表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花嫁に逃げられた侯爵と花売り娘、辺境で無双する  作者: ユーコ
第一章 花嫁に逃げられた花婿と花売り娘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/19

13.館の魔法具

「魔石?」

 言われてみると「その通り」だがそれが一体何を意味するのか、オズワルドも二人の部下も考えあぐねた。

 リリはただ得意そうににんまりしている。


 沈黙が部屋を包み込んだその時――。

 コンコンと執務室のドアがノックされる。

「失礼しますだ」

 老人らしいカピカピの震え声。スネルじいさんである。


「旦那様、おやつをお持ちしました」

 スネルじいが三時のおやつを持ってきたようだ。


 エイルマーがティーカートを引いた老人を室内に通し、スネルじいはお茶の準備を始める。

 オズワルドの執務室にはお茶が飲める応接スペースがあり、全員そちらに座っておやつを食べることにした。

 オズワルドは見てるだけだが、リリ達は手分けして紅茶と茶菓子の皿を用意する。

 しかし、「奥様や将校様にそんなことはさせられません」と言うのでお茶を淹れるのはスネルじいの担当だ。

「どうぞ……」

 スネルじいの手はブルブル震えていたが、奇跡的に紅茶はカップからこぼれることなく、無事に全員分を淹れ終わると、「失礼しますだ」とスネルじいは一礼して去って行った。

「ふぅ」

 一連の動作を固唾を呑んで見守ったリリは大きく息を吐いた。

 心なしか、やり遂げた感がある。主に見てただけなのに。

 緊張が緩んだ後のお茶と茶菓子は美味しかった。

 茶菓子といってもクッキー一枚だが、今まではそんなものすら食べられなかったので、皆喜んでいる。

 お菓子の材料費は、ポーションを売った利益で賄われていた。そのため館でのリリの評判は抜群に良いのだ。


 クッキーに齧り付くリリに、オズワルドは問いかけた。

「菓子など食べて具合は大丈夫なのか?」

「はい、食欲にはあまり影響ないようです」

「なら先程の続きを話すぞ。魔石がその風土病を抑えるということか?」


「ほぼ当たりですがちょっと違います。魔石ではなく、魔石を使った魔法具が風土病を抑制するのに使われていたのです」

「魔法具?」

 魔法具は魔石を使った一種の装置だが、非常に貴重なので、一般人が目にする機会がない。

 リリの口から唐突に出てきた『魔法具』という言葉にオズワルドが怪訝な顔をするのも無理はない。


「閣下は、館の屋根の四方にガーゴイルの像があったのを覚えてますか?」

 オズワルトはリリに言われて初めてそんなものがあったことを思い出した。

「……あったな。だがあれは大きな館には大抵あるのではないか?」

 ガーゴイル像は翼を持つ奇妙な怪物の姿をしている。

 魔を祓う魔除けとして屋根などによく飾られている意匠の一つだ。

 ついでにあれは実用品でもあり、ガーゴイルの口は雨水を逃がすための排水口にもなっている。


「はい、大抵ありますネ。でもあれ、昔の特徴が残った旧タイプなんです」

「ここはかなり古い建物らしいからな」

 かれこれ五百年以上前の建物らしい。

 旧タイプとやらが残っていてもおかしくはない。


「ガーゴイルの胸元にくすんだ黒い石のようなものがはまっていたのですが、気付きましたか?」

「ガーゴイルの胸元か」

 オズワルドは思い返してみたが、屋根の上の意匠一つにそこまで注意を払っていなかった。

「……あったようななかったような。お前達は覚えているか?」

 と部下の二人に聞いた。

「覚えておりません」

「申し訳ありません、私もです」

 と二人も覚えていないらしい。


「あれはただの石ではなく、力を失った魔石です。ガーゴイルは元々魔素を中和して空気を綺麗にする魔法具なんですよ」

 いつでも不遜なオズワルドだが、本気で驚いた様子でリリに聞いた。

「魔法具があんなところにあったのか?」

「魔法具って今は珍しいけど、昔はそこまで珍しくなかったそうなんですよ。ラカンタル教会にもありました。もっともあちらのガーゴイルも胸の魔石は力を失った状態でして、私も稼働しているガーゴイルは見たことがありません」


 魔石が何なのか、実はその正体は分かってない。

 少なくとも宝石程度の硬度があると言われていて、頑丈なものらしい。

 しかしオズワルド達が魔獣との戦闘中、魔石を破壊したように、ハンマーのような硬い武器で殴りつければ粉砕することが出来る。

 また、魔石の力が失われると色が黒ずみ、もろくなるそうだ。


「領主の館のガーゴイルはすべて力を失った状態で、魔石を入れ替えないと魔法具としては機能しません」

「では、魔石を捕ってくればいいんだな」

 リリはぶんぶんと大きく首を横に振った。

「いえいえ、見れば分かりますが、ガーゴイルに使われている魔石はかなり大きなものです。あれほど大きな魔石は魔境内部に入らないと採取出来ないでしょう」


 オズワルド達はあれから何度も魔獣狩りを成功させている。

 だが、魔石を傷つけずに魔獣を倒すのは難しく、完全な状態の魔石はまだ三つしかない。

 魔石はどれもリリの親指の爪より少し大きい程度のサイズだ。

 ガーゴイルの胸元の魔石は握りこぶし大だから、数も足りなければ、大きさも合わない。


「では今すぐ魔法具を作動させるのは無理だな」


「そうですね。それは追々。で、閣下にお願いしたいのは、別件でして」

 そう言いながら、リリはポケットから以前オズワルドから渡された魔石を取り出した。

「閣下からもらったこの魔石、使ってもいいですか?」


「それは君にやったものだ。好きに使え。だが、何に使う気だ?」


「こちらをご覧下さい」

 リリはまたポケットに手を突っ込み、魔石を持っていない方の指でつまんだ『それ』をオズワルド達に見せた。


「それは……指輪か?」

 指輪のように見えるが、宝石は既に外されており、今は台座の部分しかない。

「これは領主夫人の居室にあった古い宝石箱の中で発見しました。台座の部分に魔法陣と魔法文字が記されています。おそらくですが、これは指輪型の魔法具です。魔法文字の意味は『身を守る光』。護身の魔法具だと思われます。ちょうどあの石がピッタリ合うんです」


「それが、例の風土病に何の関係がある?」

「先程説明しましたが、私の体質は体内に闇の魔素が溜まると毒になるというものです。つまり……」

「つまり?」

「何らかの形で闇の魔素を排出してしまえばいい。魔石は私の体内にある魔素を使い、光として発出する。つまり、武器兼風土病対策器なんです!」



 興奮気味に力説するリリに対し、オズワルド達は呆気にとられている。

 魔法具に今までまったく縁がなかったオズワルドはまだリリの話に懐疑的だった。


「君にやったものだから、指輪にでもなんにでもするがいい。だが、君は何を知っている?」

 オズワルドはリリをにらみつけた。


「この短期間に君は魔石の使用方法を解明し、館の魔法具を見つけ出した。そして、その指輪だ。君はどこまで知っていた?」

「もしかして、老師の手記に私が閣下に伝えてない秘密の情報があったとお疑いで?」

 カヴァナー老師の手記はオズワルド達に読むことが出来ない。そこでリリは手記の内容を書き写した複製手記をオズワルドに渡した。

 代わりにオズワルド達はリリに自分達の持つ資料を閲覧させ、館の図書室の閲覧を許可した。

 オズワルドは頭を振る。

「いいや。だが、君が僕達に話した情報が『すべてだった』とは思えない」

「私も閣下達と同じくらいの知識しかありませんでしたよ。ただ、そうですね、お伝えしてない情報は三つありました。この館に魔法具があるかも知れないということと、私が魔法文字を読むことが出来ること、そして私とカヴァナー老師が同じ闇属性の魔素が毒になる体質だったということです」

 魔法具は見つけられるのか分からなかったので、報告は後回しにした。

 魔法具が見つからなければ魔法文字が読めることに意味はない。

 体質の方も推論でしたかない。リリとしてはオズワルドに言うべきか、こちらも判断が付かなかったのだ。


「その体質というのは、調べられるのか?」

 オズワルドはリリに質問した。

 今まで聞いたリリの話の中で、一番重要なのは、この体質のことかもしれない。

 風土病は何から何まで分からないことずくめだが、もし風土病に罹る条件が判別できれば、解明の糸口になる。

「はい。古い教会の神父様は皆判別の方法をご存じです。ですが、今はほとんどの教会で表立ってはこの体質の判定をしてないのです。ラカンタル教会でも希望するごく一部の信徒のみに判別結果を伝えています」

「何故?」

「体質を理由に差別があったと聞いています。後は、都市部では体質を知っているメリットがないからですね」

「はっきり言え。君と老師が同じ体質だからなんだというのだ?」

 苛ついたオズワルドが怒鳴るように問いかけると、リリはニヤリと笑った。

「おや、気付きませんか? 彼はもっと魔素の濃い魔境内部に立ち入ったと手記に記されています」



 オズワルドはリリに言い返した。

「……老師は神聖魔法を使えたと言ったな。彼は魔法使いだから魔素から身を守ることが出来たんじゃないのか?」

 オズワルドには魔法で何が出来るのか分からないが、魔法使いなら風土病を治すくらいのことは出来るだろう、魔法使いなんだし。


「老師は確かに魔法を使えましたが、回復魔法は使えなかったそうです。それに、閣下、手記を思い出してください。当時は冒険者が魔境を探索していた」

 オズワルドはようやく合点がいった。

「ああ、冒険者は風土病を克服出来ていたということか?」

 冒険者達全員が魔法使いだったとは考えづらい。

 当時は何らかの方法で風土病を克服していたと考えた方が自然だ。

「そうです。先程お伝えした通り、当時と今の違いは、魔法具です」

 そういう訳でリリは、魔境にほど近いこの領主の館に魔法具が残ってないか徹底的に探したのだ。


「で、魔石を使っていいですか? 実験が上手くいくかどうかは私にも分からないので最悪魔石を壊してしまうかもしれません」

「好きに使え。だが、実験するなら僕も見たい」

「私も同席させてください」

「私も」

 オズワルドに続いて、アンドリューやエイルマーも名乗りをあげた。


 だがリリは難色を示す。

「えー、ちょっと危ないかも知れませんよ」

「そんなに危険な実験なのか?」

「分かりませんが、魔法具の効果は『護身』ですからね、多少の他害の可能性はあります」

「身を守るものとはいえ武器の一種か。それはなおさら見たい」

 リリの説明を聞いて、オズワルドはますます興味が湧いたようだ。


 早速リリ達は人気のない裏庭に行き、実験を開始した。

 実験といっても、指輪に魔石をはめ込み、呪文を唱えるだけだ。

「使い方は知っているのか?」

「魔法具は大体本体に呪文が記されているんです。指輪もリングの部分に古い言語で『光線(ラディウス)』と彫り込まれてました。これが発動の呪文だと思います」


 一体何が起こるのか、それはリリにも分からない。

 念のためオズワルド達には離れてもらい、リリは指輪をはめた方の腕を出来るだけ前に突き出した。

 こうすることによって、万一指輪が暴発しても、怪我は腕一本で済む……かも知れない。

 大きく息を吸い込んだ後、魔法の呪文を唱えた。


「ラディウス!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ