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花嫁に逃げられた侯爵と花売り娘、辺境で無双する  作者: ユーコ
第一章 花嫁に逃げられた花婿と花売り娘

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15.館の魔法具捜し

 オズワルド達十名は、早朝、領主の館を立ち、魔境へと向かった。戻るのは翌日の夕刻だ。

 その間、半分の兵は万が一に備えた待機中で、残りの半分の兵も野外の活動は中止する。

 そこでリリは手が空いた兵と使用人達に館の魔法具捜しをお願いした。

 リリが見つけたのは、自室と館の外壁にあった魔法具。

 館には他にも魔法具が眠っているかも知れない。

 それを手分けして探し出す計画だ。

 オズワルドに同行したイーデン・イーリーを除く、残留組のオズワルド直属の部下、アンドリュー・アクロイド、ウォーレス・ヴォーン、エイルマー・エマーソンの三人の全員が乗り気で、手伝いたいと名乗りを上げた。彼らの部下と使用人、総勢五十人が集結し、家捜しが始まった。



「奥様ー、これは違いますか?」

 掃除担当の使用人が倉庫から運んできたのは、大きな筒状の物体だった。

 丸太くらいの径があり、高さは人の背丈くらいとかなりの大きい。金属製で長年放置されていたせいで色はくすんでいた。

 外側に黒い石が真ん中に一つ、上部に一つ、計二つ付いている。

 黒い石は木炭に良く似たパッとしない色合いで、一見すると泥の塊がへばりついているようにしか見えない。

「おっ、見つかりましたか、どれどれ」

 リリは筒状の物体に近づき、黒い石に触れると石は砂と化して消えてしまった。

「間違いない、使用済みの魔石ですね」

 うんうんと頷いた後、リリは発見者に聞いた。

「これ、どこにありました?」

「そこの倉庫です。昔は病室に使っていた部屋です」

 それを聞いたリリは目を輝かせた。

「病室! これ、もしかして私が探してたやつかもしれません。お手柄お手柄。次の焼き肉パーティーの時、一番最初に肉、食べてください」

 リリが褒めるとまだ若い使用人は喜んだ。

「ありがとうございます!」


「リリ様、これは?」

 ウォーレス・ヴォーンが興味深げに質問した。

「医療系の魔法具かも知れません」

「医療系の魔法具? そんなものがあるのですか?」

 医官であるエイルマー・エマーソンも覗き込んでくる。


「昔はそういうものがあったと老師から聞いたことがあるんです。さて、上手く動くかどうか……」

 リリはそう言いながら、ポシェットから赤色の魔石を取り出し、筒の中心に書かれた魔法陣の上にはめ込んだ。

 オズワルド達が持っている魔石は三つ。オズワルドはそれを全てリリに預けていた。


 赤の魔石は上手くはまったが、まだ魔法具は沈黙したままだ。

「お次はこちら」

 リリは上部の魔法陣に魔石をはめようとした。

 これまで魔法陣に近づけただけで、魔石はピタリとはまったのだが、赤の魔石はポロリと落ちてしまう。

「……壊れているのでしょうか?」

 戦場ではないものは作るしかない。資材調達担当であるウォーレスは、馬の蹄鉄作りから剣の研ぎ直しまで何でもこなした。

 そんなウォーレスは魔法具に興味があるようで、リリに盛んに質問する。


「いえ、多分ですが、色が合わないんです。魔法陣の真ん中だけ緑色で書かれていますよね」

 そう言ってリリは魔法陣を指さした。

「あ、はい」

 ウォーレスは覗き込んで、頷く。


「これ、多分指定の色でないと動かないという意味です」

「なるほど」

 ウォーレスは深く感心した後、少し考え込んだ様子で黙り込む。ややあってウォーレスはリリに質問を投げかけた。


「リリ様、魔石は魔法具の動力源ですよね。さらに現在もですが、五十年前の記録では高額で取引されていた」

「はいそうですね」

「なぜ魔石が外側に着いているのでしょうか? 機構にとって重要なものなら我々は内部に入れ込みます」

 リリも「ふむ」と首をかしげた。

「確かにこれが外側に着いている理由がありそうですね。私にもはっきりした理由は分かりませんが、一つは魔石が消耗品だから、だと思います」

「消耗品?」

「はい、消耗品です」

 見かけが宝石なので、なんとなく半永久的に使えそうに見える魔石だが、館に残された過去の帳簿を見るとこれは明らかに消耗品だ。


「短いものなら一年。長くて十年くらいで交換してます。すると外側にあった方が便利ですよね」

「なるほど」

「魔法具を稼働させるため、魔境から魔石をバンバン採ってバンバン使っていたのだと思います」

「だから供給が止まるとすぐに魔法具は稼働しなくなったというわけですか」

 ウォーレスは感心したように顎をさする。

「と、推測します」

「随分金食い虫の装置だったようだ」

 ウォーレスは軽口を叩きながら、魔法具をトンとつついた。


 五十年ほど前の老師の現役時代は使われていたという魔法具が、今はまったく使用されていないのはそういう理由だとリリは考えている。

 魔石の供給が止まるとたった五十年でほとんどの魔法具が使用出来なくなってしまったのだ。



「それで、リリ様、この魔法具はどんな作用を持つ道具なんでしょうか?」

 エイルマーは医者魂が騒ぐのか、うずうずしながら質問してきた。

 リリは筒の上部を指さす。

「ここに魔法文字で『生命維持』と書かれています」


「『生命維持』ですか。もしや延命の効果があるかも知れません」

 エイルマーは興奮気味に声をあげる。

「この魔法具が稼働出来れば、重体の連中が助かるかもしれないということか」

 普段は冷静沈着なアンドリューも色めき立った。

 他の兵士達も息を詰めて見守っている。

 療養中の戦友達の生死がかかっている。


 リリはしばらく筒のあちこちを見回した後、集まっていた兵達に言った。

「呪文は書いてないですね。使い方は、魔石をはめ込んだら、自動的に作動するタイプのようです」

 リリの一言にその場にいた全員がどよめいた。

「そんな便利なものが……」

「さすが魔法具」

「どういう仕組みなんだろう?」

「では緑の魔石さえ手に入れられたらこれは使えるんですね」


「緑の魔石が手に入ったら、ですけどねー」



 午前中の捜索では倉庫から同じタイプの魔法具が二つ見つかった。

 そこで一旦、一同は休憩がてら、昼食を取ることにした。

 昼食は猪肉のシチュー。

 猪は兵士達が一日前、近隣の山で捕ってきたものだ。

 今まで危なくて人間が入ることが出来なかったエリアだが、魔獣が減ったので、多少安全になり、見回りと狩りが出来るようになった。

 猪肉は野性味の強い豚の味だ。赤身は味が濃く、少し硬いがよく煮込むととろけるような舌触りになり、とても美味しい。


 昼食の最中、アンドリューはリリに少し改まった口調で尋ねた。


「リリ様、質問していいですか?」

「はい、なんでしょう?」


「以前リリ様がおっしゃっていたソル種とルナ種というのはなんなのでしょうか?」


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