外の世界の存在
焦ったように駆けて行くリアネーゼ。
まるで自分の虚勢で覆った殻を破られるような気がした。
「……何だあれは。ただ綺麗なだけの存在なんじゃないのか? ……腐ってもこの世界の神、か」
魔王となった今もアレだけの力を持つ。
となれば、神であった頃の実力はおのずと知れてくる。
ずっとこちらからは手を出すのを躊躇うほどに恐ろしい力を持った者達が、この世界には潜んでいたのだから。と、
「リアネーゼ、どうしたんだ?」
「そうだよ、顔色が悪いよ?」
心配する言動をしながら、楽しそうに声をかける。
白い髪に、赤い瞳の二人の兄弟神。兄は、オルト、弟はソルトという。
その兄であるオルトが、
「それでどうだった? この世界の元、神々は」
「西の魔王テイル、東の魔王ディア……取るに足らない相手だ」
「その割には時間をかけて様子見をしていたようだけれど」
「……奥の手があれば危険だからだ」
「でも結局はこんなに簡単に捕らえられたんだろう?」
その答えに、リアネーゼは黙る。
そんなリアネーゼに、弟であるソルトが、
「でも、僕達も心配していたんだ。やっぱり、僕たちの中では一番強いのがリアネーゼとはいえ、たった三人の神同士だから寂しくなかったのかなって。だってあそこには人間やら魔物やら、魔王しかいないじゃないか」
「……一応神であった魔王達もいる」
「やだなー、あんなのと僕達を一緒にしないでよ。ただの下等な生物に愛着……まさかそれが湧いたから、あの魔王達を生かしているの?」
「……見た目は、美しいから幾らでも用途はある」
「へー、じゃあ僕はちょっと、味見をしてこようかな」
舌なめずりをするようなそのソルトの言葉に、ふとテイルの笑顔と抱きしめられた時のディアのぬくもりを思い出して、
「……いや、まだ下手な手出しは止めたほうがいい。あれは、人質だから」
「魔王を助けに来る奴らなんて魔族くらいしかいないでしょう? あんな弱い奴らなんて、相手にならないでしょう?」
「……この世界の神々が強かったように、この世界の魔族は、我々の世界のものよりも強い」
「そうなんだ……じゃあもう少し様子をみるかな、でもさ、リアネーゼ」
「なんだ?」
「まさか怖気づいたわけじゃないよね?」
そのソルトの言葉に、一瞬リアネーゼはぎくりとする。
怖気づく、というよりはあの魔王達に、僅かな感情を抱いた事と、エリオットの事が見透かされた気がしたから。
けれどすぐに、目の前のソルトがただ単に、リアネーゼが負けるのを恐れているのかといったように思えて、
「俺の強さを知らないのか?」
「そうだよね、リアネーゼは一番強いから。だからこの世界に一番初めに来たんだし」
「ああ、数が少ないから、人間のように弱い奴を送り込むわけにも行かないし……神同士だからお前達に怪我させるのも俺はいやだったから」
「……リアネーゼ、ごめんね。全部まかせっきりで」
「いいよ、その程度。同じ神なんだから」
そう話してから、あの魔王達に簡単な差し入れをしてくると、リアネーゼは歩いていく。
口は悪いし傲慢そうに見えるが、リアネーゼは意外に臆病で脆く、寂しがりやである。
だからこそ、このオルトとソルトには都合がよかった。
「本当にリアネーゼは単純だね」
「そうだな、精々俺達が良い思いが出来るよう使わせてもらおうか」
そう、兄弟紳は笑い、あてがわれていた部屋へと戻っていったのだった。
東の魔王城では、幾らか準備がされていた。
「この仕事は副官の……」
「もしもの時はあなたがこれを、そしてこれを……」
五傑たちが忙しく走り回り一時的な引継ぎをしている。
けれどもしも自分たちが戻らなかった時のための措置もかねているので、慌しかった。
エリオット達はそんな中で、ある一室でディアの父たちと待っていたのだが……。
「ここでディアの力を完全に元に戻すのと、エリオット、君の力を借りてディアを救出するのはどちらがいいか。……リアネーゼに君は全力でぶつかり、勝てるか?」
その問いかけに、エリオットは少し黙ってから、
「神に魔力的な意味で人間は勝てるのでしょうか?」
「一応神といえど、外の世界の存在だから、我々よりも弱い」
「そうなのですか?」
「ああ、だからディアを元に戻そうとしているのだ。東の神、この世界でもっとも強い神に」
「……正直、リアネーゼに俺は一度話したい。戦闘という形でも良い。だめですか?」
「……私は万全を期すタイプだが……欠けた状態でディアに戻すのは、失敗する可能性がある」
「それは……」
「だが我々がディアの元にどうやって辿り着くか、という事も考えると……リアネーゼがエリオット君、君と戦っているうちにディア達を連れ出す。そしてディアが助け出せたなら君から返してもらい、ディアを元に戻す。となると我々は待機するし、手助けできなくなるが、それでもかまわないか」
「はい」
「分った。ついでに……できればその、リアネーゼを殺さないで欲しい」
「何故ですか? いえ、幼馴染でもありますので俺としては、あまりそうしたくないとは思いますが……」
そこでちらりとトルソは妻を見て、
「彼女の国の神が、リアネーゼなのだよ」
「……分りました。どの道幼馴染ですので、その方が俺としても助かります」
そう答えるエリオットのトルソは頷いて、
「それでは行こう。後は彼らの準備だけか」
五傑達が走り回るのを見てディアの父、トルソは呟いたのだった。




