攫われていくのを
チーズ風味の甘いクリームにカスタードクリームを合わせて、果物やスポンジを詰めていく。
「よし、完成と。後は綺麗な器に載せて、飾って……今日は乾燥果物を入れた、フルーツティーにしよう」
ディアは今日も今日とてお菓子を作っていた。
そうでもしないと不安になってしまうから。
エリオットは負けないと思うのだが、それでも万が一負けてしまったら。
そう思うとディアはいてもたってもいられなかった。
お皿に盛り付けして冷却の魔法をかけて、次は紅茶だが、レイトとフィエルが戻ってきてからにしようとディアが決めた時、
「すみませんディア、負けてしまいました」
「うわっ! レイト。背後からいきなり現れないでくれ」
けれどレイトは、薄く笑って影を引きずりながらふらふらと他の五傑がいる部屋へと向かっていく。と、
「ディア、その笑顔は流石に酷いと思いますよ?」
「え? 私は笑顔だったか? フィエル」
「ええ、それはとても嬉しそうな笑顔で」
「う、すまない。皆は一生懸命やってくれたのに」
「いえいえ……所で、出来るだけ早く我々の部屋に来て頂けませんか? 内密な話がありますので」
そう微笑みながら告げるフィエルに、ディアは半眼で、
「……また何か悪巧みをしているのか?」
「いえいえ」
相変わらず微笑んだままのフィエルにディアは仕方がないなと笑って、紅茶のポットにお湯を注ぎ始めたのだった。
フィエルと一緒にお菓子と紅茶を運んできて、部屋に入ったディア。
フィエルがディアの後から入り、ガチャリと鍵をかける。
その音を聞いて振り向いたディアだが、フィエルは笑っている。
次に残りの四人の五傑を見ると彼らも同じような笑みを浮かべている。
そこでレイトが何かを呟いた。
「! うぅ」
くらりと眩暈がして、ディアは倒れこむ。と、レイトが、
「とりあえずは魔法は成功ですね」
「……レイト、何をした」
「ディアの魔法耐性を弱くして、少しずつ貴方を支配する魔法をかけていったんです。五人で」
「……幼馴染だと、信じていたのに……欲しいのは、魔王の座か?」
その問いかけに、レイト達は面白そうに笑う。
「まさか! 我々が欲しいのは貴方です。誰か一人のものにならなくてもいい、我々のものにさえなれば、という事で、お互い協力する事にしたのです」
「いつから……」
「昔からですよ、我々が貴方の事を愛していたのに、ぽっと出の勇者なんかに心を奪われて……しかも、貴方の祖先を傷つけた勇者とは、恐れ入ります」
「……私はエリオットを愛している」
「それが我々には許せないのです。ですが、もう貴方は我々のものです。あの人間の勇者がここまで来るのにどれほど時間がかかるとお思いですか?」
「……なるほど」
「そうです、ですからディア……貴方はもう我々のものなのです。大丈夫ですよ、優しくしますから」
「うむ、五人の言いたい事は分った」
そこでディアがむくりと起き上がった。
しかも気づけばディアの体に力が入らなくなるように仕掛けな魔法が解かれていた。
そこでディアがにやりと笑い五人を見回す。
「確かに魔力が抑えられているが、これで如何こう出来ると思われていたとは、舐められたものだな、私も」
「く、作戦変更、全員で襲い掛かりディアに勝利するぞ!」
レイトの掛け声と共に五人が一斉に襲い掛かる。
けれどディアは相変わらず余裕の笑みを崩さなかった。
「きゅうう」
「まったく、全員目を回しているとは、もう少し骨のある奴はいないのか」
ディアが五人を瞬殺して、目を回している五人に嘆息するようにつぶやいた。
もっとも五人からしてみれば、何でこんなにディアは強いんだ、ずるいと思っていたりするのだが。
倒したとはいえ幼馴染で今まで一緒にいた五人なので、とりあえずベットに運ぼうとした。と、
「今日は、千客万来だな」
「ご名答、お久しぶりだね、ディア」
「西の魔王、テイルか。だが……そっちの、人間ではない何かは何だ?」
「さあ、僕にもよく分らないんだ。ほら、リアネーゼ、挨拶をして」
「リアネーゼ?」
その名前は聞いたことがある、とディアは思う。
それはエリオットを裏切った幼馴染の名で、おそらくはエリオットの事が好きな相手だ。
そんな彼は銀髪に青い瞳をしており、驚いたようにディアを見ていた。
だからそんなリアネーゼにテイルが、
「リアネーゼ、彼がディアだよ、リアネーゼの恋敵」
「あ、ああ……テイル以上というか、こんな美貌の者には出会ったことがない」
「ふふ、でもあげないからね。というわけで、ディア、覚悟!」
そう叫ぶや否や、テイルとリアネーゼがディアに襲い掛かってくる。
とっさに抵抗をするディアだが、相手が一応知り合いのテイルという事もあったのだが、
「……この程度か」
リアネーゼの笑うような声を聞いて、ディアはそこで意識を失ったのだった。
魔王城の様子を見ていたディアの両親が、リアネーゼと西の魔王テイルにディアが攫われていくのを目撃するのは、そのすぐ後の事だった。




