初めてのダンス
ダンスホールの中央では、マリアとシグルドが身体
を寄せ合いダンスの指導をしていた。
もちろん、ぶっつけ本番で踊れるはずもなく、シグ
ルドが言う通りに横へ移動しては、再び戻るという
動きを繰り返すだけだった。
それでもシグルドが横にいるだけで様になる。
その場の令嬢達の視線を釘付けにする程度には目立
っていたのだった。
シグルドがマリアと踊ったことで、余計にティター
ニア皇女をエスコート出来る身分の人間が居なくな
ってしまった。
仮に、今ティターニア皇女に声をかけようものなら
確実に明日には消される。
そう思わせるほどに、貴族社会では身分を重要視し
ているのだった。
パーティー会場に入れず入り口で待っている男爵も
いた。
それはハニキス・トート男爵だった。
身分的にも、男爵が会場に入るにはそれなりの後ろ
盾になってくれる貴族と共に入るのがマナーだった。
もしくは、今回の引き立て役である黒の騎士団長な
ど、遠征に行く人と一緒に来るのもありなのだ。
しかし、当のガゼルは会場にはおらず、全く見当た
らなかった。
もう会場に入ったかと思って呼び出して貰おうと頼
んだのだが、全く音沙汰なかった。
「ガゼルのやつ、まだ来ないかのよっ!」
悪態を吐きながらイライラが募る。
どんなに待っても、来る事はなかった。
そもそも、来る気がないのだから、どうしようもな
い。
ティターニア皇女を紹介する気など、全くないのだ。
無我夢中で訓練するかのように剣を振るっていた。
まだ、パーティーは続いているのだろう。
自分には関係ないと割り切って入るが、どうにも
落ち着かなかった。
「どうしてあんな……」
どうしてあんな寂しそうな顔をしているのだろう。
いくら考えても答えが出るわけでもない。
身分が違うし、何を考えても仕方がない。
そう思い返すと訓練用の案山子をまっすぐに見据え
たのだった。
「はぁっ!」
思いっきり踏み込むと一気に剣を振り抜く。
魔法がかかった案山子はいとも簡単に真っ二つにな
ると、ゆっくり巻き戻され元の位置に戻ったのだっ
た。
会場で一人つまらなそうにしていたティターニアは
何杯目かのグラスを手に取っていた。
視界がクラクラする。
でも、頭の中はハッキリしていた。
今回の遠征で調査するのはインテルズ川をもっと奥
へと言った源流といってもいい場所だ。
そこの魔物は大きく、どれも強い個体が多い。
そしてその奥にある祠には、黒い影のようなモノが
ゆらゆらと湧き出ている。
それに触れた動物が魔物化し影を纏う。
それが影の尖兵の正体なのだ。
それを取り除くには、台座の下を調べる必要がある。
一人はそれに触れてどかさなければならない。
どうしても、一人は犠牲になると言う計算だった。
ゲームでは白の騎士団の新人にやらせて名もなき新人
は仲間によって殺される事になるのだった。
「こう言うところは残酷なのよね〜………でも、これ
って治せるのよね……だったら……」
ティターニアは考えを巡らせながらぶつぶつと呟いて
いたのだった。




