表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/21

第十話

「──え?」

 静かな朝の光が差し込むリビングで、俺──スイルは、持っていたスプーンを思わず床に落としていた。

 カラン、と高い音が響く。

 目の前では、いつも元気なエレナが、顔を真っ赤にしながらも、どこか慈愛に満ちた表情で自分の小さなお腹を両手で優しく包み込んでいた。

 その隣では、王女のリリアーヌと聖騎士長のジャンヌが、信じられないものを見るような目で固まっている。

「あの、スイル様……驚かせてしまってごめんなさい。でも、ここ数日なんだか体が熱くて、エルフの秘術で診てみたら……その、私とスイル様のお子様を授かっていることが分かったんです」

 エレナの口から告げられた、あまりにも突然で、あまりにも重大な事実。

 

 思い返せば、あの高級宿の夜から、俺たちは毎晩のように一つ屋根の下で寄り添い、絆を深め合ってきた。

 レベル999の俺の魔力と、高貴なエルフであるエレナの魔力が完全に交わった結果、新しい命がこの世界に宿ったのだ。

「う、嘘でしょ……エレナ、あなたスイルとそこまでの関係に……!? ずるいわ、私だってまだそこまでされてないのに!」

 リリアーヌがショックのあまり頭を抱えて叫び、ジャンヌも驚きで顎が外れそうな顔をしている。

「聖騎士として、まだ結婚もしていないうちから不純異性交遊などと……いや、待てよ。スイルの血を引く最強の子供が産まれるということか!? ならば私も負けていられん!」

 周りの二人が大慌てで騒ぎ立てる中、俺はゆっくりと立ち上がり、エレナの前へと歩み寄った。

 まだ実感が湧かない。だけど、俺の胸の中には、これまでにない温かい感情と、言葉にできないほどの愛おしさが爆発しそうになっていた。

「エレナ」

 俺は彼女の華奢な肩を抱き寄せ、その小さなお腹にそっと手を触れた。

 そこからは、確かに俺の魔力と繋がっている、新しくて小さな生命の鼓動が感じられた。

「ありがとう、エレナ。俺、絶対にこの子と、君を守り抜いてみせるよ。この家で、みんなで最高の家族になろう」

「はい……っ、スイル様……!」

 エレナの目から、嬉し涙がポロポロと溢れ落ちる。

 前世では誰にも必要とされず、今世でも無能だと追放された俺が、いま、この世界で本当の『守るべき家族』を手に入れたのだ。

 だが、最強の血を引く我が子の誕生を、世界が放っておくはずもなかった。

 突如として、俺が作った天然のオーガニック豪邸を囲む最強の防壁システムが、激しい警告音を鳴らし始める。

 地平線の彼方から、俺の規格外の魔力の誕生を察知した『魔王軍』の巨大な影が、この領地へ向けて動き出しているのを、俺のスキルが感知した。

「スイル、外に凄まじい邪気が接近しているわ! これは、ただの魔物じゃない……!」

「フッ、タイミングの悪い奴らだ。俺たちの愛の巣と、スイルの子供の未来を邪魔する奴は、この私が一歩も近づかせん!」

 リリアーヌとジャンヌが、即座に武器を構えて外を睨みつける。

 エレナをそっと背中に庇いながら、俺は静かに笑った。レベル999の魔力が、かつてないほど激しく体内を駆け巡る。

「せっかくのハッピーなお知らせの日に、空気を読めない奴らだな。……一瞬で消し飛ばして、静かなスローライフに戻るとしようか」

 新しい家族を守るため、俺の本当の『本気』が、今ここから始まるのだった。

第一章 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ