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仕方がないだろう

 いったん宿に戻ったエリオット達だが、次のラスボス、東の魔王ディアとの戦闘に備えてどうしようかと話し合いをしようと思ったのだが、突如現れたディアの両親に中断させられた。

 焦ったような彼らにエリオットは、


「どうしたのですか?」

「ディアが攫われた」


 話はこうだ。

 もうすぐ魔王城で決戦を行い、どちらが勝つか負けるかしてから、ディアを元の神に戻す作業をしようと思い様子を見ていたらしい。

 だが城から西の魔王テイルとリアネーゼがディアを攫って西の方に向かっていくのを目撃した。

 魔法で追跡していくと、彼らは西の魔王の城に戻っていったという。


「ディアをどうして攫ったんだ!」

「西の魔王テイルがディアを欲しがっている事は知っていたが、おそらくは、リアネーゼはディアを人質にして君を手に入れる算段だろう」

「ご名答」


 そこで、窓から一羽の白い鳥が飛んできて窓の縁にとまり、そう告げた。

 その声に聴き覚えがあったエリオットは、


「リアネーゼか?」

「そうだよ、久しぶりだねエリオット」

「ディアを返せ!」


 そのエリオットの切羽詰った声に、リアネーゼは一瞬黙った。


「……そんなに、こんな東の魔王が大好きなのか? エリオットは」

「悪いか! 俺にとってディアはかけがえのない大切な人なんだ!」


 声を荒げるエリオットに、リアネーゼは黙ったまま。

 まるで何かを考えているようだった。


「リアネーゼ、ディアを返せ」


 けれどその間すらも待てず、エリオットは叫んだ。

 するとリアネーゼが、やけに抑揚のない声で、


「……エリオットはいつも優しくて、笑顔で、誰にでも分け隔て無く優しかった」

「それがどうかしたのか!」

「そして俺達にもそうだった」

「……だからどうした。あの時俺は、幼馴染のエミが好きだったのに、あいつを使って俺を嵌めたくせに」

「そういえばそんな事もあったね」


 忘れていたよ、とでも言うかのようにリアネーゼは軽く答える。

 けれどその辛さで、エリオットは家に引きこもってしまったのだ。

 とても傷ついたのだ。


「大体、あの時、昔から俺に友達がリアネーゼ達以外できなかったのは、お前が邪魔をしていたからって……」

「当たり前だろう? エリオットには相応しくないのだから。そもそもエミだって似合わないのに、エリオットが気に入ったから一緒にいさせてやったのに」

「リアネーゼ……エミは、お前の事が本当に好きだったんだぞ!」

「だから?」

「リアネーゼ!」


 責めるように声を荒げるエリオットに、リアネーゼが苦笑する。


「今までその他大勢と同じ対応だったのに、随分と感情的に俺に話すな、エリオット」

「そんなつもりは……」

「誰だって同じなら、憎まれた方が、少しでも強い感情で思われたほうがましだと思って、ああしたのに。それに西の魔王と戦って怪我をさせるのも嫌だったから、ああしたのに。……お陰で東の魔王ディアに、手を出される事になったが」

「手を出されるとかそんなんじゃない! 俺はディアに恋をして……」

「気に入らないから、殺してしまおうか」


 リアネーゼの声が冷たく響いて、エリオットはぞっとする。

 けれどそのエリオットの様子に気づいているのか、リアネーゼはくすくす笑って、


「まあ、アレだけの美姫であれば仕方がないだろう。心を奪われるのもね……でも、無傷で捕らえておくと、エリオットは本当に思っているのか?」

 ディアが、傷つけられているというような含む言い方で、エリオットはカッと頭に血が上り、

「リアネーゼ!」

「今更だけど俺は、エリオット、お前の事が好きなんだ」

「……酷い事をして好きだとか、ふざけるな!」

「でも君達の祖先が、彼ら魔王のもととなる神にしたのはそういうことでしょう?」

「……過去は過去だ。そして俺はディアを愛している」

「……まあいい。そこにその、前からこそこそ俺達の事をかぎまわっている強い魔族がいるだろう? そいつにここまで連れてきてもらえ。そうすれば話しくらいは聞いてやってもいい。……それとも力ずくで取り戻すか?」

「……なんとしてでもディアを取り戻す」

「……ディア、ディア、ね。君の口からそれを聞くのは、気に入らないな。だがまあいい、待ってやるから早く来い。俺の愛おしいエリオット」


 そう告げると同時に、その白い鳥は光を放ち霧散する。

 それを見たエリオットが、ディアの両親に、


「どうしましょうか」

「……まずは五傑達に話が先だな」


 そうディアの父親が呟いたのだった。

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