22.~代理~
三人の携帯に連絡が入って内容を確認すると瀬戸内の怪我が深いようなので代わりに陣内という人間が代理を務めるという話だ。
そのほかに晴や遼達外周り班からも連絡があった。
この話は他の連中に秘密にしたいようで、メールの受信に履歴が残っている。
あちらもモール以外の安全圏を探す目的で資材調達の名目の下、キャンプ場などを発見したようだ。
外に出る分、危険を伴っているが、中で缶詰め状態の人間に比べれば少しは息抜きが出来ているのではないだろうか。
モールの中もまだまだ安全と言える場所は少なくパンデミックから一月が経過しているにも関わらず一階組は感染者の危険に晒されているわけだ。
外回りに向かっている班の全貌は明らかではない、まさか大学生二人だけで資材の調達をしているということはないだろうから何班かに分けて行動しているはずだ。
友人二人には俺のマンションが使えることも伝えておき、鍵を渡す約束も取り付けておく、もちろん周りに黙っておけと釘は刺しておいた。
「下でなんか問題でも起こったの?」
全員が同じタイミングで携帯を取り出した時点で何かあったのは気付いたようだ。
「何か起こったってか、今しがた話してた瀬戸内さん負傷の連絡だ、陣内とかいう人が代理に収まったみたいだぜ?」
聞き覚えのない名前を口にしながら携帯を見せると笹川は画面を見て言った。
「あの腰ぎんちゃくかぁ、ちょっともめるんじゃない??」
そう笹川は答えたがその態度は気持ち悪いものでも見たかのようだ。これだけでも陣内という男の人となりを想像できたが、
それもコイツの印象が良くないというだけで実際のところ関わってみないと分からない。
俺が浩平と山田の方に向き、誰なのか思いついてない様子で二人に目くばせをすると浩平が口を開いた。
「眼鏡かけたひょろいオッサンが居ただろ?あの人だよ」
「そんな人いたっけ?」
「まぁ居るんだよ、俺も詳しくは知らんが高校の化学教師をしていたらしい」
「お前らの表情から察するにイメージだけは何か良くなさそうだな、大人な山田さん、その陣内教師をどんな人物か知ってますか?」
二人の意見を聞いたがこいつらは初めから主観が入っていて、少し決めつけに似た気持ちもあると感じていたので唯一の良心、山田に意見を仰ぐ。
「そうだなぁ、良くも悪くも普通なんじゃないかなぁ、ぱっと見には頼りなさそうな印象はあるけどそこは元教師、引率するのには慣れてそうな気はするよ?」
「なんか若者受けし無さそうな人って感じですね」
「非常時ではあるから、いろんな人からストレスの矛先になり易そうな人って感じはするねぇ、よく胃薬飲んでるとこ見るしクレーム担当な役割が多いね、
あとは優柔不断そうなところもウケが悪かったりするけど脅威になりそうな人物ではないからこそ周りはパニックになったりせずにいれてるんじゃないかな」
「山田さんの言ってることは概ねあってるけど、あのおっさん小言とか多いんだよな、あと臭い」
「そうそう、アイツ絶対危ないわよ?穏健派気取ってる癖に細かいし、かといって現状変える努力何て皆無で、不平文句たらたら!加齢臭酷いし、あと臭いし!」
とりあえず取るに足らんという感じの人間であることは確かなようだ。これだけ少人数でも不満な印象を持たれる中年男性に少しだけ同情の念も湧く、主に臭いの部分
「臭いとか今更気にする環境じゃないだろ、まぁ小うるさい嫌味なオッサンという印象はあるな山田さんは、その臭いとか大丈夫なんですか?」
素朴な疑問だ。
「まぁ、もっと凄いのとか上には上がいるわけだし、仕事してるとそういう人とも関わることもあるわけで、ノーコメント」
感染者の溢れる世界で臭いのなんのと言っていたら埒が明かないのにここまでいわれるとは…。とんだ曲者だ、というか臭者だ。
ここで、俺を含め四人は見張りの交代時間を大きく残し方針を決めた。
モールの拠点を広め安全性を確保すること、この辺りは笹川や新井のグループに任せる。
穏健派の一階組では少し難があるだろう、何より感染者以外の変異体についても注意しなければいけないからだ。
そしてモール以外に拠点を持つこと
ここに居る人間がどのような行動を取るものなのか分からない。油断は出来ない。それほどに人間の精神はタフではないことは俺自身が感じているからだ。
信用のおける仲間を確保すること、対人間同士の争いなど強いだけでなく精神的にも余計な敵を増やさないような人物が必要になる。
これも追い追い探さないといけない。
課題は多いが目の前の安全の確保が最優先事項である。
これらを簡単に話し合い、連絡先の交換を交わし、俺たちは二階へと足を運んだ。




