状況による
その言葉に、カミルの中の南の魔王が反応した。
「そこの人間、僕達魔王の事を忘れていないだろうね。他にも西の魔王、テイルだっている。必要なら北の魔王もたたき起こせば良い」
東の魔王だけで如何こうするという話が、南の魔王には気に食わなかったらしい。
そんな南の魔王に、ディアの父である前東の魔王が、
「それで、その人間の体をのっとってその意志を壊すか、同化するのですか? 南の魔王様」
その言葉にソラが反応をする。
不安そうにソラに見られて、それに南の魔王は気づいて、
「……状況による」
「彼に嫌われたくないでしょう?」
「そんなもの、僕がその気になって力さえ取り戻せば、力を使ってソラを僕のものにだって出来る。それにカミルと同化してしまえば良い」
「そのカミルという人間が南の魔王になると?」
「……そうだ」
「ではそちらの彼は、それを望んでいるのか」
ソラは、答えなかった。けれど、それを望んでいないのは明らかだった。
唇を噛む南の魔王にディアの父は更に続ける。
「北の魔王は、そもそも眠る事が大好きなのでそう簡単には起せません。しかも、西の魔王は唆されてあちら側について、貴方は今この状況。まともに動けるのは我々だけでしょう」
「で、でも……」
「カミルという人間の中で、カミルとソラの関係を見て共感するのが心地良いのでしょう、南の魔王」
「! そ、そんな事はな……」
「今の関係をまだ続けたいのでしょう。どの道、我々だけではどうにもならなければ、お願いする事になります」
「……僕にとってもこの世界が奪われるのは困るから、お願いというのはおかしい」
「そうですね。さて、一通りお話しましたが、他に何か質問は?」
ディアの父が、話す事は話したので、他に何か聞きたいことがあるのかと問いかけると、そこで、ふと気になったことをエリオットは問いかける。
「西の魔王は、リアネーゼとどんな取引をしたのでしょうか」
ディアの父は少し黙ってから言いにくそうに、
「……西の魔王は、昔からテイルという名前を襲名するのだが、全員が東の魔王が好きでね。私も先代の南の魔王に、何度押し倒されて貞操を奪われそうになったことか」
そうディアの父が思い出したくもないというかのようにぶるぶる震える。
前東の魔王を怯えさせるような恐ろしい事をしたらしい。
だがその話を聞いてエリオットは、ディアの父はディアよりもりりしくてカッコイイ系の面立ちだと気づく。
それを押し倒そうとするというのは、
「……よほどムキムキマッチョ……」
「いや、とても可愛らしい見かけだ。……見かけだけはな」
顔を青くして語るディアの父。
よほどトラウマなのだろうかとエリオットが思っていると、
「他に何か聞きたい事はあるかね? 今の質問で私の気力はゼロになった」
ディアの父が問いかけるも、エリオットはもう無く、カミルもソラも特にないようだった。そして、
「ディアと戦いが終わった頃に見に行くよ。一応間者を君たちにはつけているしね」
「そうなのですか?」
「私達にとっては会うことが出来なくても、ディアは大事な息子なのだよ」
「もしディアとあったらお二人の事を……」
「……いや、まだ、ディアを不安にさせたくない。全て終わってから私達の口で、今日の話は伝えたい」
「そうですか、分りました」
そんなエリオットにありがとう、ディアをよろしくと告げて笑って、ふっと二人とも消えてしまう。
突然現れたかと思えば消えてしまう、彼らにエリオットは嘆息する。
ついでに、南の魔王は自分の本音が引き出されて機嫌が悪く、すぐにカミルの中に引きこもってしまう。
倒れるカミルを支えながらソラが、
「予想外の事態になりましたね」
「ああ、けれど、ディアと戦うのまではまってくれるらしいし、この力を返せばディアは元の東の神に戻れる」
「……勇者の力に未練はないのですか?」
「俺には、ディアの方が大事だ。それに、勇者の力がなくたって、俺はやっていける自信があるからな」
「……そうですね、貴方は剣に関しては天才でしたからね。俺が、敵わないと思うくらいに」
そうソラは笑い、部屋に戻っていった。
そして独りになったエリオットは再びベットに転がる。
とんでもない爆弾を放り投げられた気がした。
けれどそれでも、今の所は当初の目的と変わりない。
エリオットはそこで眠ろうと目を瞑ったのだった。




