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4

 

 ギルドを出て歩きながらヒルダの副官であるイーヴァの位置を探る。


 女王にいきなり連絡を取っては何を言われるか分かったものではないし、ヒルダは恐らく事務作業に向いていない。女王に連絡を取りたいならイーヴァを一度経由するのがいいだろう。


 イーヴァは王城の第2層の一角に居るようだ。確か第1層が軍部だったはずなので彼らの所属は軍とは別なのだろう。

 とりあえず城に居ることが分かればいいのでそれ以上探るのはやめた。


 城の門番に依頼書を見せてイーヴァに繋いでもらう。

 手間だが城の中に転移門で勝手に侵入するのはさすがに問題である。なお、呼び出された場合はその限りではない。


 門に詰めていた者に案内してもらうと例の小会議室に向かっているようだ。

 ……嫌な予感がする。


 あ、いや。元々女王に用事があったのだからちょうどいいのか。

 すでに苦手意識が形成されているようだな。いかんいかん……。


 小会議室に着くと案の定部屋の前には近衛が立っている。やはり居るようだ。

 女王の位置は探っていなかったがもしかすると元々居たのかも知れない。

 部屋に入ると前回の4名が全員揃っていた。


「依頼の達成報告に来たのだが――なんだあの難易度は……普通は無理だぞ」


「ほう。珍しいの? そなたにしか無理だとは思うておったがそこまでであったか。ボスを抑えるのに苦労したのか?」


「私も最初はそのつもりで居たのだが、ボスの居る場所と樹の生えている場所が別部屋扱いでな。ボスを排除しなければ樹に触れることもできないような仕様で苦労した」


「2日で帰ってきておいてよく言うのう……。それでボスを倒してしまったのか?」


「いや、ボスを丸ごと別空間に隔離して部屋から排除することで、何とか樹に触れられるようになった。私が行ったからそれが出来たが、他の者では無理であろう。……恐らく帝王でも魔力が尽きて失敗する可能性が高い」


「なんと、そこまでか。――イーヴァ。記録しておくように」


「承知しました」


 この苦情により将来の犠牲者が減ることを切に願わずには居られない。

 一般兵なら何万人束になってもボスを倒さない限りは不可能である。


「それで、依頼の『大黒檀』は採取できたのだな?」


「ああ、丸々1本採ってきてある。大きいのでここでは出さないがな」


「それは3層前の広場に出してもらおうかの。あそこなら収まるであろう?」


 エイラ達と呼び出された際に馬車が停まった辺りか。

 全部塞いで不都合が無いなら何とか収まると思う。

 そう伝えるとそれでいいらしいので後で向かおう。


「それはそうと果実は採ってきたか?」


「採ってはきたが――こちらが本命だったりはするまいな……?」


 目を細めて軽く睨むも涼やかに受け流されてしまった。


「ほっほっほ。どれ、出してみい」


 空間収納の時間停止を解除し果物を取り出す。とりあえず1個ずつでいいか。


 ブドウが2種、普通の柑橘が2種、リンゴに柿に栗に桃に――。

 最後に『大黒檀』の真っ黒い実と『黄金文旦』を取り出した。


「なんと……! 言い伝えはまことであったか……」


 どちらに驚いているのだろう。視線を追うに両方かも知れない。

 せっかくなのでどういう品物なのか訊いてみるか。




 ◇ ◇ ◇




「なんじゃそなた……知らずに採ってきたのか」


 呆れられてしまったが『大黒檀』の実は元々採取の対象の一部であるし、『黄金文旦』の方は光っていたので仕方なくである。


 聞くとあのダンジョンの4階層はトレントが多すぎて地上からの攻略が実質無理なのだそうだ。確かに数歩歩く毎に叩かれるような状況では遅々として進まないであろう。


「空から行くのが唯一の正解というわけか……。貴重なものなのか?」


「余はよく知らんが娘は詳しいようだのう」


 見ると母に押されて普段全然発言しない姫君が目を輝かせている。楚々と控えているだけかと思っていたら学術肌の人であったか。

 女王とは話が合わなそうだな……。


「この黒い実は『大黒檀』の実ですね? 魔法薬である『超人薬』の材料といわれています! こちらの光っているのは『黄金文旦』! 最上級の回復薬である『完全回復薬』の材料といわれている伝説の素材です!」


 考えを読まれたのか女王からの痛い視線を頑張って無視しつつ話を聞くと想定より詳しかった。これだけ淀みなく情報が出てくるということは、色々な薬の材料を網羅しているということだろう。素晴らしい知識量である。


「イーヴァ……つまりすごく美味しいってことか?」


「隊長はちょっと黙っててください」


「たくさん採ってきたので1つくらい食べてもいいと思うぞ。後でやろう」


「わわわ私にもいただけますでしょうか!?」


「落ち着くのじゃ。心配せずとも分けてやろうぞ」


「はい……」


 ううむ……献上するのは10個くらいでいいかと思っていたが20個ずつに上方修正しておこう。どうやら本当に貴重品らしい。姫にまで回って来なかったらさすがに可哀想だ。


「ではこれらを20個ずつ納品する予定だが――場所は保管庫のような場所があればそちらにするがどうだ?」


 ここに山と積まれても困るであろう。


「ふむ。普通の果物は厨房の隣の倉庫で良かろ。貴重品は手数をかけるが第4層の宝物庫まで来てくれるか。イーヴァ、案内してやれ」


 そう言うと女王は立ち上がった。第3層前の広場の近くで待っておくそうだ。

 さすがに外で長時間待つ気は無いようだが、どの部屋に居ても扉の前に近衛が居るからすぐに分かるであろう。


 女王と姫と護衛のヒルダは出て行った。ヒルダが先導しない辺りとてもヒルダらしい。皆で迷子になったら大変だからな。


「では私たちも行きましょう」


 広げた果物たちを一旦収納し、イーヴァに案内され第1層の厨房まで行って倉庫に果物を納品。

 階段を見上げて遠い目をするイーヴァに飛行の魔術をかけて第4層に移動するとすごく感謝された。毎日居る仕事場でも辛いものは辛いらしい。広い階段で良かったな……。


 初めて来る第4層は王族の居住区らしく、意外と落ち着いた雰囲気の場所であった。確かに視界に光る物が多い中で毎日生活するのは落ち着かないであろう。


 宝物庫も色々あるらしく、時間停止をかけられる倉庫に案内されて納品してきた。作業としては地味だったので詳細は割愛する。




 ◇ ◇ ◇




 第3層の広場に行くと誰も居なかった。そういえば近くの部屋で待っておくと言っていたか。


 見ると第3層に入ってすぐの応接室のような部屋の前に近衛が立っているのであそこに居るようである。


「――お待たせしました」

「果物を納品してきた。次は『大黒檀』だな」


 イーヴァと2人で部屋に入る。呼応して立ち上がるかと思っていたがゆったりと座ったままである。せっかちな彼女にしては珍しい。

 と、いうことは私たちの後から更に誰か来るのを待っているのであろうか。


「――しばし待て。いま総務に設計図を持って来させておる」


 作りたいと言っていた橋の設計図であろう。

 私に見せたいということだろうか。

 デザインでも自慢したいのか?


 いや――そんなわけがない。

 うん? 設計図……寸法?


 ……分かった。

 丁度いい大きさまで私にカットさせるつもりだ。

 硬くて加工しづらいのが分かっている上に必要以上の部分がここにあっても邪魔でしかない。


 そして私には斬ることが可能だと分かっているのだから私が居る内にある程度カットを終わらせておけば後の作業が断然楽になるわけだ。

 相変わらず人使いが荒いな……。


「ただ待つのも暇であるな。せっかくじゃ、試食してみようぞ」


 先ほどヒルダに約束していたあれか。

 ヒルダは「おっ、いいですね!」と嬉しそうにしているが、さりげなくヒルダにあげる約束をした分が消費されている点に注意が必要である。王家への納品直後を狙うとは恐るべき策士だ。


 恐らく気付いているイーヴァは複雑そうな表情をしているが、どの道食べて消費される予定のもので元々換金される運命にはない果実なので、実質的な被害は無いとも言える。彼女は沈黙を選んだようだ。


 私も気付かなかった振りをしつつ『大黒檀』の実と『黄金文旦』を取り出してテーブルに置く。


 ――皿が要るな。

 大皿を2枚、魔力を物理変換して作成し、2つの果実を位相のズレを利用して皿の上で一口サイズにカットする。


 最後に『大黒檀』の枝の先を取り出して、楊枝の形に形成した魔力を枝の中に浸透、その魔力の形に枝の中身をくりぬいて作った楊枝を4本刺してやれば完成だ。


「えろう高価な楊枝を見てしもうたのう……まぁ良い。いただくとしよう」


 普通は毒見のひとつも経由しそうなものだが、私への信用を見せるためか迷わず楊枝を掴んで真っ黒い柿を口にした。

 どちらかと言うと腹を壊さないか心配になる黒さである。


「むっ――美味い!」

「これは甘いですね!」


『大黒檀』の実はあの見た目で美味しいようだ。

 見かけによらないものだな。王族2名が嬉しそうにしている。


「すっ――ぱい⁉︎」

「甘味も強いですが、酸味がかなり強いですねコレ……」


『黄金文旦』の方はヒルダが悶絶するくらいに酸っぱいようだ。貴重品は美味しいのが世の常のはずなのだが残念である。

 ヒルダの反応を見て王族たちはやや迷っていたが、好奇心には勝てなかったか『黄金文旦』の方も試食しては顔をしかめていた。


「これは確かに酸味が強いが……慣れたら癖になる味だのう」


 女王は結構いける派のようだ。また行く機会があれば採ってきてやるか。




 ◇ ◇ ◇




 口直しにブドウなど出しつつ待っていると、ノックに続いて入室の許可を求める声が聞こえてきた。設計図が届いたようだ。


「――お待たせして申し訳ありません。ご依頼の設計図です」


「よい。そこまで待っておらぬ。――む? そなたは設計した本人であるな。ちょうど良かった」


 設計図を持ってきた若い男性は設計した本人だったらしい。若いのに立派なことである。

 だがちょうどいいと言われて今は戦々恐々としている様子だ。


 分かる。気持ちはよく分かるぞ……。

 こっそりうむうむと頷いていると女王から睨まれたので止める。


「な、なんでしょう……?」


「なに――その設計図通りに作れる者が来たのでな。紹介しよう、ポンだ」


 カットだけでなく橋を作るところまでやらせるつもりであったか。

 私の予想を軽々と超えていく女である。見通しが甘かったか……。


 だがさすがの私も本格的に橋を作ったことなどない。

 専門家の助けがなければ――ああ、そこに居たか。


「そなたとポンの2名で橋を作って設置しておくように。頼んだぞ」


「に、にめ!? しょ、承知しました……」


 可哀想に顔面蒼白になっている。

 先例が無いほどの無茶振りである。どちらかというと死刑宣告に近い。

 2名では仮に完成させたとて持ち上げることすらできまい。ここは私がフォローするべきか。


「私はポンという。任せてくれれば悪いようにはしない。まずは設計図を見せてくれ」


 設計者の男性は一緒に責任を取ってくれそうな人物の登場に少し顔色が戻った。


「あ……私はカーディスと申します。設計図はこちらです」


 私は設計図を受け取った。広げて見てみる。

 ほうほう――木造のシンプルな橋ではあるが、手紙の封蝋で見たことのある王家の印が等間隔に散りばめられており、両サイドも転落防止のためか狙撃防止のためか隙間の空いていないデザインになっている。

 長さは塔の間を計測したのかしっかり書かれており、端の方も段差ではなくスロープにすることで歩きやすさも考えられているようだ。


 ただ、巨大な1本の樹を削り出す前提で設計されているのかどこにも繋ぎ目がない。あの硬さの樹を削り出すのは途方もない労力が必要ではないか?

 特に両端のスロープになっている辺りを塔に差し込む仕様になっているのだが、これはどうやって差し込むつもりだったのか。塔を一旦傾けるわけにもいかないだろうに……。


 これはアレだ。

 若さゆえの夢のある設計というやつだ……。

 ちらりと女王を見たらにっこり微笑まれた。


 なるほど。実現可能性を度外視して選定した結果、これがいいという結論に達したわけだな。そこは度外視しないで欲しいところである。


「わかった。これで作ろう」

「ほほ本当ですか!?」


 お前が設計したのであろうに。まさか採用されるとは、というやつか?


「これならなんとかなるであろう。ただ、長さの微調整が利かないようだから再度現場を測定する必要があるな」

「もちろんです! 案内します!」


 橋本体を作成したはいいが塔と上手く接合しないというのが一番怖い。

 どう考えても微調整は不可能だ。




 ◇ ◇ ◇




 設計者のカーディスに案内され設置予定地までやってきた。早速測量を始めよう。ちなみに女王たちは他の果物を試食しながら待っているとのことである。


 この世界の長さの単位で言われてもあまりイメージできず感覚が掴めなかったのでロープを張り、魔術で浮かせて真っ直ぐに固定した時の長さを保管しておいた。


 その際に予定地である窓と窓が綺麗に水平に向かい合っていて驚いた。この城を建てた者は恐ろしく腕が良かったようだ。


「そういえば私が採ってきた『大黒檀』は伐ったばかりなのだが、乾燥させなくても大丈夫であろうか?」


「それは大丈夫だと思います。普通の木材であれば変形や割れが起こる原因になりますが『大黒檀』に関しては想像を絶するほど硬いですからその心配は要りません。若干縮む可能性はありますが、両端に余裕を持たせてありますので橋が落下する危険も無いです」


 なるほどな。塔に差し込む仕様になっていたのにはそういう理由もあったのか。実現できるかはともかく。




 測量も終わったので第3層に戻ってきた。

 先に長さを測るのに使用したロープを広場に敷き、女王たちに声をかけて移動してもらう。


「では『大黒檀』を出すぞ」


 空間収納の出口を展開し端から順に『大黒檀』を出現させていく、ギリギリ長さが足りて広場に収めることができた。


「これは……ほんに大きいのう。――ポンよ。余った部分を預かってもらうことは可能か?」


「む? それは構わんが、預かっている事を忘れて何かに使ってしまってはいかんな……。一時保管なら引き受けよう。どこか置き場所を決めて、決まったら連絡をくれ。急がなくてもいい」


「それでよい。ちと想定より大きいようだ。まさか必要量が半分にも満たないとはのう……」


 それは確かに。大きくて私も初見は驚いた。

 ではまずは必要分だけカットするか。


 先ほどのロープの長さに加えて両端のスロープに必要な長さを残し空間の連続性を切り離すことで切断する。余った残り6割ほどは空間収納に戻した。

 次に切り口の前に立ち、必要な幅や高さが確保できるよう上下左右を切断して収納する。

 真っ黒いやたらと長い直方体が完成した。


「えっ――。ええ!? ええええ!?!?」


 カーディスは驚いてばかりのようだ。

 空間収納から『大黒檀』が出てきた時はぽかんと口を開けて見ているだけであったが、それがスパスパとカットされていく姿はさすがに刺激が強すぎたらしい。


 次に設計図を見ながら魔力で半透明の模型を作ると宣言し作業を開始。一気に作るのは無理なので端からじわじわと作成していった。


「これでは雨が降ったら水が全部塔に流れ込んでくるのう。一定間隔で水だけ流れ落ちるような隙間を開けられぬか?」


「確かに。――こんな感じか?」


「……少し多いかの。その半分の数でよい」


「ではこのくらいか」


「そうそう。良い感じじゃ」


 細かいところを設計者や女王から指摘や修正を受けつつ模型が完成した。あとはこの通りに木材を加工するだけである。




 ◇ ◇ ◇




 完成した模型を崩さないよう魔力に還元し真っ黒い木材に浸透させる。完了したら模型の形そのままに先程の楊枝と同じく中身をくり抜いた。


 このままだと木材に埋まったままなので橋の部分をそのまま魔力でコーティングし、守られていない部分を選んでカットすることで上下に分割する。

 中から真っ黒い橋が生まれ出てきた。


 これで継ぎ目なしの『大黒檀』の橋が完成だ。

 使わない部分は空間収納に格納する。


「凄い……こんなにあっさり形になるなんて……」


 設計者が感動している。

 これに味を占めて無茶な設計を繰り返さねばいいのだが……。心配である。


「塗装はどうする? 設置してしまえば裏面などを塗るのが大変になるのではないか?」


「黒のままでよい。後で『本当に大黒檀なのか』と塗装を削られるのが目に見えておる。――ならば最高級であることを見せつけるくらいで丁度よい」


「確かにあちこち塗装を剥がされてはかなわんな」


 というか『大黒檀』は最高級だったのか。

 フロッサに軽くて硬い防具を作ってやろうと思っていたが、それだと話が変わってくるな……。


 塗装について考える必要があるのは私の方か。帰ったら好きな色を聞いておこう。


 浸透させていた魔力で空中に浮かせていた橋を一旦収納に仕舞う。

 次は再度設置先に向かおう。


「次は橋を設置する窓を通路に改装しに行く」


「ほう。そちらも簡単にできるのか?」


「数分もあれば終わるな」


 こき使われる予感に内心戦慄しつつ、設置予定地の窓へと皆で移動する。

 設置予定地の窓は部屋が並んだ廊下のつき当たりに位置する。窓ごと壁を抜いて橋を設置してしまうと風通しが良くなりすぎるのではないだろうか。


「橋の前に扉を設置する予定はあるか?」


「ふむ? 確かに必要であるな。先ほどの余りで作れるかの?」


「可能だ。だがデザインには自信が無い。厚めに作っておくので装飾は後から適当に頼む」


「承知した。何から何まですまんの」


「このくらいなら構わない」


 設計者と女王に確認を取りながら高さと幅を決め壁を切断して抜く。上から石材が落下して来ないよう柱と梁を追加で設置した。

 反対側の塔の内部も同様の処理を行なう。


 設置場所の確保ができたので、空中に空間収納の出口を展開し橋を取り出していく。手前にスロープ部分を差し込み向こう側へと収納の出口を移動させる。


 向こう側の塔の内部に収納の出口が入り込むような形で橋の出現が完了、収納の出口を消して橋をゆっくりと下ろした。

 よし、ぴったり合うな。


 次に、大風が吹いた際に浮き上がったりしないよう固定する必要がある。

 塔の外壁に沿って噛ませている部分に外壁ごと穴を空け『大黒檀』で作った太い棒を金属の杭の代わりに打ち込み、動かないよう外壁に固定することでやっと完成だ。


 最後に先ほどの端材から廊下を塞げる面積より少し大きい板を2枚切り出し、扉となる部分を切り抜く。

 開閉できるよう扉板の蝶番を付ける側を若干丸く加工し、『大黒檀』で作った蝶番を『大黒檀』で作った釘で打ち込んで完成である。金属代わりに使えて本当に便利だな。


 一旦収納に入れ、扉を設置する場所に溝を掘り、溝の場所で扉を再出現させて設置完了だ。溝に嵌め込んであるので簡単に倒れるようなことはあるまい。

 きちんと扉が開閉できることを確認して作業終了である。




 ◇ ◇ ◇




「――これで完成だ。通ってみてくれ」


 作業の完了を待っていた女王のために扉を開けて道を譲る。

 一応このために橋には足を付けず空中を移動するようにしていたが、こちらの世界にもそういう気遣いの仕方があるだろうか。


「最初に渡る権利を貰えるとは光栄じゃな。――ではありがたく」


 女王を先頭に皆が続く、材質が硬いのでスロープの部分で滑らないか心配であったが大丈夫なようだ。危ないようなら後で絨毯でも敷くであろう。

 空中に伸びる部分を渡り始めると、ヒルダが揺れないか体重をかけてみていたがびくともしない。問題無さそうだな、さすがは最高級品。


 中央付近で一行は立ち止まり景色を眺め始めた。王都の街並みだけでなく城壁の向こう側、遠く地平線の彼方からやってくる旅人の姿までもを見て取ることができる素晴らしい眺めである。


 塔からでも同じ景色が見えるはずなのだが、画角が広く開放感のある景色は情報量が多く気持ちがいいものだ。


「――よい橋ができたのう。期待以上である」


 涼しい風に目を細めながら、嬉しそうに女王が呟く。満足してもらえたようで良かった。

 感慨に水を差すのもアレなので言わないでいるが依頼達成のサインがもらえたら私も嬉しい。




 新しい橋を試し終え、無事に依頼達成のサインを貰えた。

 材木の採取依頼だったはずなのだが、果物が追加されたり遭難者を救助したり橋を作ったり工事をしたりと色々と大変であった。


 昇格試験扱いで無料なのをいいことに最大限活用されてしまった感がある。

 物語の冒険者らしい活躍ができているような、逸脱しているような残念な感じである。現実は厳しい。


 これでランク6に上がれるわけだが、この調子ではランク7の上級冒険者に昇格する日も近そうだな……。


 次はどんな仕事を押し付けられるかと思いを巡らせながら転移門を展開し、ギルド『木洩れ陽の森』の前に戻ってきた。ギルドに入ると夕方だったこともあり少々混雑しているようだ。


 私は別に急いでいないし昇格処理もあり手続きが他より若干長引く、ここはしばらく待った方がいいだろう。


「――あれ、ポンさんですね。お久しぶりです」


 端のベンチに落ち着くと、近くに居た冒険者4人組の内の1人が私に気付き声をかけてきた。誰かと思ったらコルトだ。


 ヒルダと一緒に帝国国境近くの山を調査しに行った際にギルドの紹介で付けられた腕のいい職業盗賊だ。あの希代の方向音痴を連れた状態で集合場所まで迷わず夜の山を走破してみせた実績がある。


「コルトか。久しぶりだな。元気そうでなにより」


「はい、おかげ様で。ポンさんも達成報告ですか?」


「ああ、昇格試験を終えたところなのだが……これはしばらく待ちだな」


「あはは、私たちもです。タイミングが悪かったですね。――昇格試験ということはもう中級に上がったんですか?」


「うむ。これでランク6になる」


「中級上位ですか、早いですね!? 比較対象が悪いかもですが……」


「いや恐らく私が特別早いだけだ。国から指示されてこき使われていてな。昇格試験ということにすれば経費削減になるであろう?」


「あっ。そういうことなんですね……お疲れ様です……」


 コルトもそういう方向での特別扱いは嫌らしい。そんな可哀想な人を見る目で見ないように。




 ◇ ◇ ◇




 話している間にコルトたちの順番が来たようで去っていった。

 せっかくなのでバナナを1房あげたら喜んでいた。なかなか食べる機会の無い美味しいものという認識だそうだ。そうなのか。


 万人受けするものなのであればもっと採ってきて保管しておくのもいいかも知れない。初対面の相手に差し出すだけで態度が軟化するというのは非常に便利である。


 もうしばらく待つと列が無くなったので私も向かう。時間帯限定かも知れないがギルドの仕事も大変だな。


「次の方~。あっ、ポンさんでしたか。お疲れ様です、採取はできました?」


「達成してきたぞ。ついでに加工までさせられたのは予想外だったが」


「あー……加工できる職人そうそう居ないかもですねー」


 確かに『大黒檀』の扱いに長けた職人など居るわけがない。そもそも材料が出回っていないのだから。


 ……それはつまり依頼の時点で私に橋作りまでさせる予定だったことになる。

 設計者に死刑宣告まがいの無茶振りをしたのも、見かねて私が助けるところまでを見越してのことだろう。本当に油断がならないな……。


「お待たせしました。ランク6への昇格おめでとうございます!」


 考え事をしている間に、提出していた依頼書の処理が完了しランク6になっていたようだ。ギルドカードのランク記載欄が手書きで6に修正されている。


「ランク7の上級冒険者になるとカードの材質もちょっと良いヤツに変わりますので。楽しみにしておいてくださいね」


「その前に何が起こるのか想像するとあまり楽しみではないかも知れん」


「……もしかして相当こき使われました?」


「果実の収穫と納品、『大黒檀』の加工と橋作り、城の工事と橋の設置まで内包された依頼だったぞ」


「酷いですねぇ。いちおう抗議しときます。響かないでしょうけど。――それより今果実の収穫って言いました?」


 目を輝かせ始めたので無言でスッとバナナを差し出すと嬉しそうに受け取った。まぁ主に手続き面で日頃お世話になっているからな……。


「バナナだやったぁ! ……はっ! 違います違います。『樹魔の楽園』には光る果物があるという噂があるのですが、採ってませんか?」


 ああ、そっちか。

 その割にバナナはしっかり足元にゴソゴソ仕舞っているので完全に間違いではないようだが、本当に聞きたかったのは『黄金文旦』の話だったらしい。


「凄く目立っていたから採ったぞ。ちょっと待ってろ――」

「あああ出さないでいいです買い取れないです予算が予算が」


 私が空間収納に手を突っ込むと慌てだした。そんなに高いのか。

 傷まないように再度時間を止めておこう……。

 気軽に試食させていいようなものではなかったようだ。


「身内に重篤な患者が居る貴族の方などから渇望されている素材なんですが、手に入らなくて困っていたんです。『樹魔の楽園』の奥にあるという目撃証言はあったのですがあんな危ない所にホイホイ行けるわけないですし」


 ホイホイ行かされた者がここに居るわけだが……。


「女王にかなりの量を献上しておいたからな。値崩れするのではないか?」


「どのくらいですか?」


「――このくらいの玉を20玉だ」


「そんなに!? あー……たくさんのヒトが奇跡的にたすかるコトでしょうネ……」


 そしてその感謝が女王に集まると。

 素晴らしい仁君ではないか?

 裏事情を知っていなければきっとそう感動できたと思う。




 ◇ ◇ ◇




 とりあえず今は『黄金文旦』の需要が無くなるであろうし、貴族から催促が来ることもしばらく無くなるので別に構わないか。という話に落ち着いた。


「もしそれでも欲しいという話があるようなら私に繋いでくれ」


「いいんですか? 貴重なものですよ?」


「まだたくさんある。それに無くなったらまた採りに行けばいい。本当に困っているなら優先して動いてやろう」


「……ポンさんらしいですねぇ。分かりました。もし問い合わせがあったらお伝えしますね」


 私は頷くとギルドを後にする。今日はもう帰ろう。


 次の依頼が来るまでしばらく日が空くであろうし、その間くらいは図書館通いをしてもいいだろう。ランク7への昇格試験に使えそうな依頼など、ここのギルドではそうそう用意できまい。女王からの依頼をのんびり待つくらいの気持ちで構えていていいはずだ。




 家に帰ると夕飯の支度をしている時間帯であった。

 アンナとメリルが談笑しながら台所に立ち、フロッサがお手伝いをし、アリシアがリビングでだらしなく昼寝をするとても平和な光景である。


 ちなみにアリシアには1日中フロッサと共に外で冒険者活動をした日は夕方から自由に睡眠をとる権利が与えられている。

 猫獣人には長めの睡眠時間が必要だとか何とか主張していたが、どのみち家事はメリルがきっちりやっているので手を出す余地はあまり無かったりするようである。ならば好きにすればいい。


「ただ今帰った。――フロッサ。新しいスキルオーブが手に入ったが見てみるか?」


「スキルオーブ!! 見たい!!」


 歳相応に目を輝かせて駆け寄ってきた。

 ちょうどお手伝いも一段落したところだったようで台所の2人もにっこりと見送っている。

 私はスキルオーブをリビングのテーブルの上に出していった。


「よし、順番に出すとまずは『生命感知』だ」

「おお……定番の索敵スキル……」


「そして『鑑定』だ」

「鑑定無双キター!」


「鑑定無双とはなんだ……?」

「『鑑定』で全てを見抜いて最強になることですよ?」


「残念ながら『鑑定』で分かるのは名前だけだ」

「そ、そんな馬鹿な……」


「残念ながら私が今使っているから事実だ」

「ガーン……全部光る玉なのによく分かるなぁと思ってたらそういうことかぁ……」


「だが偽物はすぐ分かるらしいぞ」

「名前が偽物のナントカになるってこと?」

「そういうことらしい」

「へー。真贋鑑定って意味だったんだ」


「次は『成長促進』と『鑑定』だ」

「何を成長させるスキルなの?」


 もはや『鑑定』は無かったことになっている様だ。


「言ったであろう。名前しか分からないと……」

「『鑑定』が微妙すぎる!」

「ふっ。後で1個やろう」

「微妙だけど欲しいです。ありがとうございます」


「次は『光属性吸収』と、『鑑定』だ」

「光属性の攻撃が効かなくなることだけは伝わってきました。あと『鑑定』被りすぎです」

「甘いな。あと5個出たが全部『鑑定』だ」

「ポンさんの運どうなってんの? やる気あるの?」


 そういえば幸運だと感じたことはあまり無いような気がしてきた。

 恐ろしい結論に至りそうなのでこの議題については当面棚上げとする。




 ◇ ◇ ◇




 見るとフロッサが考え込んでいる。


「どうした?」

「んー……相談なんですけど、『鑑定』を2個貰ってもいいですか?」


「8個もあるから構わんが。誰かにやるのか?」

「いえ、重ねて強化できないか試してみたくて」


「重ねる?」


 初めて聞く概念だ。重複しそうなものだが。


「はい。えーと、『鑑定』を何個も使うとその回数分だけ強い『鑑定』に成長するかも、と思って」

「ほう……! 面白い考えだがどうしてそう思ったのだ?」


 スキルオーブが同じものを何個も使って大丈夫な仕様かどうかは謎である。根拠が薄すぎるようなら止めた方がいいかも知れない。


「2つあって、1つは『鑑定』が弱すぎて名前負けしている点。もう1つは出現確率が明らかに偏っているから、最初から複数個必要になるスキルだったのかなと思って」


 私の運が悪いだけかと思っていたのだが。


 ううむ……。

 考え方が少々逆説的でかつ理論が強引な気がする。

 止めるべきか……?


「お願い! 多分2個使えないようなら消費されずに残ると思うんだよね。もしかしたら無駄になっちゃうだけかも知れないけど試してみたい!」


「……分かった。だが私が先に試す。お前の頭が爆散でもした日にはアンナに会わせる顔が無い」


「こっわ。ポンさんが爆散しても困りますけど?」


「私はそのくらいでは死なないからな」


「出たぁ……チート発言……」


 では納得してもらったところで『鑑定』のスキルオーブを掴み、迷わず消費する。


 ――『中級鑑定』を習得した。

 相変わらず上書きされるような変な感覚だが結果は出た。


「フロッサ。――正解だ」

「ってことは⁉︎」


「うむ。2個目で『中級鑑定』だそうだ」

「うわぁ、それまだ上があるヤツ!」


 フロッサは頭を抱えていたが、不意にもじもじし始めた。言いたいことは分かるぞ。


「あのー……ポンさん。ご相談がありまして……」


「まずは4つだ。スキル名で判断しながら止めるかどうか慎重に決めながら進めるぞ」

「やった! さすが話が分かる!」


 中級と来たら次は上級だろう。頭打ちの最上級が来るとすれば上級の次の4つ目が怪しいのだ。

 フロッサは私が差し出した2個を迷わず使用する。


「うん。『中級鑑定』覚えました」


 私は空間収納から2個取り出し渡す。

 フロッサは1個ずつ使用していった。


「うん。『上級鑑定』に『超級鑑定』だって」


 ほう? 魔法の階級と同じ上がり方だな。

 魔法の場合は上に禁呪と、あと帝王が自爆していた神級とでも呼ぶべき魔法があったはずだ。


 まずは1個取り出して渡す。

 ここまでは大丈夫であろう。


「いいの? ――うん。『究極鑑定』だって」


 ……禁呪ではなかったか。

 ううむ。一気に分からなくなったぞ。

 究極? 究極ならもう上は無いか……?


「ポンさん。『鑑定』のスキルオーブを鑑定してみてもいい? 何か分かるかも」


 そうか。調べればいいのか。

 それこそ『鑑定』スキルの出番である。


「あっ。全部で6段階だって。コレ使っていい?」


「せっかくだ。一番上まで行こう。いいぞ」


「ありがとう。――うん。『天啓の魔眼』だって。急に雰囲気変えるのやめてほしい」


 おお。これは頭打ちと確信できそうなスキル名だ。

 ……私も『上級鑑定』に上げておくか。




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