23.~仲間~
二階にたどり着いた俺たちは辺りを見回す。
ひとまず陽動作戦は聞いたようで周りに居るであろう感染者はAReの方角へ集められたようだ。
疎らにしか感染者の姿は映らない。
心配事は変異体と瀬戸内の怪我だ。
この一月の間彼が周りの者の先導者となっていることは事実である。
束ねていた者が動けなくなったグループが果たして機能するのかどうか…。
動けないと言っていたが、感染の心配も出てくるそうなれば誰が代わりを務めるのか。
自分たちが出て来た入り口の中までやってくると三人に安堵感が押し寄せ、黙ったままでいた皆の口が動き出す。
「なぁ、瀬戸内さんが居ない間、その陣内って人がまとめ役になるんだよな?」
「そうじゃね?へんなことしなきゃいいけど、そこまでの度胸はないだろ?」
素朴な疑問だったが笹川が腰ぎんちゃくという辺り暴走しそうにない気がする。
あまりに横暴な人物であれば周りが取り押さえるだろうし、心配はないと思われた。
外に出てる遼や晴の動向が気になる。連絡を取り合うこともしていたが、お互いパンデミックから一月の間顔を合わせることはなかった。浩平はあるようだが一度くらいは合流したいものだった。
考え事をしていたせいか気が付くと一階に到着していた。
「ボーっとすんなよ。その身体だと危機感が湧きにくいかもしれないけどさ」
浩平からの注意にもう一度気を引き締める。
確かにただの感染者や怪我をすることに別段焦りや恐怖はなかったが、変異体の強さは怖い。それに俺の身体の秘密を知られることはこの世界で孤立することを意味する。
身体についた傷はすぐに治るがこれが頭部の負傷だったりしたときはどうなるのか試したことは無い。
そもそも記憶自体があの夜以降はっきりとしない。
今は生き抜くことが目標であり、友人の安全を確保することが優先されるべき事項である。
隔離された場所から離れたこともあり安心したのか、山田が声を放つ。
「あー、緊張した。武器があるとは言えよく皆探索に出れるよな」
この言葉にこの男が臆病者と映る人間が居たとしても可笑しなことではないが、その体躯からはそうは捉えられない。
うほっ良い男山田である。普通の人間としてはかなり使えそうな印象だ。
身体能力はかなり良さそうな体躯に女子供に不安を抱かせないフェイスであり、臆病とも捉えられる言動には慎重さが覗える。
この男は仲間に迎えて損はないはずだ。というか俺の秘密を知る限りこいつを仲間に加えない手はない、武器くれたしな。
「山田さん、ぶしつけで悪いんですけどいいですか?」
「ん?なんだい?」
「モールでの山田さんの立ち位置なんかを教えてくれませんか?というか中の良いグループとか良く行動を共にする人間なんかは居ませんか?」
「質問の意図は何となく分かるんだけど、そうだな、ここでの俺の立ち位置はフリーだし、今のところは居ないかな?あんまり危険なことはしたくないんだよね」
「何処にも属してないんでしたら、俺たちと行動しませんか?」
「いきなりだなぁ、まぁ君の強さや行動力を考えるなら、一緒に行動させてもらってもいいか。よろしく頼むよ」
「ありがとうございます。俺はぶっちゃけて言うと友人の安否を確認して自分の周りさえ守れればいい人間なので、常識的な大人の人が居た方が行動しやすいんですよ」
「はぁ、この先苦労しそうだな」
「仲間は守る対象なのでそっちの方は任せてくださいよ!」
「ああ、その辺は期待しているよ。でこれからどうするつもりだい?」
まず外の人間、というか外に出ている友人とも連絡が取りたい。
現状を把握すること、これが常に必須となってくる。
当分困らなさそうだがモールの食料や資源にも限りがあり、人間同士の対立にも備えないといけない。
現に一階に行ったグループと三階にいるグループ。一月の間に何があったか分からないが分裂していることから、これからもわがままを言う人間は出てくるはずであるし
最悪モールの物資をめぐる争いに巻き込まれることもあるだろう。
そうなれは最悪仲間や自分の身に危険が及ぶことも考えられる。
今はまだモール全体に安全を確保できていないため、ギリギリのところで協力体制が敷かれているのだろうが、少し現状は変わってきているはずだった。
これまでまとめ役をしていた人間が動けないことやそれに台頭する勢力が出てきてもおかしくはないし、現に代わりの人間が出てきているんだ。
間違いなく変わる、そして変異体を確認したことだ。笹川兄のようにこちらに害のない者も居れば、あのでかいサルのような奴もいる。
今少人数で行っている探索のありようにも変化が出るはずだし、打ち切って安全圏だけで引き籠ることも考えられる。
そうなった時、限られた物資を得るにも仲間が必要になるはずだ。
ある程度理性が働いて後のことをきちんと考えながら行動が出来、人間を先導できる人物が…。
今のところ山田くらいしか大人で親密な関係を築いているものはいないのだが、大人も大人数になってくるとどんな心理が働くかはわからない。
信用できる人物、それを探さないといけない。一番わかりやすいのは利益。
ただ利益といっても先の展望を描けない馬鹿は信用出来ない。
後のことが想像できる者そして、周りの者と共感し合い協力できる者、利害が一致していてもその場限りでは意味がない。
秘密を共有でき、利害が一致し、そして後の行動も共にできる者で無ければこれから先、生きてはいけない。
皆が集まる区画へと三人は足を運ぼうとするが何か様子がおかしい。
狭く薄暗い通路では、まばらであったが人間を配置し感染者の動向を見守っていたはずであったがその姿は見受けられずぽっかりと空間だけが広がり
不気味さを増していた。
「おかしいな、何人か人が配置されてるハズなんだけど」
山田がそう言葉を放ち、三人の警戒心は更に強くなる。
「まさかゾンビがここに入り込んだとか…?」
その声に反応するように三人は耳を澄ますが何も聞こえてくることは無い。
全くの静寂が通路を包んでいた。
「二人とも油断しない様に進むよ?」
そう言いながら先陣を切るのは山田だった。
後から分かったことだが俺や浩平よりも早く来ていたのかここの地理には詳しいようだ。
一人で行動することが多かった山田も生き残るための一つの手段として地理の把握は済ませていたようで暗い通路を難なく進んでいった。




