第三話
「お、おい……測定器が木っ端微塵に吹き飛んだぞ……!?」
「あいつの魔力、一体どうなってやがるんだ……」
静まり返る冒険者ギルド。
粉々になった水晶玉の破片を前に、元リーダーのアルゴは腰を抜かして床にへたり込んでいた。
隣にいるエレナは、目をキラキラと輝かせながら俺の腕にギュッとしがみついてくる。
「すごいです、スイル様! ギルド最高の測定器を破壊してしまうなんて……やっぱり私の目に狂いはありませんでした!」
エレナが興奮して跳ねるたびに、俺が貸したコートの隙間から、豊かな胸が腕に何度も押し当てられる。
(うおお、柔らかい……! 役得、まさに役得……!)
俺が内心で鼻の下を伸ばしていると、ギルドの重い扉が勢いよく開いた。
「ギ、ギルドマスター! 大変です!」
息を切らせた若手冒険者が飛び込んでくる。
「街のすぐ近くの街道に、最高警戒度Sランクの魔物『地響きの大百足』が出現しました! 現在、バットギルドの残りのメンバーが交戦中ですが、全滅寸前です!」
「なんだと!?」
ギルドマスターが顔を青くする。
すると、床に倒れていたアルゴが、弾かれたように若手冒険者の胸ぐらを掴んだ。
「嘘だろ!? 俺たちが抜けたとはいえ、うちのメンバーがSランクごときに負けるわけが──」
「それが、あいつら急に動きが鈍くなって、普段の10分の1も力が出ていないみたいなんです!」
その言葉を聞いて、俺は納得した。
俺のスキル『草を操る』の真の効果は、周囲の植物の生命力を吸い上げ、味方に還元すること。
つまり、俺がバットギルドの荷物持ちをしていた時、彼らは無自覚に俺から『全ステータス10倍バフ』を受け取っていたのだ。それが消えた今、あいつらはただの一般兵並みに弱体化している。
「ス、スイル……お前、何か知ってるんだろ!?」
アルゴが、プライドをかなぐり捨てて俺の足元に縋り付いてきた。
「頼む、戻ってきてくれ! 荷物持ちじゃなくて、副リーダーにしてやる! 報酬も山分けだ! だからあいつらを、俺のギルドを助けてくれぇ!」
額を床に擦り付け、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら土下座するアルゴ。
さっきまで俺をゴミのように見下していた男の、あまりにも惨めな姿だった。
ギルド中の冒険者たちが、冷ややかな目でアルゴを見下している。
「──いまさら戻ってきてくれと言われても、もう遅いです」
俺はアルゴの手を静かに振り払った。
「あんたたちは俺を無能だと切り捨てた。その結果がこれだ。自業自得だよ」
「そんな……っ! 頼む、頼むスイル──!」
絶望に染まるアルゴを置き去りにし、俺はエレナの方を向いた。
「エレナ、ちょっとその辺の草を間引いてくる。ここで待ってて」
「はい! スイル様、お気をつけて!」
俺はギルドを飛び出し、街道へと向かった。
そこでは、巨大な百足の魔物が、バットギルドのメンバーを今にも噛み砕こうとしているところだった。
「ひ、ひぃぃ! アルゴ、助けてくれぇ!」
「グルルル……!」
「やれやれ。街に被害が出ちゃスローライフの邪魔だからな」
俺は足元に生えていたただの『タンポポの綿毛』を一つ、ふっと息で吹き飛ばした。
それと同時に、スキル『草を操る』を発動する。
「──『烈風・千本緑針』」
俺の魔力を吸った綿毛の一粒一粒が、音速を超えるダイヤモンド並みの硬度の針へと急成長。数千発の緑の閃光となって、大百足を襲った。
ドバババババババババッ!!!!!
「ギェェェェーーーッ!?」
Sランクの魔物が、悲鳴を上げる暇さえなく一瞬で蜂の巣にされ、光の粒子となって消滅した。
バットギルドのメンバーたちは、腰を抜かしたまま、ただ呆然と空を見上げていた。
「よし、これで終わりだな」
*
ギルドに戻ると、Sランク魔物を瞬殺した俺は、一気に最高ランクの冒険者として特別待遇を受けることになった。
ギルドマスターから差し出されたのは、街で一番の高級宿のスイートルームの鍵だ。
「スイル様、本当にありがとうございました! あの、不躾なお願いなのですが……私もそのお部屋に、一緒に行ってもよろしいでしょうか? もっとスイル様のおそばにいたいのです……!」
エレナが顔を林檎のように真っ赤にしながら、上目遣いで指をもじもじさせている。コートのボタンが外れ、またしても素晴らしい谷間が主張していた。
「も、もちろん大歓迎だよ!」
元パーティーのバットギルドは、クエスト失敗の違約金と、俺への不当な追放による罰金で完全に破産し、全員奴隷に落ちることが確定したらしい。
あいつらがどうなろうと、もう知ったことじゃない。
俺は美少女エルフとの、最高に甘くて刺激的な異世界スローライフを存分に満喫するのだった。




