マリアと白の騎士団
インテルズ川奥地へと調査を引き受けた黒の騎士
団は、野営の準備を兼ねて武器の手入れにも余念
がなかった。
前日に開かれる盛大なパーティーには平民ばかり
のガゼル率いる黒の騎士団員が出る事はない。
だからゆっくりねむれるし、余計な気苦労はしな
くて済んだ。
義理兄のハニキスにも会うつもりはない。
会場に入れるのは、貴族の方々ばかりで私生児で
あるガゼルのような身分の者には相応しくない。
そんな事は重々承知しているつもりだ。
会場の外から窓のを覗き込むと、つまらなそうな
顔でソファーに座るティターニア皇女が見えた。
いつもなら、シグルドの側を綺麗なドレスに着飾
って、『私を見て』と言わんばかりに主張してい
ると聞いていた。
だが、今日は違っていた。
憂鬱そうな顔でグラスを傾けていた。
少し顔を見たくなって来たが、そのまま踵を返す
と宿舎へと戻った。
ガゼルは明日を前に剣を握ると一心不乱に振り抜
いたのだった。
あんな顔を見たかったんじゃない……では、どん
な姿を見たかったんだろう。
シグルドに笑いかけるところだろうか?
いや…違う。
そんなところは見たくない。
では、今、自分はどうして………。
ガゼルは自分の想いが何を意味しているのか分か
らずにいたのだった。
その頃、深い青のドレスに身を包み、パーティー
会場でつまらなそうにしている女性がいた。
ティターニア皇女だった。
父である陛下の手を取り入場したのはいいが、踊
る相手が居ないのだ。
皇女と踊るという事は、未来の皇太子候補と見ら
れてしまう。
それは恐れ多くもシグルド・ヴォルフ卿を差し置
いて序列を無視する行為になるのだ。
だが、本来ならシグルド・ヴォルフ卿と踊るのが
正統だと思われた。
だが、ティターニア皇女はシグルドへの想いを募
らせた挙句、何度もエスコートを依頼し、拒絶さ
れているのだった。
そして今回も、二人は目があった瞬間、ティター
ニア皇女の方から視線を逸らしたのだった。
そしてシグルドの元には、聖女候補でもあり、神
殿の有力候補、そしてこの前の遠征で付き添った
マリアがその横に並んだのだった。
マリアは平民だったが、聖女候補としては有力候
補だった為、ダンスは踊れないが、パーティーへ
の参加を認められていたのだった。
「マリア、ダンスは踊れるかい?」
「いえ、私は………あの、ここで見ているので、
シグルド様は別の女性を誘ってあげて下さい」
マリアは控えめに言うとシグルドに集まる女性達
の熱い視線への先へと言葉を向ける。
だが、シグルドは誰にも見向きしなかった。
「では、私が教えよう。マリア嬢、お手を…」
片膝を付くとマリアの手を取る。
そして手の甲に軽くキスを落とすと、ゆっくり立
ち上がり、腰に手を回すとダンスホールの中央へ
と歩き出したのだった。




