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「カイト、いっきまーすっ」

 ◇◆◇


 実りの季節は森のキャンパスも豪快に彩る。

 緑の葉を黄色や赤に変えて、空の青を一層映えさせる。

 ふと木の根もとに目をやれば、リスがニ匹走り回っていた。

 団栗をほお袋にいっぱい詰めて、どちらがより多く詰める事が出来るか競争し始める。

 楽しげなリスたちの様子に惹かれたのか、仲間に入れてくれとやってくるイノシシとシカ。

 みんなが仲良く土月の実りと彩に舌鼓を打っていた。


 ◇◆◇喜樹のある広場◇◆◇


 次の日。僕たちはあの人に会いに喜樹に来た。

 それにしても喜樹は葉っぱは緑。すっごく大きな樹だから、喜樹が黄色とか赤の葉っぱになったらすごいんだろうなって思ってきたからちょっとだけ残念。でも、広場に周りの木の葉っぱの色が変わっててすごくきれい。ドングリもいっぱいあったし後で拾って帰ろうっと。


「いらっしゃい。早速来たんじゃな、歓迎するぞ。ええリンゴがあるんじゃ、早速食うか?」


 喜樹につくなりシイ様がさっそく出迎えてくれる。


「やっほーっ! シイ様。あたしリンゴ大好きっ、食べるよっ!」


 そして、さっそくの食べ物に盛り上がる姉ちゃん。

 もうっ、姉ちゃんったら。僕も好きだけどねっ。


「……。」ニコニコ


 どこからか飛び出してきたエリンちゃんが抱きついてきた。


「やっほー、エリンちゃん。そのペンダントかわいいねっ! お父さん達からもらったやつ?」

「……。」コクコク


 姉ちゃんはエリンちゃんの胸元に緑色に光る石のペンダントを指さす。

 エリンちゃんは両手で首から下がるペンダントの紐をちょこっと持ち上げて見せてくれた。

 緑の透き通った石の嵌めてある丸いペンダント。


 うーん、すごくきらきらしてるなぁ。

 まるで小川に当たって反射する光を封じ込めたみたいで、とってもキレイ。


「すごいなぁ、光ってるの? いや、光をはね返してる……。かな?」


 僕は引き込まれるように顔を寄せながら見ると、パッと両手で隠すエリンちゃん。


「えっ? なんで隠しちゃうの? もっとよくみせて」

「……。」フルフル


 顔を横に振るエリン。む、いじわるだなぁ。

 そう思ってちょっとふくれると、エリンちゃんが自分の口をちょんちょんと指差してから口を動かす。

 唇を読めってことかな?


「えーと。え、っ、ち? えっちっ! なんでさっ!」

「カイトったら、そんな目でエリンちゃんを見てたのっ? カイトにはまだはやいっ! たぶんっ!」

「あいたっ! 違うっ! 違うよぉっ! いいがかりだよぅっ!」

「……。」ニシシ


 あらぬ疑いで姉ちゃんに頭をわきに抱えられて締め付けられる僕。

 エリンちゃんが歯を見せてニシシと笑う。


 うえーん、かわいいけどひどいー。

 そのままグルグル回され出したところで頭と首と僕が悲鳴をあげてるところに、エリンちゃんが僕の顔のとこまで来る。エリンちゃんに両手で額を持たれて顔をあげさせられる僕。


 あうーもうやめてぇ、僕のなにかはもうゼロだよぉ。

 そう思っていると。

 チュッて音が柔らかい感触と一緒に額にする。


 あれ? これって……。

 ムフーンっ! 僕のなにかは全快になると、エリンちゃんはまた唇を指差す。


「ご、め、ん、ね? ごめんね? 冗談ってこと?」

「……。」コクコク


 頷きながらニコッてするエリンちゃん。

 ははは、もうおちゃめさんなんだからぁ。うっかり姉ちゃんに首をよい子にお見せできない方向に向けられちゃうかと思っちゃったんだゾ。

 冗談とわかって力の緩んだ姉ちゃんの腕から頭を抜く。


「ほら、エリンちゃんのイタズラだったじゃない。もう、姉ちゃんは早合点なんだから」

「なっ! 違うもんちゃんと理由あるんだもんっ。だいたい、カイトが悪いんだから。カイトってばすぐ女の子と仲良くなるんだからっ!」


 なるほど、理由があってのことなんだね。

 ……あれ? 仲良しはいいことじゃない?


「お待ちどうさん。さっそく仲良くやっとるようじゃな」


 姉ちゃんの不思議な言い訳に首を捻ってると、シイ様がキレイに六等分に切り分けたリンゴを持ってきた。


 うわー、ものすごく甘くて良い匂いだ。


 匂いだけでそれがもうおいしいって言うのがすぐにわかる。僕の口の中が甘いものを受け入れる準備をさっそく始めるけれど、準備が良すぎてよだれがこぼれそうになる。

 おっと危ないと思って飲み込んだところで少しだけ落ち着くと、何か近くで水っぽいものが滴り落ちる音がする。

 僕はハッとして隣を向く。

 水漏れの原因は姉ちゃん。姉ちゃんの口は準備が良すぎて、スイドウタンポポの花を傾けたみたいにぼたぼたこぼれ出していた。


 あー、あー、しょうがないなぁ。

 僕はハンカチを出してぬぐってあげた。

 備えあれば憂いなしって言うけど、姉ちゃんの口はちょっと備えすぎかな。


「ニシシ、さすがソーラじゃな。百点満点のリアクションじゃ、ほれまずは一切れずつ食ってみろ。あーんじゃ」


 僕はそんな事を憂いながら、シイ様の言う通りにあーんと口を開けて向けると。

 シイ様は一切れずつ僕たちの口にリンゴをくわえさせると、僕はそのまま頬張る。

 そして一噛みする……


 ――これはっ!


 突然僕の目の前に花畑が広がって、柔らかい光が天からひらひら舞い落ちてくる。

 天国っ?

 甘いっ! ほんのちょっぴりだけ酸っぱいのが良いアクセント。噛むたびにリンゴの瑞々しい香りが鼻から抜けていく。


「んーっ! ほいひいー、ほいひふひるっ! ひいはははいふひ」


 訳のわからない姉ちゃんの言葉で僕は現実に帰ってくる。

 姉ちゃんは目をキラキラさせて両手をほっぺに当てて頬張りながらしゃべってた。

 なに言ってるか全くわかんないよ?

 それでも、満足げにうんうんうなずくシイ様。


「そうかそうかおいしいか、喜んでくれて何よりじゃ。じゃが、しゃべるのは口にものがなくなってからじゃ」


 ですよねー。

 シイ様に言われてゴクンと飲み込む姉ちゃん。


「美味しいかったぁ、美味しすぎて飲み込むのがもったいないよ」

「へぇ、確かにたまんねぇ香りだが。そんな美味かったのか? ソーラ」


 興味津々に聞く父さん。


「これ、すごい。リンゴ界のヴォルクス様だったよっ! すごく甘ーいの後にちょびっとだけ酸っぱいが来るんだけどこれがいいの。これは二刀流っ!」

「そりゃすごそうだ。よくわかんねぇけど、すごいのはわかった」

「ニシシ、そうじゃろうそうじゃろう。あと四つは四人で仲良う分けるとええじゃろう」

「うんっ、一緒に食べよう」


 姉ちゃんがシイ様の提案にうんと頷くと、父さんと母さんの方に振り向いて話す。

 でもそこでシイ様が少しうつむき顔を曇らした。


「でものぅ……」

「でも?」


 僕は聞き返す。一体どうしたんだろう。


「わしとしたことが、とんだミスをやらかしての。この中の一切れ辛口のピリリンゴがまざってしもたんじゃ。うーん、どれかわからんし。どうしようかのぅ」

「そんなっ!」


 見るからにオロオロしだすシイ様。同じくらいうろたえる姉ちゃん。


「姉ちゃんそんな驚かないでも。ピリリンゴってなんだかかわいい名前だしちょっぴり辛いくらいじゃないのかなぁ?」

「カイトいかんっ。いかんなぁ、名前で侮っちゃいかん。その判断は大変危険な事じゃ。名前と違ってピリっと辛い程度ではないんじゃ。――その辛さはすなわち地獄、地獄の業火の代名詞。これを口にするや否や鼻から火を噴きのたうちまわる。しかも地獄はそこで終わらん、向こう三日はなに食べても激辛というまっこと恐ろしい鮮血のごとき赤い果実。それがピリリンゴなのじゃ」


 シイ様がものすごく真剣な顔をする。

 口じゃなくて鼻からっ? なんて、なんて恐ろしいんだ……。まさに天国から地獄。くっ、なんてものが混ざってしまったんだっ!

 でもどうしよう、切り口を見ても違うのが混ざってるとは思えない。これじゃ、シイ様だって見分けがつかないのも無理がないけど。


「へへぇ、そりゃあまずいな。ソーラ、カイトどうする?」


 どこか楽しげに聞いてくる父さん。母さんも隣でニコニコしてる。

 なんでそんな余裕があるんだろ? あっ、食べてないから食べれなくてもいいと思ってるのかな?

 そう思って父さんを見ていると姉ちゃんが耳打ちしてくる。


「カイト、どうする」

「僕、あの味は。うーん、ちょっと諦められないなぁ」

「そうだね、あたしもだよ」

「でもピリリンゴって、シイ様が言うくらいだしとんでもないんじゃ……」

「うーん、それはきっと大丈夫だよ? なんとなく、ああいうのはお父さんが引く気がするの」


 なるほど。僕もそんな気がしてきた。むしろあれだけ余裕ぶってるんだから引いてくれないと困るよね。


「おーい、聞こえてるぞソーラ」

「ニシシ。まっ、どうする?」

「やるっ!」


 姉ちゃんが元気よく答える。

 なんのことかわかんないけど、ノリがなんかの企画みたいだねぇ。


「そうかそうか、さっすがじゃ。じゃあ、お主ら一切れずつ持て」


 さっきの曇った表情からうって変わってすっごい楽しそうなシイ様。

 みんなが一切れずつ手に取る。シイ様の激変になんか変だなぁって思いながら、僕もリンゴをとる。


「よし、じゃあ俺からいくぜ」


 まずは父さんが切り出す。空中にぽいって投げるとパクって口のなかに見事に入る。


「んっ!」


 両手を握りしめて頭をしたに向けると踏ん張るようなポーズをとる。


 あぁあぁ、これは大当たりだね。ニッシッシ。おっとっと、シイ様みたいな笑いかたしちゃった。ニッシッシ。

 ふー、なんにせよこれで安心して僕はゆっくり食べれるね。


「うんっめぇぇ!」

「あれぇっ?」


 予想と違う反応に思わず声に出る僕。


「へっへ、俺はそんなクジ運悪くねぇよ。オチ担当はだいたいドライだ」


 なるほど、ドライさんってオチ担当だったんだ。

 僕もなんとなくそんな気がしてたんだ。


「じゃあ、次は私ね。シイ様いただきます」

「ああ、召し上がれ」


 母さんがシイ様に挨拶すると上品に口につける。

 なるほど、ここは意外に母さんが……。


「あらっ、ほんと。とってもおいしい」


 なんてことはなく、いたって普通にクリアする。


 僕は姉ちゃんの方を見ると姉ちゃんと目があう。

 なんという運命のいたずら。

 ここで僕と姉ちゃんの一騎打ちになった。


「まさか、カイトとこうなっちゃうとはね」


 姉ちゃんが少しだけ顔を下に向けて目を閉じると、口の端をわずかに上げて笑う。


「そうだね。……で、どっちが先に食べる? 僕が先に食べようか?」


 挑発する僕。

 正直僕は勝ちを確信していたのだ。なぜなら、まえに広場の近くの赤い木の実を食べた時、姉ちゃんは酸っぱいのばかりを引いていたんだ。


 じゃあ、勝ちが決まっているならどっちが楽しいかだ。

 先に食べて、残った姉ちゃんが悔しがる姿をみるか。

 それとも、姉ちゃんが鼻から火を吹くさまをよそに口いっぱいに頬張るか。


 ……なんだか想像すると、ちょっとかわいそうになってきたね。

 まっ、たまにはいいよね?


「あたしが先に行く。あたしはお姉さんだからね」

「そっか。わかったよ」


 ……これでよかったんだ。

 少しの罪悪感が僕を襲うけれど、そう自分に言い聞かす。

 姉ちゃん、見習いだって言っても剣士だもの。立派に戦ったうえでの結果だものね。

 でも、さすがは姉ちゃん。目がまだ諦めていない。

 その緑の目でじっとピリリンゴを見ると意を決して口に頬張る。


「――っ!」


 悲鳴にもならない小さな声をあげると大きく目を見開き、膝をついた。


 姉ちゃん。これで、お別れなんだね。

 向こう三日間、美味しいものとは……ね。

 大丈夫、あとは任せて。その間の美味しいものは僕が受け持つよ。


 僕はそう思って姉ちゃんの肩に手を置く。

 シャクシャクシャクと瑞々しいリンゴの音だけが虚空を揺らす。


 さ、僕もそろそろいただこうかな。

 しかしあれだね。こう決まってしまうとなると、ふふ。

 ――存外つまらないものなんだね。


「じゃあ僕も。いただきま――」

「ゥおいしぃぃっ!」

「あれれっ!」


 思わず飛び上がる僕。姉ちゃんの大きく開いた目はさっきのようにキラキラさせていた。

 どどど、どうしてぇ?

 姉ちゃん美味しいものだといつもすぐ叫ぶのに。あっ、さっきシイ様に言われたからかっ。


 なんてことだ、みんながこうだってことは。


「僕のこれがピリリンゴ……?」


 うんと同時に頷くみんな。

 しばしの沈黙。


 あっ、あっ、あっ。でもでもでも。


「本当は誰か当たりを引いてて僕を騙そうとしてるんじゃ……?」


 一同に首を横に降るみんな。

 最後の希望が潰えた。


 僕は手に握るピリリンゴを見つめる。

 この時、僕は小さく安堵のため息を吐いたんだ。


 ……これでよかったんだ。

 だって誰もピリリンゴを食べることは無かったんだもの。

 あの天国が下りてくるリンゴ、名前はシュワキマセリンゴ。

 これは、今僕が考えたんだけどね。

 そのシュワキマセリンゴを二度食べることは出来なかったけど、結果として誰も嫌な思いをすることは無かったんだもの。


 少し自虐的に僕は笑う。

 損な役回りだと思う。

 ……だけど、僕らしい。……かな?


 なーんてね。あとシュワキマセリンゴって呼びにくいのでやめっと。


 僕はそっと手に持ったピリリンゴをシイ様のお盆に返そうとした。


「カイトは、食うてくれんのかのぅ」


 えーっ!

 とても悲しそうな呟きに驚いて僕の手は止まる。


「いや、無理にとは言わんのじゃ。じゃが……戻されてしまうんかのぅ」


 えーっ、えーっ

 シイ様が続けざまに顔を伏せて言う。僕の手は行き場を失ってしまう。

 それでもやっぱりと思って返そうとするとシイ様が「あっ」って小さく言うからピタッて止まる。


「あ、いやっ。無理にとは言わんのじゃが。わし、カイトにてっきり喜んでもらえるもんじゃとおもっとったからな。ついの」


 言い繕うシイ様。さすがにピリリンゴってわかってたら喜んで食べれないよね。

 ってか、そこまで言うと無理にでも食えっていってる気がするね。

 でも、僕はシイ様の期待には答えられないよ。オチ担当は他にいるんだからね。

 ごめんね、シイ様。そう思って今度こそ返そうとすると、シイ様の右ほほに目から流れる一筋の光が走る。

 シイ様はすぐにその涙をぬぐう。


「あっ、すまん。カイトに食ってもらえんのかって思ったら悲しくなっての。ふふ、おかしいの。千年も生きとるのに、笑っとくれ――」

「カイト、いっきまーすっ」


 僕だって男だっ!

 あのシイ様に涙を流させた? 僕のバカヤロウっ!

 軟弱な僕の目を冷ますべく、ピリリンゴを高だかと掲げるとそのまま落とし口のなかにゴールさせる。


「おおっ! いい食いっぷりじゃっ!」


 シイ様がお盆を脇に挟むと手を叩いて喜ぶ。


 ……良かった、喜んでくれて。姉ちゃん、あとは頼んだよ。

 僕は口の中のリンゴをシャリっと噛み締める。

 ぱーっと先程の天国が降りてくる。

 あれ? 辛さのあまりに僕死んだ? いや、違う。これはさっきのシュワキマセリンゴ(仮名)と同じだ。

 顔がふにゃあっと緩む僕。だけど、すぐに思い直す。僕が食べたのは鼻から火を吹く地獄の果実“ピリリンゴ”。きっと一度天国気分を味わせた後で激辛地獄に叩き落とすんだ。

 おお、なんと恐ろしい果実だろう。

 僕の顔はキリリと引き締まりピリリンゴの攻撃に備える。そして鼻の穴を押さえる。


 ……こない。

 少し待っても僕のお口は天国状態で顔が緩む。

 ダメダメ、気が緩んだところに来るパターンのやつだ。おお、おそろしや。

 そして僕の顔はまたキリリと引き締める。


 僕はなんどかこれを繰り返す。


「お父さん、カイトのお顔が面白くなっちゃた……。」

「む、むむ、ぶふぅ。だっはっはっ!」


 ちょっと心配そうな姉ちゃんをよそに、我慢できずに膝を叩きながら笑う父さん。母さんもあらあらとか言っちゃってる。


 もうっ! 遊びでやってるんじゃないよっ!

 くっ、しかしなんて美味しいんだっ! まだかっ、まだ辛いのは来ないのかっ!


「クックッ、あー、シイ様よ。ピリリンゴってどこに生えてんだ?」

「ニッシッシ、さぁのぅ。なんせ存在せんからの」


 ゴックンと音をならして飲み下す僕。

 目を点にしてきょとんとする。


「えっ?」

「ピリリンゴなんてわしも知らん。あったら教えてほしいくらいじゃて、ニッシッシ」

「えっえっ? あれ? どういう? ふがっ」


 母さんに軽く鼻をつままれる。


「辛いリンゴが混ざったってのは嘘ってことよ」

「ふぇ? えーっ!」

「イタズラ大成功じゃなぁ。ニッシッシ、カイト。リンゴ美味かったか?」

「おっ、美味しかったけどさっ!」 


 んもうっ! 妖精さん、イタズラ好きなんだからっ!

 熱くなってしまってついつい丁寧な言葉使いも忘れてあっとする。


「……です」

「リックから話聞いとるじゃろ? わしは家族にそんなひどいもんは食わせんよ。まぁ、イタズラはするがな」


 シイ様が僕の頭をポンポンってすると、ニッシッシって笑った。

 笑ったときにシイ様の胸元のペンダントも軽く揺れる。クローバーのような、見方によっては樹にも見える意匠の緑の石のペンダント。父さんと母さんが家族の証しに贈ったペンダント。


「あと言葉使いも気にせんでいいからの。リックなんか不遜そのものじゃしな」


 父さんに目をやるシイ様。父さんが耳を手で塞ぐと横を向いて口笛を吹く。ただし、空気の漏れる音しかしていない。

 もう、父さんってば。

 僕はシイ様と同時に顔を戻すと向かい合ってニッて笑った。


「それに、家族じゃからな」

「はいっ! わかりましたっ。……じゃなくて、えっと」

「ふふ、まぁどっちでも構わんよ。お主が自然で居れればそれがええんじゃ」


 シイ様が柔らかくほほえむと、胸元のペンダントもキラキラ光った気がした。


「家族となると。お父さんとお母さん、シイ様の事お姉さんとしてって言ってたから……。おばさんになるのかな?」

「んなっ! おばっ! いや、たしかにそうなんじゃよ? そうじゃがぁ――」


 指を顎に当てて、目線と首を上にあげながら考えつつ話す姉ちゃん。おばさん発言に頭を抱えてうろたえるシイ様。

 年齢だけで言うとどこのおばあさんもびっくりの千歳超えではあるんだけどねぇ。


「でも姉ちゃん。シイ様ってどうみても成人したてくらいのお姉さんにしか見えないよ。僕、おばさんはしっくりこないかなぁ」

「さっすがカイトじゃっ! カイトはようわかっとる。()いやつめっ、このこの」


 シイ様が僕に飛び付くと僕のおでこに頬擦りをする。

 シイ様の長い髪の毛がくすぐったい。


「そうじゃっ! わしはお姉さん。永遠のお姉さんじゃ。カイトもわしを姉と慕ってもいいんじゃぞ」


 一瞬びくっとする姉ちゃん。どことなく不安げな顔をしながらじっとこっちを見ている。


「あのっ、シイ様。僕の姉枠はもう姉ちゃんが」

「おっとと、そうじゃな」


 僕はそっと姉ちゃんを流し見ると、シイ様もちらっと姉ちゃんを見るとニヤッとしながら離れる。


「そうよっ、ダメなんだからっ!」


 離れたところをシイ様から僕をぶんどるように抱きつく姉ちゃん。すごく満足そうな顔をするとふわふわの尻尾をぶんぶん左右に振る。


 シイ様は飛び出してきた姉ちゃんに一瞬だけ驚いた顔をしたけど、すぐにカラカラと笑い出した。


 シイ様のペンダントもキラキラとシイ様の笑い声と一緒に揺れた。



 ――で、終わっちゃいけないんだよ。


「父さん。えっと、アレ――」

「アレ? あっ、いっけねぇいけね。すっかり我が子を見守るお父さんモードだったぜ」


 なにそれ。そんなの設定解除してて?


「アレって? わしになんかあるんか? またプレゼントでもくれるんか?」

「違ぇよ。ちょっとな、シイ様に聞きたいことがあるんだよ」


 シイ様は「ほう」っていいながら、喜樹の根に腰を下ろした。

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