そう簡単なものではない」


なんで?


武術なんて簡単じゃん。


だから僕は勝ってるんだよ。


お父上は、言葉を続けた。


「お前は確かに強い。だが、実戦では力だけでは足りん。相手の気持ちや場の空気を読む力が必要になる」


……なんで?


戦うのに相手の気持ちとか、空気を読む必要があるの?


強ければそれで勝てるじゃん。


現に、僕はこうして勝ってる。


そんな僕の疑問を置き去りにするように、お父上は静かに言葉を続けた。


「一瞬の表情、呼吸、ほんのわずかな隙──そういう“見えないもの”を極められないうちは、大切な者も守れぬぞ、哀伝」


お父上は、僕の頭にぽんっと手を置いて、それ以上何も言わず、この場を後にした。


このときの僕は、まだ何も分かっていなかった。


お父上の言った言葉の意味を──その重ささえも。

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