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17.~保菌者のバーゲンセール~

どうやら先ほどの騒ぎは、あの化け物に起因するらしい。


仲間を喰うなどの発言によりアレが人間にとって脅威であることが覗えるが、どうにもあの女に懐いているようにも見える。


先ほど意見していた男達が一人また一人と女の前から姿を消し、ついには女とあの化け物、通称お兄ちゃんがこの場に残っていた。



「いつまでここに居るつもりなんでしょうね、早くどこかへ行ってくれないと俺たちが二階に降りることが出来ない」



浩平が一言口を開いて愚痴を言っていい、しばらくの沈黙の後、声がした。



「そこにいる人、もう出てきても大丈夫よ」



浩平も、山田もそして俺自身もあの女から見える位置に居ないのだが、三人とも反射的に先ほどよりも身を伏せるようにしていた。


静かになったエスカレーター前の空間から床のカーペットを歩く音が近付いてくる。


先ほどの猿のような化け物を相手にした時よりも威圧感があふれていた。



「何人か気配が漏れてるよ二人、いや三人ね、もうここには他にあいつらの仲間は居ないから安心して出てきてもいいのよ。まぁ私等に危害を加えるつもりなら容赦するつもりはないけどね」


しばらくの沈黙の後、浩平が発言した。



「本当なんだな?」



そういって浩平は立ち上がり笹川妹の視界に入る。



「あら?沢渡君じゃない?ここに居るってことは、もう下は壊滅したの?」



「ずいぶんとキツイことを言うね、もうネコ被るのやめたんだ?」


浩平はむっとした表情で憎まれ口を叩いていた。


これがこいつらの挨拶なんだろうかと疑問に思っていると山田が止めに入る。



「ちょっとちょっと浩平君、ここにケンカしに来たわけじゃないんでしょ、そうじゃないならこのまま通してもらえるようにお願いしようよ」



「あれ~、山田さんも居たんだ?あの時黙っててくれてありがとうね、おかげでこのグループで変に警戒されなくてすんだよ。でそっちの彼は?」



山田と浩平が出て行った時点で俺も隠れる意味はなくなったので続けざまに出て行くことにした。



「小此木優だ、浩平とは大学の友人でさっきこのモールに匿ってもらったばかりだよ」


「ふ~ん小此木君ねぇ、守るの間違いじゃない?」


「まぁ、匿ってもらうのも守ってもらうのも意味合いは同じだと思うけど…」



そう言いながら、どこか神経質な女だなあと考えていると笹川妹は続けざまに話しかけてきた。



「違うでしょ?君が、この人たちを守ってるって意味よ、保菌者の小此木優君」


 

カマをかけているのか、何なのか分からないまでも保菌者という単語が飛んできたことに驚く。


山田は妙な顔をしていたが、浩平は正直に驚いているようだ。その反応だとバレバレだ。


ここにはこの三人しかいないわけだから一人くらい知っている者が増えたところでどうにでも出来るだろう。


それに山田が下手に下の連中に話してパニックというかまずいことにはならないだろうと何となく思ってしまったのもあり正体をバラシてしまった。



「まぁ、そこの『お兄ちゃん』も居ることだし、だましても後が怖いから言っておこう、憶測だけど保菌者か、それであってると思う、噛まれてもすぐ治るしさ」


「そう、やっぱりそうなんだ、何だか一人だけ妙な感じがしたからね」



面と向かって知らない人間に普通の人間ではないと言われるとなんだか気持ちの良いものではなかった。

それよりも…。


「わかるのか?」


「アンタは分からないの?小此木優?」


「パッと見ただけで分かるわけがないだろう」



少しうつむき加減で手を口元に寄せて少し考えるような仕草をしていた。



「ふーんまぁ、良いわ。暫くこのモールで過ごすようなら忠告しといてあげる。今のところ身体に変化が起こってる人間を教えてあげる。ここにいるアンタと私、こっちのお兄ちゃんとさっき絡んできた新井、少なくともこの四人は噛まれてもあんな変化は起こらない。」


「ああ、何度も怪我したけど感染者のようにはなったりしてないし、傷の治りも早いわ、力は強くなるわで色々試してる最中だけど、モールに来てからはばれない様に行動してはいる」


「正解ね、普通の人間にとって、私たちのような存在は脅威だし、ただね、同じ境遇だからってぽろぽろ自分の特徴を相手に言ってちゃダメよ?自分から知らないうちに弱点を晒しているのと同じなんだからね。それと奄美修一という人物には注意しなさい。あいつのせいで、お兄ちゃんはこんな姿になったのよ!」


奄美か、聞き覚えのない名前だ。どのように注意すればいいのだろうか。


性格に問題があるのか、危険な行動を取る者なのか、一部の人間にだけ害があるのか分からなかった。そもそも俺と周囲の人間に害さえなければどうでも良い話だった。


「その奄美って人は何者なんだ?」


「何処の誰だかは分かっていない自分では何でも屋とか言ってたけど、ただ私とお兄ちゃんが怪我してるところを民家に匿って助けてくれたの」


「助けてくれたんなら普通良い人だとは思わないか?」


「まぁね、私とお兄ちゃんのことをstage2とstage3とか何とか言って助かりたいか?って聞かれて…当然助かりたいって言ったら変な薬を打たれて意識が無くなった。

気が付いたら誰も居なかった、夢かと思ったけど酷い怪我をしてたお兄ちゃんもピンピンしてたし、あたしも怪我してたはずなのにすっかり傷も消えてて」


「そんな身体になっていたと?」


「そう、さっきアンタが言ってたみたいに以前より傷が治るのは早いし力も上がっていた、お兄ちゃんはそれ以上に治癒力も力も強くなっていたわ。普通の人間なんか敵わないくらいに。」


「それでその末路はあの姿なのか?」


「このモールに来るまでに感染者も人もたくさん殺してきたわ。食べるためだったし、私も暴漢に狙われたりもした、力を使いすぎたのが原因なのか、怪我が多かったのもその原因の一つかもわからない、だからなるべく争い事はごめんなの調子に乗りすぎて私まで変わっちゃったらお兄ちゃんを治せないじゃない?」


力の使い過ぎや怪我の程度によるものか、時間の経過なのか原因はよく分からないが、身体に何か変調が現れだしたらここを去らなければいけないだろうと思った。人を殺したと言っているが事前にこの兄弟の異常性を聞いていただけに驚きはしなかった。暴漢とも言っていたし、状況もそれを許さないという面もあるということに薄々気付いてはいたからだ。


みんなで仲良くこの危機を乗り切ろう!なんてご立派な考え方であるが、実際のところ、そんなのは何もしないで文句ばかり言う足手まといな者にとって都合のいい話であって能動的に動く者からしてみればあまり都合の良いものでもないのだ。


「治せるのか?」


「治せるのかどうか分からないわ、だから奄美修一を探すために私は人を使ってここで生きてるのよ」


なるほど、ただ生きるだけなら噛まれても大丈夫だから俺のように感染者を倒しながら自分の食い扶持だけを考えて生きていてもいいと思うが、兄を治す手がかりである奄美修一を探すためにあいつらを利用しているわけだ。

まぁ、俺も浩平や遼それに晴も居るみたいだからここに来たようなものだからその考えも分からないものではなかった。



「それでお前が助けられたのは何時ごろだ?兄貴の変調が起こった時期も聞いておきたい」


「そうね、助けられたのはパンデミック後から数日が経ったあたりかしら?変化が起こったのは1週間前、沢渡君達はすでにグループを抜けた後だったけどね」


俺自身の身体が変化した時期とこいつらがこの力を手に入れたのが同時期ということか、何が起因してコイツの『お兄ちゃん』のように変貌してしまうかは分からないが力が強くなってからの時間には関係ないと思われた。


個体差はあれど笹川妹も俺も身体に変化はないわけだし、おとなしくしてれば大丈夫なのだろうか、俺の場合は別に変な薬を打たれたわけでもないし気が付いたらこんな身体になっていたわけだし、どうせ噛まれればアウトだということからして、儲けものという感想しか浮かんでこなかった。考えても仕方がないことでもあるし今現状は動くしかないのだ。もし身体に変調が起こればすぐにでもここを出て行かないといけないだろうと考えていた。

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