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ゴーストスナイパーと山猫の共闘

美津子は澤登とサバゲに行く。そこにはRagdollの岩見凛が敵としていた。

ゴーストスナイパーと山猫の共闘、だがお互いは基本的には干渉せずそれぞれのサバゲを楽しむ。

第十話〈山猫は眠らない〉

<その1>

月末の夜。

スマートフォンに一通のLINEが届いた。

差出人は――山猫こと、澤登亮。

『来月のサバゲ、ご一緒できませんか?』

短い文面。だが、それだけで十分だった。

美津子の指は、わずかに止まる。

ほんの一瞬。

そして――動いた。

『どこのフィールドにしますか?』

送信。

自分でも驚くほど、迷いはなかった。

胸の奥が、少しだけ高鳴る。

(……どうして)

問いかけても、答えは出ない。

ただ――

いつもとは違う自分がいることだけは、はっきりしていた。

________________________________________

すぐに返信が来る。

『その日だけのイベントフィールドがあります。河口湖のコテージ廃墟です』

________________________________________

「廃墟……」

小さく呟く。

サバゲフィールドとしては魅力的だ。

美津子はすぐに情報を調べた。

視界の抜けと遮蔽物、そして建物内部の接近戦。

スナイパーとしても、十分楽しめそうだ。

________________________________________

フィールドの写真、地形、過去のイベント。

(装備は……いつも通りで大丈夫ね)

L96と接近戦用にFAMASとシグP226。

特別な準備は必要ない。

________________________________________

「母さん、なんか楽しそうじゃん?」

背後から声がする。

振り向くと、ゲーム機を手にした息子がこちらを見ていた。

「そう?」

「うん。スナイパートライアル前から、なんか変わったよね」

美津子は少しだけ眉をひそめる。

「何、大人っぽいこと言うわね」

「いやさ」

息子は肩をすくめる。

「いろんな人と関わるって、人を変えるんだなって思って」

その言葉に、美津子は一瞬だけ黙った

確かに。

渡辺未来と組んだこと、龍崎との出会い、スナイパートライアル。

それらが、自分に何かを残している。

だが――

「母さんは孤高の戦士が一番よ」

軽く言い放つ。

少しだけ、強がりだった。一人でいる方が楽だ。

気を遣わない、判断も迷わない。

それが、自分のスタイル。

(……そのはず)

だが。

澤登亮という存在は――

その前提を、静かに揺らしていた。

________________________________________

河口湖。

サバゲ当日。

まだ朝靄が残る時間に、美津子は車を走らせ高速道路へ入る。

空気が澄んで遠くに見える山並み。

ハンドルを握る手が、どこか軽い。

(……やっぱり楽しみなんだ)

自覚すると、少しだけ苦笑した。

途中のサービスエリアが待ち合わせ場所だ。

車を停め、周囲を見渡す。

それらしい人物はいない。

(まだかしら)

その時。

「おはようございます」

背後から声がして振り向く。

一瞬、誰かわからなかった。

フェイスペイントはない。

濡れてもいない。

だが、その目。

穏やかな雰囲気。

「あ……澤登さん?」

「はい」

軽く笑う。

五十歳。

そう聞いていた。

だが、実際に見ると若々しい。

肌の張りも良く、どこか爽やかさがある。

「サバゲ姿と全然違うから、気づきませんでした」

「ですよね」

澤登は少しだけ肩をすくめた。

「では、私の車について来てください」

そう言ってから、ふと思い出したようにポケットを探る。

「念のため、これを」

差し出されたのは、小型の無線機。

「万一離れても、多少は通じるかと」

さりげない一言。

だが、美津子の胸がわずかに揺れた。

(……こういうところ)

過剰ではない。

自然な気遣い。

「ありがとうございます」

その言葉が、少し柔らかくなる。

車列はそのままフィールドへ向かった。

到着。

________________________________________

森の奥に広がる――コテージ群。

朽ちた木造建築。

崩れた壁。

蔦に覆われた屋根。

まるで時間が止まった場所。

「面白そうなフィールドね……」

思わず口に出る。

参加者は約八十人。

「多いですね」

「廃墟は人気ですから」

澤登が静かに答える。

セーフティエリアで装備の準備をしていた。

その時。

「あ、黒木さん!」

聞き覚えのある声。

振り向くと――

岩見凛が立っていた。

「あら、こんなところで。どうして?」

「僕、普段は廃墟配信者ですよ」

凛は笑う。

「今日はサバゲしながら配信です」

「なるほどね……」

「Ragdollの仲間は?」

「バーマン(一番合戦)はボウリングで地方遠征、オセロット(進藤)は資格試験、セラ(渡辺)はワインイベント」

軽く指を折る。

「今日は僕一人です」

「そう」

「チームカラーは?」

「私は赤。あなたは?」

「僕、黄色です」

凛はニッと笑う。

「敵同士ですね。お手柔らかに」

「こちらこそ」

凛の視線が澤登に向く。

「そちらの方は?」

「僕は黒木さんのサポート役、澤登です」

「サポート役なんて、この澤登さんはスゴ腕のスナイパー山猫なの」

「彼女はチームRagdollの一人、岩見さん」

美津子が紹介する。

「ああ……」

澤登が少し目を見開く。

「この前の大会で優勝したRagdoll?」

「知ってるんですか?そうです。龍崎師匠のチームです」

「龍崎さんか……」

澤登の表情が変わる。

「えっ、師匠を知ってるんですか?」

凛が驚く。

「サバゲを始めた頃、タクティカルトレーニングを受けに行きましたよ」

「いやー、繋がるなあ」

凛が笑う。

澤登も少しだけテンションが上がっていた。

その様子を見ながら――

美津子は静かに思った。

(……繋がってる)

点と点が、線になる。

偶然のようで、必然のような流れ。

人と人が交わる場所。

(こういうのを……縁っていうのかしら)

そう思った瞬間。

胸の奥が、また少しだけ――

静かに高鳴った。

________________________________________〈その2〉

ゲーム開始のホイッスルが森に響いた。

美津子は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。

頭の中にはすでにフィールドマップが刻み込まれている。それでも念のため、腕のマップケースに視線を落とし、現在位置を再確認した。

――右側の境界線沿い。まずは様子見。

足音を殺しながら、湿った土を踏みしめる。森は静かだが、どこか緊張を孕んでいる。

ほどなくして、最初のコテージが見えた。窓は割れ、壁は風化し、まるで時間から切り離された空間のようだ。

中に人影はない。

今回のルールは単純でありながら奥が深い。

二十棟のコテージ、それぞれに赤と黄色のバケツ。自分のチームの色を被せ、最終的に多く支配した側が勝利となる。

――つまり、撃つだけじゃない。取り、守る。

美津子はその場に留まらず、さらに奥へと進んだ。

一つのコテージだけを監視するのでは意味がない。複数を俯瞰できる位置――それが必要だ。

慎重に位置を変え、木々の陰を渡り歩く。

やがて、小高い場所に辿り着いた。

三つ、いや状況次第で四つ。コテージが視界に収まる。

「……ここね」

距離はおおよそ四十メートル前後。

決して近くはない。だが、不可能ではない。

美津子は地面に身体を預け、周囲の植生と同化するように伏せた。

ライフル――L96をゆっくり構える。

試射を三発。

それぞれのコテージへ、風と弾道を確認する。

パシュ、パシュ、パシュ。

微調整。

これでいい。

視線を巡らせる。

――澤登さんは……いない。

気配すら感じない。

思わず、わずかな笑みが浮かぶ。

(本当に“山猫”ね……)

互いに干渉しない。

それが心地よい距離感だった。

その時、左手前のコテージに赤チームの味方が滑り込んだ。

続けて中央のコテージへ。バケツの色が赤へと変わる。

順調だ。

だが、すぐに空気が変わった。

右側――黄色チームの声。

視線をスコープへ落とす。

先頭で飛び込んできたのは、岩見凛だった。

――速い。

バリケードで止まり、即座に周囲確認。

次の遮蔽物へ三秒以内に移動。

3秒ルール。

徹底している。

(撃てない……)

照準を合わせても、トリガーを引く瞬間にはもういない。

無駄のない動きだった。

その背後から、黄色チームが数人続き、コテージに立て籠もる。

赤と黄色の攻防が始まった。

銃声が交錯する。

窓越しに赤が撃ち、黄色が応戦する。

ガラスのない窓枠が、戦場のフレームになる。

美津子は呼吸を整え、窓の一点に集中した。

――いた。

一定のリズムで撃っている敵。

その“次”を読む。

息を止める。

パシュ。

弾着と同時に、敵の身体が現れた。

ヒット。

「……よし」

すぐに次の動き。

同じ窓。

また現れる。

撃つ。

ヒット。

二人ゲット。

連続で落とした。

赤チームがBB手榴弾を投げ込み、一気に突入。

短い銃撃戦の後、黄色チームが次々とヒットコールを上げて出てくる。

岩見もその中にいた。

三つのコテージが赤に染まった。

第一ゲーム終了。

________________________________________

セーフティエリアに戻ると、空気が一気に緩む。

キャップを外し、深く息を吐く。

「どうでした?」

振り向くと、澤登がいた。

少し遅れての帰還だ。

「三ヶ所押さえたわ。面白かった」

「いいですね」

穏やかな笑顔。

「山猫さんはどこに?」

「敵陣の奥ですよ」

「何人ゲットしたんですか?」

美津子の問いに、澤登は少しだけ首を傾けた。

「僕は、一日ワンショットだけなので」

「……え?」

思わず声が漏れる。

「ワンショット以外は、レーザーか、スコープ越しで“当てたつもり”で楽しむんです」

さらりと言う。

美津子は一瞬言葉を失った。

だが――

(……面白い)

撃たない狙撃。

それもサバゲの楽しみ方だ。

それは、彼の“余裕”の表れでもあった。

________________________________________

昼前のゲーム。

「ついて行ってもいい?」

気づけば、そう口にしていた。

澤登は一瞬だけ目を細め、すぐに笑った。

「どうぞ」

スタート。

彼は走らない。

静かに、確実に、敵と遭遇しにくいルートを選ぶ。

低姿勢、停止、観察――その繰り返し。

まるで森に溶け込むように進む。

やがて、深いブッシュへ入る。

視界が狭まり、外からは完全に遮断される。

(ここ……)

抜けた先は、小さな丘だった。

四つ、いや五つのコテージが見渡せる。

だが距離は遠い。

五十メートル近い。

美津子なら撃たない距離。

しかし澤登は迷わなかった。

スコープを覗く。

赤いレーザーが、一瞬だけ敵の肩に触れる。

「……ゲット」

小さく呟く。

次。

腕。

「ゲット」

撃たない。

だが、確実に“仕留めている”。

レーザーは真っ直ぐだ。

風の影響も受けない。

その一瞬の照射は、計測器のように正確だった。

美津子はただ見ていた。

撃たない自分。

撃たない彼。

だが、そこには確かな“狩り”があった。

________________________________________

帰路。

「撃たなかったんですね」

澤登がふと聞く。

「……あの距離は、外したら終わりだから」

正直な言葉だった。

「遠慮しなくていいのに」

「邪魔になるかと思って」

澤登は笑った。

「僕は大丈夫ですよ」

その言葉に、嘘はなかった。

美津子の胸が、わずかに高鳴る。

(この人となら……)

ふと浮かんだ感情に、自分で驚く。

孤独が当たり前だった。

一人で完結する世界。

それが、自分の居場所だったはずなのに。

今は――

その隣に、誰かがいることを

否定しきれない自分がいた。

森の奥で、山猫は静かに息を潜める。

だがその気配は、確かに美津子の中に残っていた。

________________________________________

〈その3〉

昼の合図とともに、張り詰めていた空気が一気にほどけた。

銃声の余韻が森に残る中、プレイヤーたちは次々とセーフティへ戻ってくる。

ヘルメットを外し、ゴーグルを上げ、ようやく“日常”の顔に戻る時間だ。

美津子も装備を緩め、テーブルに腰を下ろした。

「黒木さーん!」

明るい声とともに、岩見凛が現れた。

両手に弁当を抱えている。

「はい、これ!三人で食べよ!」

テーブルに弁当を並べると、迷いなく席に着く。

フィールド御用達の弁当――ハンバーグと唐揚げ。

蓋を開けた瞬間、香ばしい匂いがふわりと立ち上る。

「やっぱりこれよね……」

小さく呟いた。

「ここの弁当、美味しいらしいよ!」

凛はすでに一口頬張っている。

頬いっぱいに詰め込みながらも、表情は満足げだ。

「……行動が早いわね」

美津子が苦笑する。

「エネルギー補給は大事だから!」

凛は元気よく言い切り、さらに唐揚げを口に運ぶ。

そのままの勢いで、話題は一気に広がった。

「この廃墟コテージ、調べたんですよ!」

「へえ?」

「バブル時代、ここテニスリゾートだったらしいんです。

 フィールドの真ん中、あそこ――テニスコート」

言われて思い出す。

草木に覆われ、原形を留めていないコート。

「さっき撃ち合いしたけど」

「無理だよね、あそこ突破するの。

 遮蔽物ないし、完全に撃ち合いの的」

凛は箸を動かしながらも、戦術の話になると一気に鋭くなる。

「やっぱりコテージを一つずつ確保して、ライン作って押し上げるのが正解ですね」

その言葉には迷いがない。

――ポイントマン。

前線を切り開く役割。

彼女の動きが速かった理由が、はっきりと理解できた。

「美津子さん達、どこにいたんですか?」

さりげない問い。

だが、戦場の情報でもある。

美津子は箸を止め、わずかに微笑んだ。

「それは答えられないわね。敵同士だもの」

一瞬の沈黙。

そして――

「ですよね!」

凛が笑う。

「聞くだけタダかなって思って」

三人の間に、柔らかい空気が流れた。

美津子はふと、凛を見つめる。

「凛ちゃん、動き速すぎるのよ」

「え?」

「狙撃できないの。もう少しゆっくり動いてくれる?」

冗談半分、本音半分。

凛は一瞬きょとんとしたあと、すぐに笑った。

「見てたんですね!」

そして即答。

「嫌です。撃たれたくないもん」

あっけらかんとしている。

その潔さが、逆に心地よい。

「……正論ね」

美津子も笑った。

弁当はあっという間に空になった。

凛は立ち上がる。

「じゃあ、休憩の間にちょっと配信してきます!」

「もう行くの?」

「はい!廃墟ネタは鮮度が命なんで!」

そう言うと、小走りで去っていった。

本当に嵐のような存在だ。

静けさが戻る。

美津子はコーヒーを一口飲んだ。

「……彼女、面白いわね」

「ええ」

澤登が穏やかに頷く。

「でも、上手いですよ。ああいうポイントマンはチームを活かす」

その言葉には、確かな評価があった。

「さすが、龍崎さんのところで鍛えられてる」

美津子は小さく息を吐く。

(やっぱり、あの人の影響……)

ふと、澤登の横顔を見る。

穏やかだが、その奥に何かが潜んでいる。

「……一度、狩ってみたいな」

ぽつり、と。

低く、静かな声。

その目が変わる。

さっきまでの柔らかさが消え、獣のそれになる。

――狩人。

美津子の背筋に、微かな緊張が走った。

同時に、胸の奥がわずかに高鳴る。

(この人……やっぱりただ者じゃない)

静かな昼の時間の中で、

次の戦いは、すでに始まっていた。

________________________________________

〈その4〉 午後のゲーム

午後のゲームが始まる頃には、霧はやや薄れ、コテージ群の輪郭がはっきりと見えるようになっていた。

それでも完全に視界が開けることはなく、木々と廃墟が作る影が、戦場に不確かな奥行きを与えている。

美津子は、再び一人で動くことを選んだ。

(私は、私のやり方でいい)

誰かと連携する楽しさを知った今でも、その根底にあるものは変わらない。

日常から切り離されたこの場所で、自分だけの感覚で獲物を追う――それが美津子にとってのサバゲだった。

(……少し、違うこともしてみるか)

自分でも意外だった。

ライフルケースを開き、L96をしまう。

代わりに取り出したのは、FAMAS。

軽量で取り回しがよく、近距離戦闘向きの一丁。

「たまには、前に出るのも悪くないわね」

小さく呟き、コテージの密集地帯へと足を踏み入れた。

________________________________________

四人で一つのコテージに入り、赤のバケツを被せる。

即席の防衛拠点。

ドア、窓、壁の隙間。

それぞれが役割を持ち、射線を分担する。

やがて――

「来るぞ!」

外から声が飛ぶ。

次の瞬間、窓越しにBB弾が叩き込まれた。

バチバチバチッ!!

木壁に当たる乾いた音。

ガラスのない窓枠から弾が突き抜ける。

黄色チームだ。

美津子はバリケードに身を隠し、無理に顔を出さない。

(焦らない……突入を待つ)

攻める側は必ず前に出る。

その瞬間が、最大の隙だ。

ドアが軋む。

影が動く。

――撃つ。

パシュッ!

一人、ヒット。

続けてもう一人。

仲間も連携し、確実に数を削っていく。

「いける……」

勝ちの流れを感じた、その時。

コロリ、と何かが床を転がった。

「手榴弾!」

全員が反応し、バリケードに身を寄せる。

ボンッ――!

通常のBB手榴弾。

弾は散るが、直撃は避けた。

「まだ来るぞ!」

緊張が続く。

そして、再び――

何かが投げ込まれた。

転がる音。

次の瞬間。

シュー……

(……違う)

耳が覚えている。

身体が先に理解する。

「まず――」

言葉になる前に、

バンッッッ!!!!

凄まじい破裂音が室内を叩きつけた。

一瞬、世界が白く弾ける。

鼓膜が震え、思考が止まる。

(音響手榴弾……!)

渡辺未来との戦いで経験した、あの感覚。

わずかな硬直。

――その一瞬で、すべてが決まる。

ドアが蹴り開けられた。

突入。

早い。

美津子が銃を上げるよりも先に、

パンッ!

ヒット。

「ヒット!」

目の前にいたのは――

岩見凛。

息を弾ませながらも、鋭い目でこちらを見ている。

「いただきました!」

その声は、明るくも確実だった。

美津子は、ゆっくりと息を吐いた。

(……やられた)

知っている戦術だった。

予測もできたはずだ。

それでも――反応が遅れた。

________________________________________

セーフティへ戻る足取りは、少し重い。

悔しさが胸の奥に残る。

(分かっていたのに……)

その思考を遮るように、

「美津子さーん!」

凛の声。

振り向くと、満面の笑み。

「いただきましたー!」

無邪気な勝利宣言。

美津子は肩をすくめる。

「今のは、うっかりしてただけよ」

そして少しだけ笑う。

「次は負けないわ」

「楽しみにしてます!」

凛は本当に嬉しそうだ。

そのやり取りを横で見ていた澤登が、静かに言った。

「惜しかったですね」

「……ええ」

「バケツ、黄色にされちゃいましたね」

視線の先では、先ほどのコテージがすでに黄色に染まっている。

戦場は、止まらない。

________________________________________

最終ゲーム。

空気が変わる。

今日の勝敗を決める一戦。

澤登が美津子に視線を向けた。

「一緒に行きませんか」

短い言葉。

だが、その奥に確かな意図がある。

美津子は頷いた。

二人は斜面へ向かう。

そこからは、最も争奪が激しいコテージが見下ろせる。

すでに銃撃戦は始まっていた。

バケツは赤から黄色へ、黄色から赤へと目まぐるしく変わる。

(……激しい)

澤登が静かに指を差した。

ドア横に狙って構えてという指示。

射線。

だが――

目で問いかける。

澤登は小さく合図した。

――よく見て。

息を潜める。

数秒。

その時。

影が走った。

岩見凛。

銃撃の隙間を縫い、ドア横に張り付く。

無駄のない動き。

そしてポーチに手を入れる。

(……来る)

音響手榴弾。

澤登が、鋭く合図する。

――今だ。

美津子の意識が一点に収束する。

呼吸。

吐く。

止める。

トリガー。

パシュッ――

弾は一直線に飛び、

凛のこめかみへ。

ヒット。

「えっ……!」

驚きの声とともに、凛が手を上げる。

「ヒット!」

完璧だった。

距離、およそ40メートル。

風なし。

タイミング、射線、すべてが噛み合った。

美津子は思わず笑った。

抑えきれない。

「……やった」

「お見事です」

隣で澤登が静かに言う。

その声に、確かな評価があった。

________________________________________

全ゲーム終了。

結果は、黄色チームの勝利。

だが――

美津子の胸は、満たされていた。

勝敗とは別の何か。

「……楽しかったわ」

ぽつりと呟く。

そして気づく。

(ああ……そういうことか)

澤登の“ワンショット”。

その意味。

「今日の一発……」

美津子が言うと、

澤登は軽く笑った。

「譲りました」

あまりにも自然に。

まるで、それが当たり前のように。

胸が、少しだけ熱くなる。

________________________________________

帰り道。

二人は食事を共にした。

特別な話はない。

戦術のこと、装備のこと、他愛もない日常。

だが、それが心地いい。

気づけば、時間が過ぎていた。

別れ際。

「またご一緒しましょう」

その一言に、

「ええ」

迷いはなかった。

________________________________________

帰宅。

静かな部屋。

日常が戻ってくる。

だが、どこか違う。

美津子はタバコに火をつけた。

煙を吐く。

(……明日からまた)

臨床心理士としての顔。

患者に寄り添う日々。

そのために――

今日の非日常が、確かに自分を支えている。

そして、もう一つ。

心の奥に、静かに残る存在。

山猫――澤登亮。

その影が、消えずにいた。


美津子は澤登に特別な感情を持つようになっていた。

2人の行く末は。そして龍崎猛が新たに仕掛けるゲームが始まる。

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