第十一話
「エレナ、俺の後ろにいてくれ。リリアーヌ、ジャンヌ、門を開けるぞ」
我が家の最強防壁システムの警告音が鳴り響く中、俺──スイルは静かに命じた。
玄関の扉を開けると、そこには絶望的な光景が広がっていた。
空は禍々しい紫色の雲に覆われ、地平線を埋め尽くすほどの魔王軍の軍勢──その数、およそ数万。
その先頭には、かつて世界を滅ぼしかけたと言われる魔王軍四天王の一人、『狂乱の冥王』が不気味な笑みを浮かべて立っていた。
「ククク……高貴なるエルフと、規格外の人間が交わったか。世界を脅かす新たなバグの芽は、産まれる前にここで摘み取ってくれるわ!」
冥王の放つ圧倒的なプレッシャーに、さすがの聖騎士長ジャンヌも冷や汗を流し、リリアーヌは細剣を握る手に力を込める。
だが、俺の胸の中にあるのは恐怖ではない。激しい『怒り』だ。
せっかくエレナの妊娠が発覚して、これからみんなで幸せな家庭を築こうって最高のタイミングなんだ。
それを、こんな不気味な連中に邪魔されてたまるか。
「おい、魔王軍。あんたたち、完全にノックする相手を間違えたぞ」
俺は一歩、前に出た。
レベル999の魔力を、足元の地面に生えているただの『おじぎ草』へと一気に送り込む。
狙うのは手加減なしの広範囲殲滅。我が子に魔王軍の返り血一滴すら浴びせないための、神級範囲魔法だ。
「──『神樹界・万物終焉』」
パチン、と俺が指を鳴らした瞬間。
地響きとともに、魔王軍の足元から、一本一本が城門ほどもある巨大な黄金の茨が数百万本、爆発的に突き出した。
「な、何だこの植物は!? 魔力を、我が冥界の魔力ごとすべて吸い尽くされて──ぎゃあああああッ!?」
四天王の冥王が、悲鳴を上げる暇さえなく一瞬で黄金の植物に飲み込まれていく。
それだけではない。突き出した茨は意思を持つ生き物のように動き、数万の魔王軍を瞬く間に絡め取り、その生命力を一滴残らず吸い尽くして光の粒子へと変えていった。
わずか十秒。
世界を滅ぼすと言われた魔王軍の大軍勢は、俺の放ったただの『草』によって、文字通りチリ一つ残さず完全消滅した。
「は……? 魔王軍の四天王と数万の軍勢が、一瞬で……?」
「嘘でしょ……スイル、あなたもう神様か何かなの……?」
リリアーヌとジャンヌが、信じられないものを見る目で俺を振り返る。
宮殿を真っ二つにするほどの力を持つ彼女たちでさえ、この次元の違いには口をあんぐりと開けて固まるしかなかった。
「ふぅ。これでひとまずは安心だな」
俺がいつものように髪をかき上げると、後ろからエレナがトコトコと歩み寄ってきて、俺の服の裾をそっと握った。
「スイル様、お疲れ様です……! あの、お腹の赤ちゃんも、スイル様の格好いい姿を見て喜んでいるみたいです」
エレナが愛おしそうにお腹をさする。その笑顔を見た瞬間、俺の戦いの緊張は完全に解け、デレデレの父親の顔に戻ってしまった。
「よーし! 邪魔者も消えたことだし、これから生まれてくる我が子のために、世界で一番安全で平和なスローライフの環境を整えるぞ!」
「ちょっとスイル! 私も次の子供の母親候補として、全力でサポートするわよ!」
「ふん、リリアーヌ様、ずるいぞ。スイルの最強の遺伝子は、この私の剣技とともに次世代に受け継がれるべきだ!」
魔王軍を消し去った直後だというのに、我が家はまたしても美少女たちの賑やかな声で満たされるのだった。




