トート卿の思惑
結局、呼び出された理由も分からず、本邸へと
出向いたのだった。
そこには家族が勢揃いして居た。
正面に父親と、正妻、その横には長男と、妾の
子供達が順々に座って居た。
勿論、ガゼルの席はない。
初めから用意する気もないのはわかっていた事
だったので、今更傷つきはしなかった。
「やっと来たか?何度手紙を持たせたか知って
いるか?」
「いえ……この度陛下から出兵を仰せつかって
おりますので……」
ガゼルが忙しい事を説明しようとしたが、すぐ
に言葉を遮る様にトート卿が話始めた。
「ガゼル、お前は俺たちに恥をかかせるつもり
か?」
「……恥……ですか?何の事を言っているか…」
「それなら、週初めのあの派手な告知はなんだ
ったんだ?どれだけお金を使ったんだ?」
「……?」
「知らぬとは言わさんぞ?大々的に生誕祭と書
かれた段幕や、そこらじゅうのポスターまで
も……しまいには…」
「待ってくださいっ、一体何を言っているんで
すか?お……私はその日王都にはおりません
でした。記録を見ていただければ…」
ガゼルの言葉が正しければ、あの派手なアピー
ルは別の誰かと言う事になる。
それも、ガゼルにそこまでお金をかけるような
人間には心当たりすらないとでもいう様に訝し
んだのだった。
「もう、用事が無ければ帰っても?」
「本当にお前じゃないんだな?」
「はい。帰って来たのは2日後なので何を言っ
ているか見当も付かないのです」
「こほんっ……それならもういい。下がれ」
「父上っ!そんな簡単に引き下がっては…」
「煩い!お前は黙っていろっ……」
やっと終わった事に息を吐くと立ち上がった。
次男はまだ何かいいたげだったが、即座に口を
閉じた。
すると、再び声がかかる。
「そうだ、ガゼルよ。もうすぐそちらにハニキ
スが入るから、しっかり面倒を見ろよ。兄な
んだからしっかりたてるように。特にティタ
ーニア皇女様にはよ〜くとりなすように」
「皇女様に?」
「あぁ、もし見染められれば、すぐに王族の仲
間入りだからな!お前のように無愛想な顔じ
ゃ、一生落とせんだろうがな」
「俺の為にしっかりサポートしろよ?愚弟よ」
自身満々で言ったのは長男のハニキスだった。
いつも自信満々で、女にはだらしないそんな男
だった。
そんな男に、ティターニア皇女を取りなせだと?
一瞬、イラッと来る。
昔と違って今は誰にでも優しい皇女の事を、少
しばかり見直して来ていた。
そんな矢先に、このろくでもない男に紹介しろ
とでもいうのだろうか?
冗談じゃない!
出発前には、盛大なパーティーがある。
その時にガゼル自ら紹介しろというのだ。
だが、平民のガゼルがパーティーに参加した事
など、一度もない。
だから今回も参加するつもりもないのだった。
「今回の王族主催のパーティーは大貴族の方々
も来る盛大なものだそうだ。ガゼル、お前は
しっかりと兄をたてるのが義務だと思え!
いいな?」
「……はい、父上……」
「愚弟も少しは役に立つようになったな、当日
は遅刻するなよ?」
「……では、忙しいので、これで失礼します」
ガゼルはそのまま屋敷を出ていったのだった。
後に残った家族は楽しく食事を続けた。
明るい未来を渇望するかのように、そしてティ
ターニア皇女がどのような女性かという事を全
く知らないハニキスは、新しい服を注文すると
楽しみで仕方なかったのだった。




