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秘密売り場の少女  作者: 和音
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第十八話

外で小鳥がやかましく歌っている。

「ん……もう朝か……?」


もぞもぞと布団から這い出て、時計を見る。そこには、午前6:30と映し出されていた。


……おかしい。

いや、外を見る限り、確かに時間は午前6:30で合っているんだろうが、俺にこんなに早起きする習慣はなかったはずだ。

変だな、昨日は確か…………ん?待てよ、俺は昨日、確か、花火を見に行った。それは覚えてる。でも、なんで態々夏休みの最終日に花火なんか見に行ったんだ?

いやまてまて、そもそも、なんで布団が二つもある?

絶対要らないのに、なんでだ?夏の暑さにでもやられたのか?

っていうか、夏休みの間、俺何してた?全然思い出せないぞ?



日常に潜む違和感が、次々と現れる。

持ってない服、しかも女性用。浴衣も一着ある。買った覚えのないテレビにゲーム機。やけに食材が充実している冷蔵庫。

にしては、祖父の送ってくれている生活費は、あんまり減っていない。



そんな具合に、家の中のどこにいても、休む間もなく異常が見つかる。



なんだ?疲れてるのか?

そう思って、一旦少し休もうと、ソファに座ると、突然、頭の中で声が響く。


「慎也!」


「んあゃっ?!」

驚いて、思わず立ち上がり、あたりを見渡す。

しかし、当然家には俺一人。誰も見つからない。

……いよいよ本格的におかしくなったのか?俺の名前を呼ぶ女性の声が突然聞こえるなんて。

聞き覚えは、確かにあった。若いのか、それとも年老いているのか、よくわからない独特な声。最近何度もその声を聞いた気がする。

だが、いくら記憶をたぐれど、その声の持ち主らしき人物は、一切見つからない。

……気味が悪いな。お祓いとかするべきか?




取り敢えず、今日は始業式ということもあり、一旦違和感は置いておいて、少し早いが学校に向かうことにした。

歯を磨き、顔を洗い、服を着替える。

それらを終え、家を出ようとした時、やけに空腹であることに気がついた。

それも、小さな違和感ではあった。朝食を食べる習慣がなかったからだ。ただ、稀に食べることはあったため、さほど気に留めなかった。

むしろ空腹が今まであちらこちらに転がっていた違和感や、頭がおかしくなったのではないかという不安の原因なのだと結論付けたほどだ。



軽く朝食を済ませ、家を出ようとした時。何か忘れていることに気がついた。家を出る前にしなければいけないことがある気がした。

ただ、何を忘れているのかは、どれだけ頭を捻っても、思い出せなかった。

学校に向かう際の必需品は不足ないし、朝やらなければいけないことはもう終わっている。

小さな不安が解消されず、モヤモヤとするが、いい時間になっていることもあり、そのことは無視して、学校に向かうことにした。



扉を開ける。

「行ってきまーす」

鍵を閉め、道中で落とさないようにちゃんとしまう。




外の世界は、朝だからもあるだろうが、だいぶ涼しくなっていた。もちろん、汗はかくし、半袖じゃないと熱中症になるかもしれない程度には夏が残留しているが、それでも随分と過ごしやすくなっている。



いつもより家を早く出たからだろう。学校に向かう途中で、珍しく浩介に出会った。

「お、慎也!」

始業式の朝だっていうのに、実に明るい笑顔で話しかけてくる。その元気を少し分けて貰いたいものだ。

そんなことを頭の片隅で考えながら、他愛のない会話をしていると、学校まであと半分くらいの所で、浩介が変なことを聞いてきた。

「ところでさ、お前彼女とはうまくやってんのか?」

何を言っているのか理解ができず、暫くフリーズする。

「彼女?俺に?」

「いやいやいや、とぼけるなよ。だって…………あれ?いや、ん?いな……いか、いなかったな。そうか、すまんな、勘違いだった」


一瞬俺のことを馬鹿にしているのかと思ったが、その時、また頭の中で女性の声が俺を呼んだ。

俺の中で渦巻く違和感が、どんどん膨れ上がる。

俺ばかりでなく浩介も変なことを言い出した。流石に何かがおかしいのではないか?例えば、全人類が何かを忘れてしまっている、とか。いや、そんなSFじみたことはあり得ないか。じゃあ……


そんなことをあてもなく考えていると、浩介がまた話しかけてきた。

「まあいいや、ところでさ———」

ただの日常会話の延長でしかない、下らない話を繰り返すうちに、俺の中にあった考えは、雲散霧消した。



学校に辿り着く。

浩介は、別の友達に呼ばれ、俺は一人になる。

考える時間ができた。しかし、その時の頭の中には、さっきの考えは残っておらず、ただ、早く帰りたいという気持ちしかなかった。


大して友達もいない俺にとって、学校はなんとも苦痛でしかない。夏休み前まではそう思っていたし、実際にそうだった。


しかし、その日は、やはり何かがおかしかった。

あまり仲良くはない人が、何人か話しかけてきたのだ。

だが、やはりおかしなことが起きた。その人たちもまた、浩介と同じように、俺の彼女が云々、また会いたいだのなんだのよくわからないことを話す。







軽い始業式と連絡事項だけで学校が終わった。まだ太陽は昇りきっていない。


俺はすぐに家に向かった。

鍵を開け、ドアを開き、手を洗い、着替え、落ち着く格好になる。

そして、椅子に腰掛け、大して出来の良くない頭をフル回転させる。




一体何が起きている?

俺の夏休みの記憶が大きく欠けていることが関連している、気がする。あと、時折頭の中で響く声も。

さて、考えよう。納得いく答えが出るまで。






随分と長い時間が過ぎた。

しかし、俺の頭じゃ、ただの物忘れ以外の現実的な結論に辿り着かない。それ以外は全て妄想以外のなんでもないものになってしまう。



はあ、疲れたな。一旦昼飯でも食べるか。

無意識のうちに冷蔵庫をあさり、無意識のうちに炒飯を作っていた。

これも、普段の俺はしない行動だった。


……ん?えっ?!あれっ?なんで自炊してんだ?いや、まあ別に出来るけど、あれ?俺いつも冷食とか、弁当とか、インスタントラーメンとかで済ませてなかったか?いや、俺の記憶が間違ってて、本当はしてたのか?

その時まで散々おかしな目にあっていた俺は、自分の記憶というものがまるで信じられなくなっていた。


……まあいいや、完成しちゃったし、取り敢えずこれ食べちゃおう。


「いただきます」

洗い物を増やしたくないため、鍋から直接食べる。

味は、悪くは無かった。実際美味しくできていたはずだった。が、なんでかはわからないが、少し物足りなかった。味もそうだし、それ以上に、何かが不足していた。

しかし、その正体に気づく前に、俺は平らげてしまった。

「ご馳走様でした」



さて、どうせ考えてもわからないし……そうだな、一旦寝るか。今朝は早く起きちゃったしな。


寝室に向かうと、やはりそこには、なぜだかわからないが二つ布団が敷いてあった。残念ながら俺の記憶違いではなかったらしい。

贅沢に二つ使う、ということも考えたが、気味が悪かったので、買った覚えのない見た感じ新しい方を畳もうと持ち上げた時、()()()()()()が布団の下に挟まっていることに気がついた。

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