第二話
「お、おい、なんだ今の地響きは……!?」
俺──スイルが放った神級魔法『終焉の樹界降臨』の余波で、森の半分が消し飛び、巨大なクレーターが出来上がっていた。
レベル999の力は伊達じゃない。だが、さすがにやりすぎた。目立ちすぎるのはスローライフの敵だ。
「とりあえず、一回街に戻るか……」
自分のステータスを確認しながら、俺は冒険者ギルドのある街へと引き返すことにした。
道中、ガサガサと茂みが激しく揺れる。また魔物か? と身構えた瞬間──。
「きゃああっ!?」
飛び出してきたのは、魔物ではなく、一人の美しい少女だった。
透き通るような銀髪に、尖った耳。おまけに、着ている緑のローブはボロボロに引き裂かれ、信じられないほど豊かな胸元や、白い太ももが容赦なく露出している。
「うおっ!? す、すごいスタイル……じゃなくて大丈夫か!?」
「た、助けて……! 『暴走した殺人熊』に襲われて……ひゃんっ!?」
少女が足を滑らせ、俺の胸に飛び込んでくる。
柔らかい感触がまともに俺の体に衝突した。しかも、彼女の引き裂かれた衣服のせいで、肌と肌が直接触れ合っている。
(お、おふぅ……! 異世界転生して最高のイベントが始まったのでは……!?)
鼻血が出そうなのを必死に堪えていると、背後の森から巨大なキラーベアが咆哮を上げて迫ってきた。
「グルァァァァッ!」
「ああっ、もうダメです……!」
少女が恐怖で目を瞑り、俺の服をギュッと握りしめる。
だが、今の俺はレベル999だ。
「大丈夫。ちょっとそこらの雑草に、お留守番を頼むだけだからさ」
俺は足元に生えていたただのツタに魔力を流し、スキル『草を操る』を発動した。
すると、ツタは一瞬で太い大蛇のような大樹の根へと急成長し、キラーベアを一瞬でガッチリと締め上げた。
「ガ、ブッ……!?」
バキバキ、と小気味いい音が響き、危険度Aランクの魔物が指一本触れられずに圧殺される。
「へ……? キラーベアが一瞬で……?」
銀髪の少女が、信じられないものを見る目で俺を見上げてくる。
そして次の瞬間、俺から溢れ出た規格外の魔力のプレッシャー(風圧)のせいで、少女のボロボロだったローブの紐がプツンと切れた。
「あっ……!」
「しまっ──」
ハラリ、とローブが完全に滑り落ち、彼女の眩しすぎる下着姿(というか、ほぼ全裸に近い状態)が露わになる。
「ひゃああああっ!? な、何を見てるんですかこの変態エルフキラーーーッ!」
「違うんだ! 俺の魔力の風圧のせいで不可抗力なんだって!」
真っ赤になった彼女からポカポカと涙目で叩かれながらも、俺の目はどうしてもその素晴らしいプロポーションに釘付けになってしまうのだった。
*
なんとか誤解を解き(俺の予備のコートを貸した)、彼女と一緒に街の冒険者ギルドへと戻ってきた。
彼女の名前はエレナ。高貴なエルフの血を引く魔導士らしい。
「本当にありがとうございました、スイル様。あの……服を借りたお礼に、ギルドの登録、私がお手伝いします!」
すっかり懐いてくれたエレナに連れられ、俺はさっき追放されたばかりのギルドの門を再び潜った。
すると、受付カウンターの奥から、聞き覚えのある下品な笑い声が聞こえてくる。
「ハハハ! あのゴミ虫スイル、今頃森で魔物のエサになってるぜ!」
『バットギルド』のリーダー、アルゴだ。
あいつら、まだギルドで油断して騒いでやがったのか。
「おや、アルゴさん。ずいぶんと楽しそうですね」
「あ? 誰だてめえ……って、ス、スイル!? なんで生きてやがる!」
アルゴや周りのモブ冒険者たちが、幽霊でも見たかのようにガタガタと立ち上がる。
「ふん、ゴミを拾ってくれる奇特なパーティーでも見つけたか? おいおい、そこのエルフの姉ちゃん、そいつは『草を操る』しかできない無能だぞ?」
「失礼なことを言わないでください! スイル様は、キラーベアを一撃で倒した偉大な御方です!」
エレナが胸を張って言い返す。ギルド内が「ざわ…」と静まり返った。
「ハッ、嘘吐きやがれ! おいギルドマスター、こいつのステータスと魔力を測定器で計り直してくれ! 不正を暴いてギルドから永久追放だ!」
アルゴが騒ぐので、困り果てたギルドマスターが、巨大な魔力測定の水晶玉を持ってきた。
「スイルくん、一応、この水晶に手をかざして魔力を流してみてくれ」
「わかりました(まあ、ちょっとだけ手加減して流すか……)」
俺はほんの、本当に指先から一滴垂らすくらいの気持ちで、水晶玉に魔力を込めた。
次の瞬間──。
ピキィィィィィィン!!!!!
ギルド全体が太陽のような黄金の光に包まれる。
「な、なんだこの魔力は!? 測定不能、いや、数値が跳ね上がりすぎて──」
ドガァァァァァン!!!!!
ギルドが誇る最高級の魔力測定器が、俺の魔力に耐えきれず、大爆発を起こして粉々に吹き飛んだ。
「「「「「は?????(驚愕)」」」」」
アルゴも、ギルドマスターも、そして隣にいたエレナまでもが、口をあんぐりと開けて完全にフリーズしていた。
俺の最強スローライフ(と、ちょっとスケベなハーレム生活)は、ここから始まるらしい。




