エピローグ
そして次に先にエリオットが東の魔王城に戻り、ディアの父、トルソにその力を返す。
「……後悔はあるか?」
「無い。ディアが安全ならばそれで良いです」
その答えにトルソは、微笑む。君になら、ディアを任せられそうだと心の中で思いながら。
そして呼ばれたディアは、記憶に無い良心の姿に一瞬言葉がつまり、すぐに抱きついた。
涙をぽろぽろと流しながら、会いたかったというディアは、いつも以上に子供っぽく見えた。
そうこうしている内にトルソの体から、光のようなものが溢れ出て、ディアの体に入り込む。
ディアの体が白い光に包まれて、神々しい気配があたりに満ちる。
当のディア自身は目を瞬かせて、自身の変化に戸惑っているようだったが、それを見たリアネーゼが絶句しているのをエリオットは見た。
確かにこの強さをみれば、リアネーゼは絶句するだろうなと思う。
力を返して、代わりのものを幾つか受け取ったが、それでも前よりも弱くなったエリオットでもリアネーゼの力では及ばない存在だと分る。
そんなディアはその力を見て嘆息してから、今度は五傑の方を振り返り、
「私はまた神に戻ってしまったが、仕えたままでいてくれるか?」
「もちろんです」
「はい」
「そもそも私は東の神の眷属ですから当然です。でも、属性が戻ってしまいましたね」
口々に頷く五傑達にディアは微笑む。
これからも変わらない日々が約束されたのだ。
と、そこでディアの母親がリアネーゼの前に進み出て、
「お久しぶりでございます。リアネーゼ様」
礼をする彼女に初め誰だか分らなかったリアネーゼは、そこで気づいてぎょっとしたようだった。
「お前は……レーゼ国、三番目の姫のミレイユじゃないか。確か、恋に狂った男に見初められ、追いかけられて異界に自ら身を投げた……俺を崇める神殿の姫巫女」
「!」
ディアの父であるトルソもその話は知らなかったらしく、ぎょっとした目でミレイユを見た。
ミレイユは相変わらず穏やかに笑いながら、
「こちらの魔王様には良くして頂いて。魔物に襲われそうになった所を助けて保護して頂いて、そして恋に落ちたのです」
「そうだったのか。助ける方法はないのかとお前の父には随分責め立てられたが、もう死んだかと思っていたが、無事だったのか。……俺はこの世界にあの後来てしまったし、彼らとは連絡を取っているのか?」
「はい、父も兄弟も相変わらず元気で……あの兄弟真に唆されて、この世界を支配しようなどと言い出したと心配されていましたよ?」
「唆された?」
「……弱まったとはいえ、魔王達は健在なのです。このディアが今のように力を持たなくとも、魔王達全てが力を合わせるでしょう。そしてこの世界の人々も貴方に牙を向くでしょう。そしてこの世界に住む人間達は、以前の恐るべき神々の力を受け継いでいます。それがこの世界で人の仕える魔法なのですから」
「結局は、この世界は恐るべき神々の力で守られていて、俺では勝ち目が無かったという事か」
身の程知らずだなと、リアネーゼは笑う。
そんなリアネーゼの手をテイルがぎゅっと握ると、そんなテイルにリアネーゼは微笑む。
それはまた新しい何かの始まる予兆のようだった。
そして一通り話した後、リアネーゼ以外にも二人の兄弟神も含めてこの東の魔王の城に滞在してもらう事となる。
正確には監視も含まれるが、それよりもそのリアネーゼ達の世界とのより良い交流を、という事だった。
この世界を奪おうとしたのに随分と寛容だなとリアネーゼが笑うと、息子のディアが強いので、安心なのだとミレイユが微笑む。
けれどそれは、ある意味でリアネーゼにとっても都合が良かった。
そう、この世界を奪おうとするほどに、リアネーゼ達の世界は……。
そして、こちらの世界の神々と知識があれば、もしかしたなら……そんな期待もある。
なのでリアネーゼはそんな彼らの提案に、頷いたのだった。
ベランダで夕涼みするディア。
リアネーゼ達の歓迎も含めたパーティで、皆が皆酔いつぶれている中、ディアはベランダで外を見ていた。
風に髪をたなびかせながら、その瞳の先には魔族達の町が広がっている。
「ディア」
そこでエリオットがディアの名前を呼びやってくる。
ディアは振り返り、微笑んだ。
「エリオット、どうした?」
「いや、ディアが何か考え事をしているように見えたから」
「……ミレイユ母様が、幾つか言っていない事があるから」
「言っていないこと?」
エリオットが聞き返すとディアが頷いて、
「総力で力があったとしても、一人づつ潰されてしまえば我々の負け」
「なるほど」
「しかも人間たちは威力の低い魔法しか使えないなら、例えるなら、遠方から強力な魔法攻撃が出来る相手に、数百人が木の棒で立ち向かうようなものだ。一矢すら報いる事などできないだろう」
「……だから、ディアをこうやって東の神へと戻して、守ろうとしたんじゃないのか?」
「そうだな……」
そうぼんやりと呟くディアに、エリオットはいぶかしむ。
「ディアは東の神に戻るのが嫌なのか?」
「嫌、というよりは……持て余している、というのが正しい」
「持て余す?」
「あまりにも強すぎる力は、逆に使えない。そういう事だ。抑止力としては価値があるが」
「使わなければいいんだ」
「だが、もしも……」
「ディアの力を使わない、使えるけれど使わない、そのためにありとあらゆる手段を尽くす。それでいいじゃないか」
「エリオット……」
「俺だって、魔族の五傑達だっているんだろう? 皆で考えていけばいい。ディアがその力を使わずにやっていく方法を。大丈夫、俺がずっと傍にいてディアを守っていくから、だから安心していい」
「うん……」
そっと抱きしめると、ディアは嬉しそうに、安堵したようにエリオットの胸に顔を埋める。
随分と小さな体だなと、今更ながらエリオットは思う。
肩幅が少し小さいからかもしれない。
そこでエリオットはふと思う。
もしももっとも力の強いディアが、残虐非道な存在であったなら、すでに人間も、それこそ魔族ですらも滅んでいたのではないかと。
思うままに、気に入らないものは壊して、それはとても楽な方法だ。
温厚であるなら、時に我慢して、傷つかないように考えて、周りを見て……罵倒に耐えるような強い精神力が必要だ。
温厚さと、強い精神力を併せ持つからこそ、強い力を制御できるのか。
それでも強いからこそ、そうでなければいけなかったのか?
「どちらでもいい」
「ん? どうした? エリオット」
「ディアが優しいのには変わりなくて、俺の、愛する魔王様に代わりはないなと思っただけだ」
「今は神だぞ?」
「では、俺の最愛の神様だ」
「私も、エリオットの事は、最愛の勇者様だ」
そうお互い言って、面白そうに二人で笑う。
そしてどちらともなく見つめあいキスをする。
部屋の中は、酔いつぶれて誰も気づかず、そんな幸せそうな二人を昇り始めた月だけが優しく照らしていたのだった。
それから、ディアに振られた面々が新しい恋人を見つけるには一ヶ月とかからなかった。
“黄の人”ロウズと“赤の人”クリムゾン、“白の人”フィエルと“緑の人”レイト、そして“青の人”アオイは外の世界の兄弟神二人を手玉に取ったらしい。
しかもリアネーゼは、西の魔王テイルを押し倒したらしい。
どうやら、テイルが相変わらず、ディアディア煩くて頭にきたのがその理由だそうだ。
気づけばとても仲良く喧嘩をしているのをよく見かける。
そして、少しずつ今異世界との交流がはじまり、様々な情報が入ってくるようになった。
と、いった風に忙しい日々を送っていたディア達だが。
「はあ」
「どうしたんだディア」
「五傑が痴話喧嘩をすると私を襲いに来るのだが」
「……何時の話だ」
「さっき、エリオットが台所に行った頃の話。全員返り討ちにしたが」
まったく、負けると分っているのに私のところに何故来るのだと嘆息するディア。
それはディアが綺麗で優しいからだとエリオットは言おうと思ったが、ディアはそのことをあまり自覚していないのだ。
だから言わず、そのディアの対応を見ながらエリオットは、俺の最愛の魔王様は今日も平常運転だな……と思って、今は神なんだとエリオットは思いなおす。
ディアは人の国とも交流を始め、人の国の王様とも会った。
王様は相変わらずで、そして、その時分ったのは訓練して力を蓄えさせるためにエリオットを送ったのではなく、勇者だから魔王を倒すものじゃね、とか、ある種の丸投げ的なものだったらしい。
思い出すだけで憂鬱な話にエリオットが瞳をどんよりとさせていると、
「どうしたんだエリオット」
「いや、世の中想像を絶する話もあるなって」
「ああ……でも、私はエリオットに会えただけで幸せだ」
そう微笑むディアに、エリオットはむらっと来た。
そしてそのままキスをする。
「んんっ」
何度キスしても足りなくて、幸せで。
そして唇を離して、そこでディアが言う。
「これからも一緒にいよう、エリオット」
「当たり前だ。俺はディア無しじゃいられない」
「私もだ。エリオット無しではいられない」
そうお互い言い合い笑う。
そんな二人を祝福するように暖かな風が窓から入り込み、暑い夏を予感させるような、甘い予兆を感じさせたのだった。
[ハッピーエンド]
読んで頂きありがとうございました。途中挫折しそうになりましたが何とか完結出来たのは皆様のお陰です、ありがとうございました。
この話、よくよく考えたら攻め視点で、主役の恋人同士が離れているお話です。なのでいちゃいちゃさせるのは少し難しかったかな……。
相変わらず魔王受けが好きなのですが、世の中魔王が攻めな物がお好きな方が多いようで、自家発電しているわけですが……書くよりも読む方が楽なので、もっと誰かが大量に書いてくれないかなと思う、他力本願な今日この頃。
書くのは時間がかかるんですよ、本当に。
それを思うと好みの小説を買って読むというのは、凄く贅沢な事のように思えます。
と、いうわけでまた新作を書きましたら、よろしくおねがいします。2013/8/11




