懇願する
その答えにリアネーゼは笑みを消した。
「正気か?」
「正気かどうかは、試してから、だろう?」
笑うエリオットが駆ける。
その速さに、リアネーゼはディアに人質の意味がないと知り、邪魔だという風に壁柄と突き飛ばす。
痛さに小さく苦悶の表情を浮かべるディア。
それに気を取られる事なくエリオットはリアネーゼに向かう。
それほどにまでエリオットにはリアネーゼは危険な相手だった。
「このっ……速過ぎる。それに、力まで……」
舌打ちするリアネーゼ。
エリオットのもつ今まで見たことのない剣が、リアネーゼを押していた。
速さも、力も、魔力も、全てにおいて別物だった。
この剣が、この世界が神代の時代に、リアネーゼたちが恐れた彼によって造られたものなどリアネーゼは知る由もない。
今更ながら、東の魔王討伐に向かわせた遠因である自分の行動に後悔する。
そう舌打ちしながら更に、リアネーゼは本気を出して、エリオットに挑んだのだった。
一方、助けに行った五傑達だが。
「何故あの西の魔王テイルしかいない」
そう呆然と呟いた“緑の人”レイトにテイルが、
「そんな事を言ったって、僕だってすきで人質になったわけじゃない。それよりも、この道具を外してよ! 自分で外すと数十倍以上の力が必要なんだ!」
そう言い出すテイルのその魔力の拘束をレイトが外している間、他の五傑はエリオット達の方へと向かい、ディアを連れ戻そうとしたのだった。
エリオットとリアネーゼの戦いは激しさを増す。
それでも作られた城は、傷一つつかない。
この魔王の城は元々がこの世界の神々が作ったものなので、攻撃を受けてもそれに耐久する力があった。
それを見ながら、リアネーゼはこの世界の神々の化け物じみた力を肌に感じる。
何故彼らが自分たちの世界に攻めてこなかったのかが不思議に思うほどに恐ろしい。
しかも彼らは極めて温厚だったのだ。
そう思いながら、エリオットに攻撃を加えていくも、そこでリアネーゼの剣が吹き飛ばされてエリオットの剣がリアネーゼの首に向けられる。
それを見ながら、リアネーゼは自分が負けたのだと気づく。
「はは……強いな、エリオット」
「それで、リアネーゼ。まずは、ディアの声を戻せ」
「……分った」
渋々といったように魔法を解くと、ディアの声が戻る。
「……ごほ、エリオット」
「ディア……大丈夫か?」
「ああ、この程度は。基本的に酷い扱いはされなかったし」
「そうか……」
そうリアネーゼを見るエリオット。
だがリアネーゼは俯いて、
「それで、俺をどうするつもりだ?」
この世界をのっとろうとしたのだ。
魔王となった彼らにより世界が近づき、この世界でもっとも恐ろしい存在の力が弱まった今なら取れると思ったのだ。
けれど結果は失敗に終わる。
自分はどうなるかわからないし、あとの二人の神々もどうなるかわからない。
そう思っていると、走り寄ってくる幾つもの足音が聞こえる。
「ディア様、ご無事ですか!」
「皆! 来ていたのか?」
五傑の姿と、西の魔王テイルの姿が現れる。
ついで、カミルとソラがやってくる。
「エリオット、大丈夫か? その様子だと勝てたらしいな」
「二人とも……あれ、五傑の一人がそちらにいなかったか?」
「倒した神二人に躾を施すらしい」
びくっと“赤の人”クリムゾンが躾という言葉に反応したのは良いとして。
そこで西の魔王テイルが走り寄ってきて、リアネーゼを庇うように抱きしめて、エリオットを見上げた。
「……リアネーゼを許してもらえないだろうか」




