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「こんにちは鹿嶋さん」
「こんにちは」
昼休み。鹿嶋は給食後に学校にやってきた。
勉強はしたくないそうで、今は絵を描いている。
「来てくれてありがとう」
なんでこっちが礼を言わなきゃならないのか、なんで二回りも下のガキの機嫌を取らなきゃいけないのか。
そういう不満は一旦押し殺す。
「ここどう?スクールカウンセラーの先生が使う部屋なんだけどね、結構居心地良いでしょ」
「そうですかね」
冷たく返された。多分鹿嶋も圧迫感を感じているんだろう。
「…絵上手いね。学校来ない時は何してるの?」
「ネット見たり、絵描いたり、本読んだりしてます」
来週からテスト週間なんだけどな。
鹿嶋は一応テストは受けに来る。提出物もちまちま出しに来る。
ただ勉強していないので、やっぱり点数は悪い。いまだに一年生の範囲が出来ていない。
「一昨日鹿嶋さんのお母さんが言ってた別室登校っていうのを、先生達考えてるんだけどね。
やっぱり別室制度はうちには無いし、ずっと別室にいる先生とかもいないから厳しそうで。
鹿嶋さんに教室に来てもらう他無さそうなんだよね」
保健室登校というのもあるらしいが、それは養護教諭が嫌がった。不登校の世話はしたくなさそうだった。
「作るとかは無理なんですか」
「えっとね、そもそもそんな制度が元々無くて」
「無いから作るっていうのは駄目なんですか?使ってない教室ありますよね?」
紙から目を離さず小さい声で聞いてくる。
空き教室はある。先生がいないという問題も、授業のない先生を代わりがわりで入れるという選択肢がある。
「鹿嶋さん1人だけにそれをやるっていうのはちょっと…」
「要に面倒なんですよね」
グサリ。
胸になにか刺さった音がした。
「小学生の時もそうでした。担任の先生以外、面倒くさそうに私の相手してた。何かと理由付けて断って、その癖学校には来いって」
何も言えなかった。
沈黙が続く。グラウンドで騒ぐ子供の声だけが耳に入ってくる。
何か喋らなければ。
「…鹿嶋さんは、なんで学校に来たくないの?」
「分かりません」
「いじめられたとかなら、先生たちに教えてほしいな」
「いじめられてないです。たぶん」
なんだよ、たぶんって。
「…あの、先生ってなんで先生になったんですか」
急な質問。
彼女から話しかけられるのは珍しく、思わず最初の声が裏返る。
「え、どうして?」
「なんか怠そうじゃないですか、ずっと。保護者の前だけヘラヘラ笑って、なんで教師になんかなったんですか」
このガキは失礼という言葉を知らないのか、ずかずかとこちらのテリトリーに入ってくる。
「…別に、なりたくてなった訳じゃないよ」
子供が好きだからとか、憧れの先生がいたからとか、適当な理由を付ければ良かったのに、何故か本当のことを言ってしまった。
少しの好奇心が宿った鹿嶋の瞳を見て、あーまずかったな、と思ったその時、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。
「五時間目はどうする?俺の授業なんだけど来る?」
「早退します」
「え?でも今来たばっかでしょ」
「帰ります」
素早く荷物をまとめ部屋を出ていった。
大方、他の先生に「授業出なよ」という言葉をこれ以上かけられないためだろう。
……余計なことを喋ってしまった。




