第十三話
「ふふ、スイル様、あーんしてくださいっ」
口元に差し出されたのは、甘く熟した異世界の果実。
俺──スイルは、ふかふかの特大クッションに身を委ねながら、言われるがままに口を開いた。
「ん、美味い。エレナの剥いてくれた果物は最高だな」
「もう、スイル様ったら! お腹の赤ちゃんのためにも、私、もっと美味しいお料理をたくさん作れるようになりますね!」
銀髪エルフの婚約者、エレナが嬉しそうに顔を綻ばせる。
現在、俺たちは魔王城へ向けて移動している最中なのだが──その移動手段は、およそ旅とは呼べないほど贅沢なものだった。
俺のスキル『草を操る』で巨大な神樹の幹をドーム状に編み込み、その中に最高級の家具を詰め込んだ、言うなれば『動く空中神樹別荘』。
外からの衝撃は100%吸収し、窓の外を流れる景色を眺めながら、のんびりと優雅な時間を過ごせる完全無敵の乗り物だ。
「ちょっとエレナ、ずるいわよ! スイル、次は私の番ね。ほら、私の特製ハーブティーも飲みなさい!」
金髪ツインテールの王女リリアーヌが、少し頬を染めながら、俺の右側にぴったりと体を密着させてきた。
王宮から持ってきたという絹の寝巻き姿の彼女からは、お風呂上がりのような甘い香りが漂ってくる。
「リリアーヌ様のハーブティーも落ち着くな。ありがと」
「ふ、ふん! 王女である私が直々に淹れてあげたんだから、感謝しなさいよね……って、ちょっとジャンヌ! あなた何をしているのよ!?」
リリアーヌが驚愕の声を上げた。
俺の左側を見ると、いつの間にか昼間の白銀の鎧を脱ぎ、動きやすい薄着になった聖騎士長ジャンヌが、俺の膝の上にそっと自分の頭を乗せていた。まさかの膝枕(逆バージョン)である。
「む? スイルの膝の上は驚くほど落ち着くな。さすが世界樹の魔力を宿す男だ……。スイル、私もお前にたくさん甘えたいぞ。こうして頭を撫でてくれると嬉しいのだが」
普段は凛々しい最強の女騎士が、耳まで真っ赤にしながら、俺の手を自分の赤髪へと誘導してくる。このギャップは反則だ。
「あはは、ジャンヌは髪が綺麗だな」
俺が優しく頭を撫でてやると、ジャンヌは嬉しそうに目を細めて俺の太ももに顔をすり寄せてきた。
「ちょっと! ジャンヌ、本当に大胆すぎるわよ! スイル、私の頭も撫でなさい!」
「スイル様、私もですっ! 私を一番に甘やかしてください!」
リリアーヌもエレナも負けじと、俺の両腕をそれぞれぎゅっと抱きしめ、おねだりするように顔を近づけてくる。
左右から押し寄せる柔らかい感触と、膝の上に乗る心地よい重み。
前世のブラック企業や、バットギルドでの地獄の日々を思えば、今の俺は世界で一番幸せな男に違いない。
「みんな、ありがとうな。俺、お前たちと一緒にいられて本当に幸せだよ」
俺が心からの言葉を口にすると、三人の美少女たちは一瞬で顔を真っ赤に染め、お互いに顔を見合わせて照れくさそうに笑った。
魔王城まではあと少し。
この最高に甘くて愛おしい日常を守るためなら、世界を滅ぼそうとする魔王なんて、指先一つで塵にしてやる。
俺は大切な彼女たちを両腕でしっかりと抱きしめながら、夜の空を飛ぶ神樹別荘の中で、幸せな時間をどこまでも満喫するのだった。




