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「給食だけでも食べに来ない?」
まさかこの台詞を自分が言う立場になるとは思ってすらなかった。
だらしないパーカーを着て目の前に立つ生徒は言う。
「給食だけ行って、周りの目が怖いので無理です。給食だけ食いにくる卑しいやつとも思われるのも嫌だ」
ごもっともだ。俺もずっとそう思っていた。
「みんな鹿嶋さんに会いたがってるよ」
「みんなって誰ですか?私は会いたくない」
ごもっともだ。俺もずっとそう思っていた。
周木市立周木中学校。この中学校には学年に2人〜4人の不登校生徒がいる。
2学年は鹿嶋苺という女子生徒が学校に来ていない。もちろん他にも不登校生徒はいるが、鹿嶋は小学生のころから学校に来ず、教師陣も手を焼いていた。
春、俺はそんな鹿嶋のクラスの担任になる。
不登校生徒の担任になるということは、その生徒の世話は担任がやるということだ。
「鹿嶋さんどうでした?」
コーヒーを片手に話しかけてきたのは学年主任の森下先生。
昨日、俺に鹿嶋宅へ訪問しろと軽く言ってきたのはこの人だ。
「全くですね。こちらの提案を全て却下した後、別室登校はないのかと聞かれました」
「どの学校も人手不足ですからねぇ。別室の先生を付けるほどの人がいないし、そもそもそんな制度ウチにはありませんし」
周木中学校の生徒が約300人に対し、教員は30弱。人手がないといったらないのかもしれない。
「そういえば明日、第一相談室が空くんですよ」
第一相談室。月に一回来るスクールカウンセラーが使う部屋だ。
ソファと小さい机があり、申し訳程度のぬいぐるみが置いてある。相談室特有の圧迫感があり、俺は好きではない。
「第一相談室に鹿嶋さん呼んで勉強させて、それで松村先生とまた話して…とかどうですかね?」
学校としては、あの状態をどうにかしようとしている“形”だけは必要である。
鹿嶋の不登校が治ろうが治らまいが、中学を卒業するまで右往左往しておけば教師の役目は終わる。
「そうですね、本人に電話してみます」
だから俺も、特になんの意味もない"話し合い"をしなきゃならない。




