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第十四話

うっ……! あ、あの……スイル様……お腹が、急に……!」

 魔王城が肉眼で見える距離まで到達した、その時だった。

 『動く空中神樹別荘』のソファに座っていたエレナが、突然お腹を押さえて顔をしかめた。

 レベル999の俺の魔力と、高貴なエルフの魔力を引き継いだ我が子の成長スピードは、人間の常識を遥かに超えていたのだ。

「エレナ!? ま、まさか産まれるのか!?」

「そんな、こんな魔王城の目と鼻の先で!? スイル、どうすればいいのよ!」

 リリアーヌが慌てふためき、ジャンヌも「私が周囲の警戒に当たる!」と聖剣を抜く。

 別荘の外では、俺たちの接近を察知した魔王直属の近衛兵数万が、黒い雲のように押し寄せてきていた。

 外には敵の大軍、中では愛する妻の初めての出産。

 普通の人間ならパニックになるところだが、俺の胸の中にあるのは、冷徹なまでの決意だった。

(俺の大切な家族の誕生を、1ミリたりとも邪魔させない)

「リリアーヌ、ジャンヌ、エレナを支えてやってくれ。……外の羽虫どもは、一瞬で消す。──『草を操る』」

 俺は別荘の床(神樹の幹)に右手を突きたてた。

 次の瞬間、空中別荘の底部から、数万本の黄金の根が槍のように突き出し、押し寄せていた魔王の近衛兵たちを一瞬で、文字通りチリ一つ残さず全滅させた。

 戦いとすら呼べない、一瞬の消滅。

「よし、邪魔者は消えた。エレナ、大丈夫だ。俺のスキルで、世界一安全な出産環境を作る!」

 俺はそのままスキルの出力を上げ、別荘内の空気を、世界樹が放つ最高級の聖なる生命エネルギーで満たした。

 痛みを和らげ、母体を完璧に保護する、神の領域のヒーリング空間だ。

「あ……不思議です、スイル様の温かい魔力が流れ込んできて、痛みが……消えていきます……!」

 エレナの表情から苦しみが消え、聖なる光が彼女の体を優しく包み込む。

 リリアーヌとジャンヌが手を握りしめ、俺が見守る中、部屋全体が眩い緑と黄金の光に満たされた。

 ふにゃあ、ふにゃあ……!

 光の粒子が舞う部屋の中に、元気で、透き通るような高い産声が響き渡った。

 産まれてきたのは、小さな銀色の髪と、ほんの少し尖った耳を持った、天使のように愛らしい女の子だった。

「産まれた……。本当に、産まれたのね……!」

「ああ、なんと神々しい赤子だ。スイル、おめでとう……!」

 リリアーヌとジャンヌが涙を流して喜び、エレナは我が子を愛おしそうに胸に抱いた。

「スイル様……見てください、私たちの、可愛い女の子です……!」

「エレナ、本当によく頑張ってくれた。ありがとう……!」

 俺はエレナの額に優しくキスをし、産まれてきたばかりの我が子の小さな手をそっと握った。

 その瞬間、俺の指先から、子供へと絶大な守護の祝福パッシブスキルが自動で付与される。

 前世で孤独だった俺が、今、この手の中に最高の幸せと、命のバトンを掴んだのだ。

 

 我が子の産声に震え上がるように、目の前の魔王城が大きく鳴動し始めた。

 世界で一番大切な家族ができた。だからこそ、その未来を脅かす魔王は、次の瞬間にでもこの世から消し去らねばならない。

 俺は愛する家族を背中に庇いながら、ついに最後の戦いが待つ魔王城の玉座へと足を踏み入れるのだった。

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