第十九話
「ふふ、やっぱりこの冒険者ギルドの賑やかな空気、なんだか落ち着きますね」
すっかりお母さんとしての優しさと美しさが増したエレナが、俺──スイルの隣で楽しそうに微笑んだ。
世界を救い、盛大な結婚式を挙げてからしばらく経った頃。リリアーヌとジャンヌの二人も、俺の魔力を受け継いだ元気で可愛い赤ちゃんを無事に出産した。
国からは「最高顧問になってくれ」「王宮で暮らしてくれ」と何度も頼まれた。
だけど、俺の夢はあくまでも気ままなスローライフだ。
だから俺は、すべての栄誉ある肩書きを国に返し、もう一度、一人の『冒険者』として生きることを決めたのだ。もちろん、最愛の妻たちと一緒に。
「ちょっとスイル、待ちなさいよ! 私のFランクの冒険者プレート、ちゃんと紐が曲がってないかしら?」
金髪の髪をなびかせながら、王女の座を降りて一人の魔導士として登録したリリアーヌが、少し照れくさそうに俺の腕にしがみついてくる。
「ああ、ばっちり似合ってるよ、リリアーヌ。可愛い冒険者様だ」
「む、もう……っ! からかわないでよ!」
真っ赤になって怒るリリアーヌを見て、その反対側からラフな軽装に着替えた元聖騎士長ジャンヌが、ニヤリと笑いながら俺のもう片方の腕をホールドした。
「ははは、リリアーヌ様は相変わらずチョロいな。スイル、私も聖騎士の地位を捨ててお前の『前衛』になったのだ。これからは新米冒険者として、お前の背中を生涯守らせてもらうぞ」
「頼りにしてるよ、ジャンヌ。でも、俺のレベル999のスキルがあるから、ジャンヌにはのんびり旅を楽しんでほしいな」
俺がジャンヌの赤髪を優しく撫でてやると、彼女は嬉しそうに目を細めて俺の肩に頭を預けてきた。
俺たち4人と、空中神樹別荘ですやすやと眠る可愛い子供たち。
これからは家族全員で世界中を旅して、美味しいものを食べ、見たことのない景色を見る。それこそが、俺の望んだ究極のスローライフだ。
「おい、そこの新人ども! ちょっと見ない顔だな」
ギルドの奥から、ガラの悪いモブ冒険者たちが絡んできた。どうやら俺たちが大英雄スイルのパーティーだとは気づいていないらしい。
「そんな美少女三人をごっそり連れて冒険者気取りか? おい、そこのエルフの姉ちゃん、そいつみたいな優男より、俺たちと組んだ方が──」
「失礼なことを言わないでください」
エレナがぴしゃりと冷たい声で言い放った。
「私たちの夫であるスイル様は、世界で一番強くて、世界で一番優しい最強の冒険者です!」
「そうよ! あなたたちなんか、スイルの指先一つで塵になるわよ!」
「ふん、我が主の邪魔をするというなら、まずはこの私が相手になろうか?」
妻たちが一斉に俺の前に立ち、もの凄い魔力のプレッシャーをギルド内に放つ。あまりの次元の違いに、絡んできたモブ冒険者たちは一瞬で顔を青くして腰を抜かし、そのまま脱兎のごとく逃げ出してしまった。
「あはは、みんなありがとう。……さあ、記念すべき最初のクエストだ。のんびり行こうか、俺たちの新しい冒険へ!」
俺が笑って手を差し伸べると、三人の美しい妻たちは、これまでで一番輝くような満面の笑顔で俺の手を握り返してくれた。
前世の孤独も、過去の裏切りも、すべては今のこの幸せに辿り着くための道のりだった。




