巨大廃墟サバゲと謎の失踪事件
攻撃には防御の3倍の勢力が必要と言われる。それを体感できるゲームに参加する黒木美津子と澤登亮。
そして葛城裕太を含む謎の失踪事件が起き、公安も動く事態とは。彼等はいったい・・・
第十一話 〈廃墟ヘルスセンターサバゲと謎の失踪〉
北関東の山奥に沈む巨大廃墟――かつて健康ランドとして栄えた「ヘルスセンター」は、今や崩れた壁と剥き出しの鉄骨、そして無数のBB弾痕に覆われた戦場と化していた。
スタイルの良い女優に似ていると言われるゴーストスナイパーこと黒木美津子、47歳。今回も通称山猫と呼ばれる澤登亮の誘いで廃墟を利用したサバゲに来ていた。
銃はいつものスナイパーライフルL96、ハンドガンはシグP226、接近戦用にアサルトライフルのFAMASを持っている。
澤登亮、50歳、MS700狙撃ライフル、コルトガバメント1911 だが彼は一日ワンショットを楽しむスナイパーだ。
アナウンスで昼メシ後にミニゲームが行われるという。
少人数対150名で15分間生き残れば勝利だそうだ。
セーフティでくつろいでいたら聞きなれた声がした。
あー、いたいた!
葛城裕太だ。
やっぱり黒木さんいた、午前中のゲームで姿が見えないスナイパーがいるって話が出てたからもしかしたら?と思ったんですよ。
美津子は苦笑いした。
で?素っ気なく美津子が促す。
この後のミニゲーム、一緒に即席少数チーム組みません?
黒木さんが入れば6人対150人、楽しめそうじゃん?
「えー!」
普通に考えて勝てる見込みがない。 美津子は呆れた が、澤登が興味を示した。
「撃ち放題ってことですね?」
「そうです、撃ちまくり出来ますよ。」
「6人しかいないんじゃ撃たれまくりになるでしょ!?」美津子が言う。
「いや、このフィールドだからできる戦術をタクトレで龍崎さんから聞きましたよ。」
澤登にしては積極的な意見を出してきた。
「そちらの方も一緒にどうですか?」葛城が澤登を見つめた。
結局、葛城が声を掛け集まったのは総勢7人
「映画荒野の七人みたいでかっこイイじゃないか!」葛城裕太は嬉々としていた。
二人ペアを3組にし、階下を狙える階段踊場、大窓を狙える位置、進入できる小窓がある部屋入口の3ヶ所を守ればこの広大なフロアといえども防御可能だと龍崎猛から澤登亮は聞いていた。
ゲーム開始まで10分の作戦タイムが与えられた。
七人は防御可能なフロアに上がって下見した。
確かに進入口は3ヶ所しかない。 しかも3組が相互支援できる距離感。
35M四方なのでなんとかなる。
ルールでは守備側は武器の数や弾の制限はない。
多人数側は50人近い、ヒットされても3回まで復活、代わりに弾数はリアル弾数だ。
<第四フロア:死のキルゾーン >
彼らが陣取ったのは、広大なヘルスセンターの最上階。
作戦はこうだ「三つの特異点を封鎖し、火網を形成する」。
1. 第一陣地:中央大階段の踊り場
階下から押し寄せる大群を、高所から叩き伏せる。
2. 第二陣地:西側の大窓対面
外階段から侵入を試みる敵を、フロアの奥行きを活かして迎撃する。
3. 第三陣地:バックヤードの小窓通路
唯一の死角となる狭い入り口を、至近距離で掃討する。 「ペアで各ポイントを死守。残りの一人は遊撃だ」 澤登の指示に、他の5人は頷いた。
二人は最も広範囲な視界を要求される「大窓」の担当となった。
「ルールを確認するわ。私たちは弾数無制限。向こうは一人3回まで復活可能で総勢150人勢力。
ただしリアルカウント制限……つまり、一マガジン30発程度しか持てない」
美津子がL96をバイポッドで固定する。
「数は暴力だが、弾幕は張れない。一発の重みは、こちらが上だ」
澤登がコルトガバメント1911をホルスターから抜き差しし、感触を確かめた。
「開始5分前!」 階下からは、150人の高揚した怒号が地鳴りのように響いてくる。
<開戦:15分間の地獄>
「……来たわ」 美津子のスコープの中に、色とりどりの迷彩服が映り込んだ。
ホイッスルの音と共に、廃墟が震えた。
「撃てッ!」 龍崎の号令が飛ぶ。
中央階段から駆け上がってきた先鋒の集団が、踊り場からの集中砲火に晒された。 「ヒット!」「ヒットォ!」 次々と手が上がるが、彼らにはあと2回の命がある。
倒れたそばから後続が乗り越え、文字通りの人波となって押し寄せる。
「こっちも来るぞ、美津子さん!」 澤登のMS700が火を噴いた。
35メートル先の窓枠に手をかけた敵兵のチェストリグを、正確にプラスチックの弾丸が叩く。
美津子は静かに息を吐いた。
ボルトアクションライフルL96。
一発撃つごとに、手動で次弾を装填しなければならない。圧倒的な数的不利において、本来なら自殺行為だ。
だが、彼女には「FAMAS」がある。 「近寄らせないわよ……!」 接近を許せば、フランス製のブルパップライフルが牙を剥く。
「弾幕! 左の遮蔽物に固まってるわ、澤登さん!」
「了解、掃出し窓の連中を掃除する!」 二人のライフルが交互にリズムを刻む。
澤登のMS700が外縁を削り、美津子のL96が指揮役と思わしき者のヘルメットを貫く。
「残り10分!」 葛城の叫びが響く。
戦況は混沌を極めていた。階段側では凄まじい制圧射撃を見せているが、敵も学習し始めていた。数名が犠牲になりながら、リアル弾数の火力を集中させ、少しずつ前線を押し上げてくる。
「くそっ、弾切れだ! マグチェンジ!」 階下から叫び声が聞こえる。
「今よ!」 美津子はL96を置き、傍らに立てかけていたFAMASを手に取った。 「ラ・クレロン(トランペット)の音を聞きなさい!」 凄まじいサイクルで放たれるBB弾の豪雨が、窓から侵入しようとした一隊を根こそぎ「ヒット」の列に送り返した。
<最終防衛:誇り高き七人>
「残り3分! 弾を惜しむな!」 葛城の怒声が、硝煙の匂い(といってもサバゲだが、参加者にはそう感じられた)の中に響く。
敵の復活回数が尽き始め、戦場には脱落者が溢れていた。
しかし、生き残った「3回目」の兵士たちは、もはや狂乱に近い突撃を仕掛けてくる。 「美津子さん、左の出入口を頼む! 俺は右を叩く!」
澤登がMS700のボルトを激しく動かす。
第一陣地である階段踊り場の味方がヒットされた。
続いて第三陣地も崩れた。
おりゃー! 葛城が特製発泡スチロールのバズーカーを構えた。
ガス圧で発砲スチロールの弾丸が飛びだす。
バシュー!ヒューン
放物線を描いて飛んだ疑似弾が、階段の踊り場付近で炸裂(判定)する。 「うわっ、なんだこれ!」「バズーカだ!」 敵陣に動揺が走る。
押し寄せる敵に向かって長躯飛ぶ様は見ている者全員が驚き動きを止めた。
壁面にポン!と当たった時、その付近に固まっていた敵が爆発のリアクション如く吹っ飛んだ。
二方面から葛城は集中砲火を食らうはめになった。
まさに蜂の巣のように撃たれ、もはやオーバーキル以上の悲惨さだったが、葛城は嬉しさで吠えていた。
美津子はFAMASの弾が切れたのでシグP226を抜き放った。
「もうムリかも、耐えられない!」
「残り1分です、もう少しだ!」
「弾切れだー!」澤登は立ち上がってバリケードから弁慶よろしく両手を広げ立ちはだかった。
ヒットー!
**ピーーーッ!!** 終了のホイッスルが、静寂を呼び戻した。
「……終わった?」 美津子はマガジンを引き抜いた。
弾は3発しか残っていなかった。
「ああ。15分、守りきったな」 澤登が言った。
「150人……たった7人で止められるなんて、思ってなかったわ」
「龍崎さんの言う通りでしたね。ここは、最高の要塞だ」
「一人生き残れたので、七人の勇者の勝ちでーす!!」 拡声器からの声に、フィールド全体から歓声と拍手が巻き起こった。
廃墟での戦いから、いくらか時間が過ぎた。
あの十五分間の濃密な記憶は、まるで夢のように遠のいていたが、不思議と身体だけは覚えている。引き金を引く感触、弾が尽きる焦燥、そして最後に訪れた静寂――。
黒木美津子は、自宅のソファに身を沈めながら、スマートフォンの画面をぼんやりと眺めていた。
そのとき、LINEの通知音が静かに鳴る。
送り主の名前を見て、わずかに眉が動いた。
――渡辺未来。Ragdollのメンバーだ。
《ねえ、美津子さん。葛城裕太のこと、何か知ってる?》
短い一文だったが、どこか引っかかる響きがあった。
美津子はすぐに返信を打つ。
《えー!こないだの廃墟サバゲに来てたわよ。行方不明ってどういうこと?》
送信してから数秒。すぐに既読がつき、間を置かずに返ってきた。
《それが……他にも何人かサバゲーマーが行方不明になってるの》
美津子の指が止まる。
ただの冗談ではない。文面の向こうにある未来の緊張が、そのまま伝わってくるようだった。
《そうなんだ……何か情報があったら連絡するわ》
それ以上は踏み込まなかった。だが、画面を閉じたあとも、胸の奥に小さな棘のような違和感が残り続けた。
――葛城が、行方不明?
あの時、誰よりも騒いで、誰よりも前に出て、そして最後には蜂の巣のように撃たれて倒れた男。
あれほど生の気配に満ちていた存在が、ふっと消える。
そんなことがあるのか。
美津子は無意識に、もう一つの名前を思い浮かべていた。
澤登亮。
彼なら、何か知っているかもしれない。
すぐにLINEを開き、メッセージを送る。
《澤登さん、ちょっといい?葛城のことなんだけど――》
数分後、返信が来た。
《やはり……》
その一言だけで、美津子の背筋に冷たいものが走る。
《やっぱりって、何?》
既読がついてから、しばらく間が空いた。
珍しいことだった。澤登は、もっと即断即決の人間だ。
やがて届いた返信は、これまでにないほど慎重な文面だった。
《前々から気になってた話があるんです》
《単身者で、身寄りのないサバゲーマーが、どこかに連れていかれているって噂です》
美津子は思わず画面を凝視した。
《連れていかれてる……?何それ》
《強制なのか、本人の同意なのかは分からない。ただ、断った人間がいないらしい》
《だから追跡もできない》
その説明は、妙に現実味を帯びていた。
断った者がいない――つまり、証言者がいない。
失踪ではなく、「消えた」としか言いようのない現象。
《もう一つ、妙な話があります》
澤登のメッセージは続く。
《公安がこの件を見張っている、という噂です》
美津子は思わず息を止めた。
公安――その言葉が持つ重さは、冗談では済まされない。
ただの趣味の集まりであるはずのサバゲーと、国家機関。
その接点が、どうしても結びつかない。
《……何にしても》
《危ない話です》
《美津子さんは、この件に首を突っ込まない方がいい》
その一文で、会話は終わっていた。
既読をつけたまま、美津子はしばらく動けなかった。
静まり返った部屋の中で、冷蔵庫のモーター音だけが低く響いている。
――首を突っ込むな。
それは忠告であり、同時に境界線だった。
だが。
美津子の脳裏に、あの廃墟の光景がよみがえる。
笑いながらバズーカを撃った葛城。
弾幕の中で叫んでいた声。
確かにそこにいた、確かな存在。
それが、理由もなく消える。
そして、同じような人間が他にもいる。
単身者。身寄りがない者。
――自分はどうだろう。
ふと、そんな考えが頭をよぎる。
家族はいない。頼れる者も限られている。
条件に、当てはまっている。
その事実が、ゆっくりと現実味を帯びてくる。
美津子はスマートフォンをテーブルに置いた。
その指先が、わずかに震えているのに気づく。
恐怖か、それとも――。
「……ふざけないで」
小さく呟いた声は、思ったよりも低かった。
首を突っ込むなと言われて、引き下がるような性格ではない。
むしろ、火の匂いを嗅ぎ取った瞬間、足が勝手に踏み込んでしまう。
それが、黒木美津子という人間だった。
窓の外では、夜が深まり始めていた。
街の灯りが、どこか遠くに感じる。
まるで、自分だけが別の場所に立っているような感覚。
――誰が、何のために。
――どこへ連れていっているのか。
そして、なぜ「断る者がいない」のか。
考えれば考えるほど、違和感は増幅していく。
これは単なる失踪事件ではない。
もっと構造的で、意図的な何かだ。
そのとき、ふと一つの記憶が蘇った。
廃墟のフィールドで感じた、あの妙な視線。
ゲーム中、敵でも味方でもない、どこか遠くから見られているような感覚。
あれは――気のせいだったのか。
それとも。
美津子はゆっくりと立ち上がった。
部屋の隅に置かれたガンケースに目を向ける。
黒いケースは、何も語らない。
だが、その中には、自分の選択が詰まっている。
「……調べるしかないわね」
その言葉は、誰に向けたものでもなかった。
ただ静かに、しかし確実に――
物語の歯車は、次の段階へと動き始めていた。
黒木美津子は臨床心理士である。故に人に関心の探求心が起きる。
澤登亮に失踪事件には関わらないよう忠告されるが、余計に気になっていた。
人は他人から反対されるとそちらに気が向くように出来ていると感じるのは筆者だけだろうか。
今後の物語が気になる。




