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“姉ちゃん、そう言う事をしてはいけないよ。他にも僕はいつもいつも思うんだけどね……”


「カイトくん見ててね」

「うん」


 アンシェちゃんがゆっくり深呼吸する。

 西魔術って火種を作るのしか見たことないけど、それ以外ってなんかあるのかな? ヴォルクス様は火は使うなって言ってたしなぁ。


「水三、風六」


 アンシェちゃんの左右の手に、それぞれ手のひらサイズの青色の玉と青玉の倍くらいサイズの緑色の玉ができる。


 へぇー、あれって二つ出せるんだ。


 僕がそんな事を思っていると、アンシェちゃんが両手の玉を重ねて混ぜる。

 合わせた手に青と緑のマーブルの玉ができる。


「わっ! わっ! 混ぜちゃったっ! 爆発しないのっ?」

「ふふっ、爆発なんかしないよー」


 アンシェちゃんは笑いながら右手を上げてマーブルの玉を上に掲げる。


「踊る、踊る、水は玉。踊るは風をはらむ玉」


 アンシェが言い終わると玉から大きいの小さい様々な泡が勢いよくいっぱい飛び出してきた。


「うわーっ! すごいっ なにこれーっ!」


 飛び出した泡はすぐに勢いを失ってプカプカ浮かぶ。高いのは屋根の上まで飛んでいった。

 僕、こんな西魔術見たことないよ。

 感動しながら見上げていると、一つ大きな玉がふわふわ僕の目の前に降りてきた。

 これって柔らかいのかな?

 そう思って手を伸ばすとパチンって弾けた。


「あっ、……割れちゃった」


 僕はなんだかひどくがっかりした気分になった。


「それねー、直接は触れないんだー。だからこうやってね」


 アンシェちゃんはまた一回深呼吸する。


「光三、風三」


 今度は白い玉と緑の玉を出すとまた両手を合わせて混ぜる。


「風よ光の示す方へ仄かにそよげ」


 アンシェちゃんの人差し指から緑の光が短く伸びだすと、そのままプカプカ浮かんでる泡に指先を向けた。


「こうやってね、風でなら動かせるんだよ」


 そのまま指から伸びる光が泡に触れそうになると泡はいやがるようにゆっくり動き出した。


「へぇー、僕もっ!」


 泡に向かって口を尖らせて下からフーフー吹き上げる。

 ぷるんぷるんってしながら泡が動き出す。

 これ、楽しいっ!

 僕は一生懸命上を向きながら息を吹く。


 ぶはー、ちょっとしんどいなっ!


 僕はぜーぜーっと息を切らす。


「あはは、お顔真っ赤だよー。カイトくんも西魔術使えばいいのにー」

「うーん、でも僕使い方わからないんだ」

「あれっ? そうなんだー? じゃあ私が教えてあげるー」

「わっ! ありがとうっ! 僕もああいうの出来るの?」

「できるできるー」


 嬉しいなぁっ!

 僕は両手を上げて飛び上がった。


 僕でも泡をいっぱいわーって出したりできるんだね。

 んふー。僕ね、おっきい頑丈な泡を出して中に入りたいなぁ。そしたら、ふわふわ飛べるんじゃないかと思うの。スゴそうだよねっ!


 いやいやまてよ、頑丈過ぎたら割れないから風に流されるまま帰ってこれないんじゃ……。

 ダメだっ! こんな企画じゃ部長に怒られるっ!

 ……部長?


 僕は西魔術を使えるようになる前からあーでもないこーでもないと顎に手を当てて考える。

 ワクワクして顔が自然と綻ぶと、アンシェちゃんが僕の頭を撫でだす。


「カイトくんかわいいなぁー。ラークったら全然可愛いげないしなー」

「もうっ! アンシェちゃんったら。僕、男だからかわいいとかはいいのっ!」


 ぷぅってほっぺを膨らませて抗議する。

 なんかしらないけど、みんなこうなんだよね。まったくっ!


 そう思いながらアンシェちゃんを見上げる。

 アンシェちゃんは口に両手を当ててプルプル震えてる。

 あっ、あっ、怒りすぎちゃったかな。


「あ、ゴメンね。そんなに怒るつもりは――」

「もーっ! 可愛すぎるーっ!」

「ぐえぇ」


 アンシェちゃんが尻尾を激しく左右に振りながら、ギュッと僕の首に抱きついてくる。姉ちゃんほどはぜんぜん力は強くないけど、いい感じにアンシェちゃんの肩が首にキマる。

 首はダメです。


「あっ、かわいいはだめなんだねーっ! んふー、プリチーっ!」


 わーお、変わってないよね? それ。

 そして、今だめなのはかわいいじゃないの。首なの。


「いいから、それより、首っ、首っ」

「あー……」


 僕はアンシェの背中をポンポンと軽く二回叩きながら言うと、アンシェちゃんも気が付いたみたいで離してくれた。


「ゲホゲホっ」

「えへへー、ゴメンねー」

「でへへー、イイヨー」


 アンシェちゃんが可愛らしく舌をぺろって出して言うから、僕もついつい同じ調子で許してあげた。


「じゃあ、お姉さんが教えてあげるねー」

「うんっ」


 僕はドキドキしながらいるとアンシェちゃんが僕の両手をとって握る。


「息を私と同じようにー」


 そう言うと規則正しく息をする。

 スー、ハー、スー、ハー……。

 リズムを覚えて途中から僕も合わせる。


「イイヨー、そのまま続けて集中しててねー。西魔術はね、たね詠唱しかけでできるの。まずは(たね)ってのを作るのー」


 そう言うと右手を離して、アンシェちゃんが息を少し吐くと、手のひらの上に親指くらいの珠を作りだした。続けて息をふーって吐き出すと珠もぷくって膨らんで手の平サイズになる。

 タネとシカケ。手品と一緒だね。

 いや、あれはございませんだっけか。え? でもあるんだっけ? あれ?


「この青い珠が水の珠ね。手の平にこの色の珠をイメージしながら息をふーって吹き込むの。やってみて」


 危うくアンシェちゃんの言葉を聞き逃しそうになる僕。危なかった。

 僕はコクンと頷いて、息をはきながらイメージする。


 ……出ない。


 ふーっ、ふーっ。

 頑張ってみるけど珠が出てきて膨らむどころかほっぺが膨らむばかり。

 だんだん顔が熱くなってくる。


 これはきっと、火属性。


「んっ?、アンシェ。カイトに西魔術教えとるのか」

「うんー、そうだよー」


 道場の方からひょいっと顔を出すヴォルクス様。

 アンシェちゃんの言葉を聞いて眉を曇らす。


「ふむぅ、カイトは……。んー、ちょっと難しいと思うんじゃが」

「えー、なんでー?」


 そんなやりとりをよそに僕は一回深呼吸をする。

 よしっ、次こそっ!

 目を閉じてイメージしよう。青い水玉、さっきの泡のようなふわふわの水玉。


「あっ!」


 アンシェちゃんの声が驚いたような嬉しそうな声がする。

 僕もゆっくり目を開ける。


「わっ! やったーっ!」


 右手に手の平サイズの倍。いやそれよりいくらか大きい青い珠が乗っかってた。


「やったねっ! カイトくんっ!」

「あれれぇ? しかも、結構才能もありそうじゃのう……」


 アンシェちゃんが駆け寄ってくる後ろでヴォルクス様が首をかしげる。


「カイトくん。それ初めてにしては結構大きいんだよーっ! ラークだってそれより小さかったもんー」

「えっ? そうなんだ」


 へー、ラークくんより大きいのか。

 いつもチビチビって言われる僕。

 僕、おっきいんだって。


 ンフー、悪くないね。


 僕は、アンシェちゃんに大きいって言われた事をしばらく反芻していると。


「こらぁっ! カぁイぃトぉっ!」

「ひあっ!」


 道場の方から怒鳴り声がして、僕は反射的に悲鳴をあげる。青い珠がパチンって弾けた。


「はぁ、はぁ。もうっ! なんで見てないのっ!」


 姉ちゃんが剣幕に縁側まで走ってきて吼えるように言う。


「ご、ゴメンなさいっ!」

「あっ、あっ。ソーラちゃんゴメンねっ! 私がカイトくんに西魔術見せてあげるって言ったの」


 僕は身をすくませて謝るところで、アンシェちゃんが間に入る。


「はぁ、そうなの。もうっ、カイトはすぐ女の子と仲良くなるんだから」


 姉ちゃんが大きく息を吐く。


「そ、それで結果はどうだったの?」

「勝ったに決まってるじゃない」


 左手を腰に当てて右手を大きくピースをしながら掲げる。


「えーっ! ラークに勝ったのーっ! ソーラちゃんすごいーっ!」


 僕が駆けよって聞いたとなりで、アンシェちゃんが口に手をあてて驚く。


「ソーラちゃん、いつから剣を始めたのー?」

「うーん、お父さんと遊びながらなら一年前くらい? 本格的には夏からだけどね」

「ラーク四才くらいから父上にビシビシ仕込まれてたのよー。この前なんかね、女王都の九つ以下の部の剣技大会で三位になったのよー」


 ラークくん六歳だから……。

 えーと。ななつ、やっつ、ここのつ……。えっ! 三つ上の子とも戦ってたのっ?


「すごいね、三つ上の子とも戦って勝ってたの?」

「そうよー、二百人くらいいたから結構やっつけてたのよー」

「二百人……」


 二百人って……。アンシェちゃん達ってどんな村に住んでるんだろう。


「へぇ、じゃああたしが勝ったのは年の功ってやつねっ」

「ブフォッ」


 姉ちゃんがムンって胸を張って言うと、ヴォルクス様が吹き出すと後ろを向いて声を殺して笑う。

 うーん、確かに姉ちゃんのが一つ上だけどね。


「ふむーん。ラーク、大丈夫かなぁー」


 アンシェちゃんが心配そうに道場の方を覗き込むと、そのまま靴を脱いで縁側から上がっていく。


「ヴォルクス様、あれ使っていい?」


 姉ちゃんは庭にある大きなタンポポを指さす。


「ああ、オッケーじゃ」

「じゃカイト、ちょっと手伝ってね」

「うん」


 そう言って一度道場に戻ると靴をもって出てくると、そのまままっすぐ庭にある僕の肩くらいまで高さがあるおっきいタンポポ。あれスイドウタンポポって言うんだけど、そのスイドウタンポポのところまでいく。


「カイト、はやくーっ、出してーっ」

「はいはい、ちょっと待ってね」


 姉ちゃんに催促されて僕はスイドウタンポポの花の首をもってちょっとずつ傾ける。

 水が花びらからちょろちょろ流れ出すのを姉ちゃんが両手で受けてばしゃばしゃ顔を洗う。


「ぷはー、きっもちぃぃ!」


 二三度洗った所で姉ちゃんが少し離れたから僕もスイドウタンポポから手を離す。


「カイトぉ、拭くものある?」

「ちょっとまってね。ハンカチならあるよ」


 僕はポケットからハンカチを出そうとする。

 あれ? ちょっと引っ掛かってなかなかでない。


「あー、これでいいやぁ」

「えっ? あっ、こらーっダメーっ!」


 なんと姉ちゃんは僕の服を引っ張って拭こうとする。

 僕は慌ててハンカチを出して渡す。


「はいっ! もうっ、これっ! あー、あー」


 濡れた手でさわるからちょっと服が濡れちゃった。

 まったく、これは一回ガツンと言わなきゃいけないね。


“姉ちゃん、そう言う事をしてはいけないよ。他にも僕はいつもいつも思うんだけどね……”


 うん、開始はこれだね。これでクドクドとやれば大変有効だと思うんだ。

 さ、言うぞー。


 僕は意志を固めて顔をあげる。


「えへぇ、ゴメンねっ!」


 姉ちゃんは顔を拭き終わってすごくさっぱりした顔を僕に向ける。そして、ニカッていう笑顔。

 思わずぽーっと見つめてしまう。

 姉ちゃんが少しだけ頭を傾ける。その動作に一瞬だったのか長い間だったのかわからないけど、僕はハッと我にかえった。


「あっ……。つ、次から気を付けてよね」


 僕の固い意志ははだしでどっかに走って行った。固い意志さん待ってー。


「あはは、はーい」


 僕はそっぽ向くと姉ちゃんが一応返事をする。けどあれは絶対反省なんかしてないんだ。

 うー、もう何度もこのパターンでうやむやになっちゃってるんだ。

 ズルいよねぇ。


「それにしても姉ちゃん、珍しく息を切らしてたね」

「うん、ラーク本当に強かったよ。同い年なら負けてるかも」


 すごく真剣な顔をする姉ちゃん。本当に強かったんだね。

 そう思いながら縁側に戻ると、アンシェちゃんが道場から出てきた。


「アンシェちゃん、ラークどうだった?」

「落ち込んでるみたいだけど。大丈夫よー、ラークは強い子だから。それより父上の方が……」

「はぁ、アインのやつはほっとけ」


 ヴォルクス様が大きくため息を吐く。

 ラークくん落ち込んでるのかぁ。でも、やっぱり双子だね。強い子だから大丈夫ってさすがの信頼感だね。


「それよりソーラちゃん、ずいぶんスッキリしたお顔してるねー」

「うん、顔洗ったからね」

「えっ? どこでー? あーっ! あの大きいタンポポっ! だっけー?」


 アンシェちゃんが顔をキョロキョロさせる。すぐにスイドウタンポポに気付いたみたいだけど、自信なさげに首をかしげる。


「ねぇねぇ、カイトにどんな西魔術見せたの?」

「えっ? あぁ、ちょっとまってねー」


 アンシェちゃんはさっきと同じように泡をたくさん作って飛ばす。


「わあっ、すごいっ! アンシェちゃんすごいんだね」

「えへへー」


 姉ちゃんに褒められて照れ笑いするアンシェちゃん。


「すごいよねっ! それでね、僕もさっきアンシェちゃんに西魔術教えてもらってたんだよ」

「そうなのっ? カイトずるいよっ! アンシェちゃんあたしにも教えてっ!」

「あばばば」


 姉ちゃんに肩をもって揺さぶられる。

 アンシェちゃんがイイヨーって言った所で解放された。




 ――― 図鑑 ―――


 《スイドウタンポポ》

 植物型。

 一見セイヨウタンポポによく似ている。ただしサイズに大きな違いがあり、そのまま尺をとてつもなく大きくしたような植物。花の丈はだいたい70cm~1mくらいある。

 花が常に水が潤っており、傾けると花弁を伝って水がこぼれおちる。この水は滅多な事で涸れる事はない。それはとてつもなく長く地下水まで伸びた根っこによりもたらされており、そこから水をくみ上げて花のところに逐次補充されるようになっているためである。

 花は一年中咲いているため、庭に生えると水道代わりに使える。

 ただし、気温が氷点下まで下がるような時は花弁が閉じ中の水が凍らないようになる構造になっている。そのため、このようなときには花弁をちょこっと掻き分けて開いてからでないと水を採取ことはできない。

その場合には、水を採取したあとにきちんと花弁を元に戻して置くのがマナー。そのままにしておくと中が凍って枯れてしまうので注意が必要である。開けたら閉める。

 花が一年くらい咲いた後は茎が1.5m~2mくらいまで延び、綿毛に変わる。時期は不定期だが、花が閉じて茎が伸び出すため収穫は容易である。綿毛は軽くてふわふわではっ水性がよく帽子などが作られ、かわいいと人気である。ただし、性質上風に飛ばされやすいため風の強い日は要注意である。

 種の部分は炒って食べると香ばしくておいしいため、おやつに人気である。

 葉っぱや根も食べる事が出来るが、味も特にいいわけでなく上水機能と釣り合うほどではないためもっぱら非常用である。

 獣人の森以外で根がつく事はまずないが、綿付きの種子は飛ばすと必ず地下水の通るところの上に落ちるため井戸を掘る時に有用である。

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