↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/10

2

 

 ギルド『木漏れ陽の森』に帰ってくるとツェシカ嬢は立ち上がって書類整理をしているところだった。まずいな、帰る準備かも知れない。


「あっ。ポンさん! えっ、日帰りですか?」


「もういい時間だからな。日帰りと呼んでも良いかどうか……。遅くなってすまない」


「帰りが夜になる方そこそこいらっしゃるので日帰りと呼んで差支えないかと。でも日帰りできる距離と依頼内容じゃないですよね。どうしました?」


 首を傾げたことで大きな眼鏡が少しズレた。帰りが夜になる冒険者が結構な頻度で居るならば、彼女の拘束時間は同様に毎日結構長いはずだ。人員が潤沢ではなさそうだと感じてはいたが大変な仕事だな……。


「依頼を完遂してきた。手続きを頼みたいが時間は大丈夫か?」


 カウンターに歩み寄りながら空間収納より依頼書を取り出す。女王経由になったことで今回の報酬の支払いはゴズルの町ではなく国負担である。国負担の範囲でダンジョンの破壊まで持って行けたことでゴズル氏は大喜びであった。

 うむ、いい仕事をした。


 ただ、今回は昇格試験だったので私への報酬は昇格そのものとなる。

 よって実質国の負担など無いに等しい。女王の辣腕に畏怖の念を禁じ得ないところだ。


「はい。まだギルドを閉めていませんので大丈夫ですよ。それより依頼完遂ですか、早いですね……」


 おお、まだ受け付けてもらえるようだ。申し訳ないがもうひと仕事してもらおう。

 依頼書を渡して完了の確認をしてもらう。しっかりゴズル氏のサイン入りである。


「――手続き完了しました。ランク5への昇格おめでとうございます! ギルドカードの更新は行ないますか?」


「ありがとう。更新はしようと思うが……更新しない者も居るのか?」


「いえ、ポンさんの場合またすぐランク6に作り変えることになりそうだなと思って」


 ああ……それは確かに。それだともはや無駄な作業でしかない。

 私の目標はランク7なのでランク5のギルドカードにこだわる必要は無いな。


「では記録だけ更新しておいてくれ。昇格試験はランク7になった時点で打ち止めにする予定なので、そこで改めて更新を頼む」


「ポンさんは上級狙いだったんですね。てっきりランク11とかを目指してると思ってました」


 魔物が帝ランクを目指してどうする……。

 そもそも許可が出るのかすら怪しい。

 いや、この口振りでは許可が普通に出そうだ。

 その場合は『魔物帝』とかになるのだろうか。

 ううむ……語呂が悪いな。


「そうだ。話が変わるが依頼で魔力石を手に入れた。売却は可能だろうか」


 大量の魔力石を入手したがゴズルの町では需要も販路も今ひとつらしく買い取りは厳しいだろうと言われてしまったのだ。そもそも魔法製品自体があまり町に普及していないらしい。


 私は空間収納を開きダンジョンコアの残骸と王タウロスの魔力石、普通のタウロスの魔力石数個を取り出してカウンターに置く。


「ポンさんそれ……! ダンジョンがあったんですか⁉︎」


「ああ。見ての通り破壊まで完了しているので安心してくれ」


「いえそっちではなく……よく日帰りできましたね」


「1階層しか無かった。出来たばかりだったのだろう」


「それでも、ですが……。ボスもタウロスでした?」


「む? 少し待ってくれ」


 王タウロスの魔力石を鑑定すると『タウロス教皇の魔力石』と脳裏に浮かぶ。ほぼ全裸のあの外見で教皇は無理があるのではないだろうか。


「タウロス教皇という個体だったらしい」


「――情報量が多いので一旦落ち着きますね」


 急に深呼吸を始めたのだが……。

 説明不足だっただろうか。




 ◇ ◇ ◇




「えーと……。ポンさんもしかしてスキルを獲得されました?」


 なぜか引き攣った笑顔で尋ねられる。


「『鑑定』というスキルだ。物の名称が分かる」


「やっぱり……それあんまり言い触らさないでくださいね」


「何か不都合があるのか?」


「スキル自体は悪くないんですけど、良くも悪くも真実を見抜きます。つまり偽物を鑑定したら名称が『◯◯の贋作』とか『偽◯◯』とかになるので、悪いことをしようとしている人からは目の敵のように嫌われているスキルなんです」


 なるほど。それは商売上がったりだな。

 だが私の場合は特に問題無いかも知れない。

 いや、周りの者が狙われかねないか……。


「承知した。人目のあるところで無闇に使わないようにしよう」


「そうして下さい。――ちなみに他にも獲得してたりしませんよね?」


「スキルオーブはあと2個出たが使用はしていないな」


 空間収納からスキルオーブを2個取り出す。

 そういえば片方は未鑑定であった。

 小声で鑑定すると『剛力のスキルオーブ』だった。

 ――怪力と剛力の違いが分からん。


「『怪力』と『剛力』のスキルオーブらしい」


「ちょ! ポンさん仕舞って仕舞って!」


 ツェシカ嬢が慌てるので空間収納に片付ける。

 もしかして高価なのだろうか。出現頻度からするとそこまで貴重という印象は無いのだが。


「もしや高価なのか?」


「冒険者なら喉から手が出るほど欲しいでしょうね」


 ああ、確かに。簡単に強くなれそうだ。


「スキルオーブは売却しない予定だ。魔力石の方だけできれば買い取りして欲しい」


「それを聞いて安心しました。田舎のギルドではスキルオーブを確実に持て余す自信があります……。魔力石も普通のタウロスの方だけでいいですか? ボスの方は王都なら売れると思いますよ」


 おお、いい情報だ。明日王都のギルドに持ち込んでみるか。


「数はどのくらいだ? 300くらいあるのだが」


「それは多いですね……。学園がある関係で意外と需要があるのですが、それでも100くらいが限界です」


「それで構わない」


「では100個で金貨2枚です」


 ふむ。消耗品としては割高だな。

 冒険者の生活費としては今ひとつの単価だが、冒険者の収入は売却益だけではないので致命的とは言えないくらいの安さだ。


 タウロスの魔力石を100個揃えて金貨2枚と交換することにする。ダンジョンコアの残骸については触れられなかったので買い取りは難しいのだろう。残骸なのでシンプルに価値が無いのかも知れない。


 私が置いた端からツェシカ嬢がチェックしていくという流れ作業で納品が完了し金貨2枚を受け取った。

 他に誰も居ない田舎のギルドならではの光景であろう。


「ところでランク6への昇格試験に使えそうな依頼に心当たりは無いか?」


「今のところは無いですね。中級上位ランクともなると結構な難易度になりますし。……数日も待てば女王様から回されて来るのでは?」


 それは昇格試験ではなく無償の奉仕と呼ぶのではないだろうか……。

 あまりにも的確な意見に、近い未来を幻視したかのような感覚を味わった。




 ◇ ◇ ◇




 王都に戻ると大変なことになっていた。

 ランバート家の寝室客間を問わず荷物で溢れている。最初は夜逃げでもするのかと驚いたが荷物が美しく包装されている。


 これは――買った物のようだな。


 エイラ達3人娘は食べ歩きから褒賞金を得たことで買い歩き――いや買い歩き自体は元々やっていたな。豪遊へと進化したようだ。

 どう考えても教育に悪い金の使い方だ。


 エイラを探すと夕食後の歓談中のようで、深々とソファに座り3人で談笑していた。男性陣は風呂だろうか。近づいて話しかける。


「エイラ。色々買い込んでいるようだが――褒賞金は残してあるのか?」

「ポン、珍しく遅かったわね。急になによ。ええと――明後日の出発までに何とか使い切れると思うわ!」


 違う、そうじゃない。

 なぜ計画的に無計画な使い方ができるのか。器用な奴め。


「今回褒賞金が出たことは実家にも伝わるのだろう? 使い切って大丈夫か?」


 エイラは「えっ」と短く驚くと腕を組み、口に片手を当て悩み始めた。

 少しずつ顔が青ざめていく。


「……大丈夫じゃないかも」


 むう……やはり。

 エイラの実家は商家である。

 浪費癖に寛容な商家というのはあまり聞かない。

 これが正妻などであればある程度は許されるであろうが、末っ子ともなれば叱られるに決まっている。


「ど、どうしよう!? 明日あたしだけ遊びに行かないとか無理なんだけど!?」


 心配するのはそっちか。

 むう……だが使ってしまったものは仕方ない。取り戻すのは難しい。

 かと言ってここで安易に金を渡してしまうのも非常によろしくない。


「分かった。では実家から何か言われた際は私に相談するように」

「助けてくれるの!?」


「金を渡したら渡しただけ全部使いそうなので金は渡さないぞ」

「ぐう! 否定できない」


「学園に帰った後にも必要だろう。少しは残しておくように」

「うう、分かったわ……でもありがとう。やばくなったら相談する」


 私たちのやり取りを見てフェリシアが困ったように呟いた。


「ポンさんはエイラちゃんに甘いですねぇ……」


 本当はもっと厳しくしたいのだが、今回のように手遅れだとな……。

 友人たちが本物の上流階級であると、このようにうっかりやり過ぎてしまう事もしばしばあるだろう。しかし友人たちにとっては無理のない範囲の出来事なので気付いて注意するのは難しいかもしれない。


 監視役を付けない前提ならば、もはや失敗して体で覚えるしかないだろう。

 そこのフォローくらいは仕方がない。


「主人の後始末は使い魔の仕事の範囲だ。――だがいつでも私が助けられるとは限らない……次は気を付けるように」

「了解!!」


 返事だけはいいのだがな。懲りずに次もやり過ぎる予感がする。


「ところでポン。今日は遅くまで出かけていたみたいだけれど、どこに行ってきたのかしら?」


 リーゼロッテが優雅にカップを傾けながら質問してくる。

 確かに私は毎日だいたい夕方くらいには帰ってきていた。


「女王の指示でタウロスの討伐依頼だな」


「うわ早速だったんだ……。あれ? それこの間見たかも?」


「よく覚えていたな。それだ」


「あれは確か上級の依頼ではありませんでした?」


「女王を経由した時点でその辺りはあまり関係なくなるようだな……」


「結局討伐の規模はどのくらいだったのかしら」


 やはり武家出身だけにリーゼロッテはその辺りが気になるようだ。

 ダンジョンがあり、破壊まで行なったと伝えると目を輝かせていた。

 いやいや……さすがに貴族の令嬢は連れていけない。




 ◇ ◇ ◇




 翌日は朝から王都のギルドに向かうことにする。

 ギルドに着くとアリシアとフロッサが居たので声をかけた。


「アリシア、フロッサ。早起きだな。明日には帰る予定だから今日は軽い依頼にしておいてくれ」


「ポンさんおはよう。……もうそんなに経ったっけ?」

「ポン様おはようございます。承知しましたニャ!」


 元気そうで何より。

 何か言いたそうだったので聞いてみると、お土産を買いこみ過ぎたらしく空間収納に預かってほしいそうだ。

 まぁ確かに大荷物を抱えてランバート家まで移動するのは大変か。


 お世話になっている宿屋までついていき荷物を預かる。

 これは闘技場でかなり稼いだな……。

 宿屋の中で周囲に人が居ない瞬間があったので、フロッサに『怪力』や『剛力』のスキルが欲しいか訊いてみた。


「んんー……。もうすぐ赤ちゃんが生まれるタイミングで力加減が不安定になるのは避けたいです。抱っこさせてもらえなくなりそう」


 ああ。それがあったか。それは確かに由々しき事態だ。

 続いて言われた『それに脳筋プレイは防御が疎かになりがち』の意味は分からなかったが、とにかくもう少し体が成長してから再検討ということになった。とりあえず空間収納に入れたままにしておこう。

 また別のスキルが手に入ったらそれも勧めてみるか。






 ――2人と別れてギルドに戻る。

 体ごと格納してあるタウロスが40体ほどあるのでまずは解体依頼だな。

 解体受付に行くと以前担当してくれた男性が居た。ザレスといったか。


「おっ。あんたァ確か……解体依頼か?」


「数日ぶりだな。タウロス40体だがいけるか?」


「また多いなオイ。だが大丈夫だぜ! 受付すっからカード出してくれ」


 空間収納からギルドカードを出して渡すと、手早く受付票を作成して交換用の木札と一緒に返してくれた。


「ほんじゃついて来てくれ。――タウロスだったらあの台の辺りがいいな。あの近くの広いところに積んでもらっていいか?」


「了解した。そういえばタウロスは胸を一突きにして仕留めてあるのだが支障はあるだろうか?」


「なんだそれ逆にすげぇな……。魔力石は腹の下辺りにあるからそっちは問題無ぇぞ。この間のワイバーンみたいに全身潰れてたら魔力石も砕けちまうんだろうが、胸を一突きぐらいなら大丈夫だろ。ただ胸の辺りは良い肉が取れるからそこはちょっと惜しいかもな!」


 なんと。食べられるのか……。世界は広いな。

 新事実による動揺を抑えつつ指示された場所にタウロスを積んだ。


「ちょうどいま暇してる奴多いからよ。人数かけて夕方までには終わらせておくわ。欲しい部位とかあるか?」


「いや、特に無いので全部売却で構わない」


「そいつぁ肉屋が喜びそうだな! 了解。その内容で明細上げておくわ!」


 歯を見せて気持ちの良い笑顔を見せるザレス。頼りになる男だな。

 タウロスの解体は彼に任せるとして、残りの魔力石の売却に行こう。


 解体所を出て受付カウンターに向かう。

 納品カウンターにすべきか迷ったが、依頼の品を納品するわけではないただの売却なのでここは受付カウンターにしよう。


 ちょうど朝の受注争奪戦が終わった時間帯のようで列はすいているが、受付嬢たちがややぐったりしているように見える。話しかけて大丈夫だろうか。


「すまない。魔力石の買い取りをお願いしたいのだが」


「あっ、はい。冒険者ギルドへようこそ。――魔力石の買い取りですね、現物は今ございますか?」


 おお、大丈夫そうだな。

 私は空間収納を開いてタウロス教皇の魔力石を取り出した。


「これは……。申し訳ありません。少々お待ちください」


 受付嬢は立ち上がって素早くどこかに行ってしまった。

 大丈夫ではなかったようだ。




 ◇ ◇ ◇




 例によってギルド2階の小さな応接室に案内された。

 前回は大金の受け渡しのために連れて来られたが今回は何であろう。


 タウロス教皇の魔力石は確かに一抱えもあるほど大きいが、もしかして思った以上に貴重品だったりするのだろうか。


 背もたれの無い冒険者用の椅子に座りながら少し待つと、ここのギルドマスターであるディアン氏がやってきた。


「おお、あなたですか……! 受付の子が『ボス級の魔力石が持ち込まれました!』と言うから何事かと思って来てみれば」


 なるほど、そっちか。

 ボス級の魔獣が王都近辺に出現した可能性への聞き取りというわけだ。

 私は再び大きな魔力石を取り出すと応接机に置いた。


「その様子だと私が女王に使われていることも知っていそうだな」

「ええ。立場上把握しています。タウロスの討伐依頼があなたに回された所までは聞き及んでいましたが――ダンジョンがありましたか」


「話が早くて助かる。ボスのタウロス教皇の魔力石だ。王都のギルドでないと買い取りが難しいらしくてな」

「確かにあの辺りでは買い手が見つからないかも知れませんね。ちなみにコアと普通のタウロスの魔力石もまだありますか?」


 ダンジョンが破壊済みなのも把握しているようだ。もしくは簡単に予測できるほど常識なのか。私はコアの残骸とタウロスの魔力石を数個取り出した。


「ダンジョンコアは残骸であれば回収してある。ボス以外のタウロスの魔力石は190個あるな」


「いいですね! 宝石として加工しやすい良い形です。全部買い取らせていただいても?」


「もちろん大丈夫だ。お願いしたい」


「では査定係を呼んで参ります。私が勝手に値付けすると怒られるんですよね」


 ああ、時価を考慮せずに買い取りされると販売担当部署が困るのであろうな。

 その辺りはギルドマスター権限うんぬんという問題ではないのだろう。


 呼ばれてきた査定係に魔力石たちを渡し、換金用の木札を受け取った。

 先ほど解体に回した分と合わせて夕方に引き換えとのことだ。

 きちんと色々調べながら値付けしてもらった方が私も助かる。


 台車を持って来たり積んだりと少々時間を取ったがまだ昼前くらいの時間帯である。さて夕方まで何をしようかと部屋を出たらまたディアン氏に出くわした。


「ああ、ポンさん! 良かった。まだ居ましたね」


「む? 私に用事か。――何か事件でも?」


「いえいえ。ダンジョンの発生と破壊は国に報告の義務があるんですが、各町からの報告が遅くなるのは良くあることなので私の方からも報告を上げたんです」


 ほう。仕事熱心なことだ。

 ……それでなぜ私を探す必要があるのか。

 嫌な予感がする。


「それでポンさん宛てに伝言を預かりまして」


 絶対ロクな内容ではない。自信がある。聞きたくないのだが……。


「すぐに城の2層にある小会議室まで来るように、だそうです。あっ。これ通行許可証です」


 むう、用意周到だな。さすが女王、手際がいい。




 ◇ ◇ ◇




 あれが小会議室か。

 小会議室自体は何部屋もあるのだが入口に衛兵が立っているのは1室だけである。あそこに女王がいるのだろう。


 別の部屋に入って「小会議室には行ったが誰も居なかった」という作戦を思いついたが案内の者が付いている状況では無理があるので断念する。


 案内の男性は部屋をノックし私の来訪を告げてから帰っていく。扉横の衛兵は無反応なので話は通っているのだろう。


 入室の許可が出たので自分で扉を開けて入った。私の地位が高かったら誰かが扉を開けてくれるシステムなのかもしれないな。


「ポンだ。呼び出しとのことだが――」


「おお、よく来たな。まぁ座るがいい」


 部屋の中を見れば、女王と姫とヒルダとイーヴァくらいしか居ない。

 会議室を使ってはいるが別に会議らしい会議はしていないようだ。

 勧められたので入り口側の椅子を引いて座る。


「さて、数日ぶりだの。そなたの現在地を探るのには苦労したぞ」


「それは悪かった。帝王の技を真似たおかげで移動の苦労が無くなった弊害だな」


「そなたと素早く連絡を取る手段は無いのか?」


「それは無くもないが……」


「ふふっ。そう嫌そうな顔をするな。私や娘には命の危険が迫る事態もたまにある。そんな時そなたの力を頼る手段が欲しいのよ」


 絶対嘘だ。

 まぁ全くの嘘ではないだろうがもっと気軽に呼び出されるに決まっている。

 だがこう言われると断りづらいな……。


「むう……ではヒルダに遣ったものと同じものを遣ろう」


「ヒルダ、何をもらったのじゃ?」


「はっ! 確か道に迷わなくなるお守りを。――これです」


 ヒルダがネックレスを外して女王に渡した。


「ほう? 効果のほどは?」


「相変わらず迷います。特に効果は感じません」


「――とのことだが?」


 疑わし気に私をじろりと睨む女王。相変わらずせっかちだな。


「実はそれに『迷子にならなくなる』効果はない。付いているのは『私が探ったら装着者の現在位置が分かる』ものと『私の名を呼べば、それが私に伝わる』というものだ」


「なるほどな――迷子回収用か」


 さすが、理解が早い。


「ちなみに、コレはネックレス以外の形もあるのか?」


「形は何でも作れる。戦闘職に渡すのに指輪を避けただけだな」


「では娘の分と2つ作ってくれ。首周りは色々と面倒な決まりがあるでな、指輪がよい」


「あっ。私も欲しいです!」


 イーヴァもか。ヒルダと別行動も多いようであるし、いいだろう。

 こっそり探知波を放って3人の指のサイズを計測し、その場で銀製の目立たない指輪を3つ作る。そのまま浮かせてそれぞれの元へと移動させた。


「この場で作れるのか。規格外だのう……」


 そう呟きながら女王は受け取った指輪を左手の中指に付け、ぴったり合うことに訝し気な顔をするも突っ込むのをやめたようだ。


「さて。では本題に入るか」


 やはり本題ではなかったか。そんな気はしていた。

 ダンジョン関係で何かあるのだろうか。もしかしたらコアを売却したのは早計だったかも知れない。




 ◇ ◇ ◇




 女王は指輪を眺めていた姿勢を元に戻し、改めて私を正面から見ると口を開いた。何の話だろうか。


「まず、先日の依頼はご苦労であった。件の依頼はダンジョンがあり、かつその日の内に破壊まで行なったそうじゃな?」


「そうだな。依頼者に訊いてみたら破壊まで行なって欲しいとの意向だったので、私の方でそのまま破壊しておいた」


「ふっ、簡単に言いおる。――だが軍を動かせば費用が嵩んでおったであろう。そなたのお陰でだいぶ助かったことは間違いない。礼を言う」


 最初からそれが狙いであったろうによく言うものだ……。

 だがそれを差し引いても一応本心ではあるようだ。


「あれはギルドの昇格試験でもあったからな。おかげでランク5まで上げることができたので礼には及ばない」


「ほう? ランク5が目標であったのか?」


「いや、上級冒険者のランク7がひとまずの目標だ」


「そうかそうか……! では次はランク6の昇格試験じゃな」


 はっ……! これはいけない流れだ。

 また妙な依頼を押し付けられそうな天啓が私を襲う。


 揃って顔を上に向け、片手を目に当てた姫とイーヴァを見てヒルダが不思議そうな顔をしていた。黙ってしまった私を眺めながら女王はニヤリと笑い、楽しそうに口を開く。


「――ところで。城の塔に橋を架けようと思っておってのう」


「塔? 王族の生活空間になっていそうな、頂上にあるあの塔か? けっこう離れていたように思えるが」


「その通り。普通に作っては塔が重みを支えきれぬようでな。作るとすれば木造になるらしい」


「木造? むう……木造だと今度は橋の強度に不安が残るな」


 女王は嬉しそうに頷いた。


「うむ! そこでだ。鉄より硬い木材があるらしい」


「……話が見えてきた。取ってきてほしいのだな」


「ふふふ。話が早い奴は好ましいのう。とある遠いダンジョンの奥地に生えておるそうでな。そなたに依頼する以外の入手手段が無さそうなのだ」


 橋を架けるのを諦めるのはどうだろうか、とも言いづらい。


「イーヴァ。詳細を教えてやれ」


「はい。目的の木材は『大黒檀』という樹になります。家1軒分ほどもある太さの幹、普通の城ほどもある高さ、そして真っ黒の外見のため判別は容易です。ただ、とにかく硬く伐採は困難ですが頑張ってください。場所は『樹魔の楽園』というダンジョンです。後で地図を渡します」


 なるほど。分かりやすい見た目だが……大きくないか?

 調達できない理由は距離がどうとかいう話ではない気がする。

 空間収納を持つ帝王辺りなら持って帰って来られそうだが他は無理であろう。


「ちなみにそのダンジョンでは大層美味な果物が色々と採れるそうでの。適当に見繕って収穫してきておくれ」


「まさかそれが本題ではなかろうな……。承知した。見つける度に何個かずつ収穫しながら進むとしよう。ただ、昇格試験として扱いたいのでギルドへの依頼を忘れないでくれ。――期限はあるか?」


「明確な期限は特にない。近日中じゃな」


「あとは――これは破壊しない方がいいダンジョンで合っているか?」


「そうじゃな。実際に見たら分かるとは思うが、とある貴族家でしっかり管理されておる。破壊してはならん」


 ダンジョン自体がまだ2つ目ではあるが『管理されたダンジョン』を見るのは初めてだ。

 管理方法を見ればダンジョンの法則なども推測しやすいだろう。

 後学のためにも色々観察しながら攻略した方がいいな。




 ◇ ◇ ◇




 翌日は朝から王都出発の準備である。

 とはいえ私の空間収納を当てにしていた者ばかりだったのでひたすら荷物を空間収納に詰め込む作業を私がしていただけではあった。


 あの後イーヴァから地図と手紙を受け取り、ギルドから売却代金の金貨18枚を受け取った。内12枚分が肉の代金だったというのも面白い話だ。魔力石が稼げないと見るべきか、肉が稼げると見るべきか。

 そういえばダンジョン内では肉が出現しなかったが何か法則があるのだろうか。


 今度のダンジョンは南の方にあるらしい。王都の南から延びる山脈を辿った先に湖があり、その湖畔の町の近くにあるそうだ。探して回る必要が無いのは助かる。


 とりあえずそちらは急がないそうなので個人の用事を先に済ませておこう。

 まずはフロッサたちを図書館の辺りで下ろし、エイラたちを学園に送り届け、預かっている個人の荷物を部屋に配り、家に帰って留守番組に土産を渡さねば。

 カインズ氏への土産の本はエイラ経由で渡してもらうか。担任の教師だから毎日会うであろう。


「ポン様おはようございますニャ!」

「おじゃましまーす」


 おお、アリシアとフロッサも合流したな。揃ったので出発しよう。


「フェリシアちゃん! 行かないでおくれ!」

「お父様行ってまいりますね」


 父へのサービスも遣り取りが10回目ともなると若干冷たくなってきている気がする。名残惜しくなさそうであることだし、家令が羽交い絞めにしている今の内に出てしまおうか。


「では出発しますニャー」


 行きと同じくアリシアを御者に据え屋敷の門を出る。

 また王都を出て目立たない位置まで進んでから転移門で一気に短縮しよう。


 ランバート家からそのまま学園近くまで繋ごうかとも思ったのだが、父親氏がついてきそうだったのでやめた。


「アリシア。王都での活動はどうだった。フロッサに良い経験をさせてやれたか?」


「そうですねー。元の町では経験できなさそうなヤツを選んだ感じです。でも単純作業とか探し物とかばっかりで戦闘系は全然やってません」


「そちらはもう少し成長してからで良かろう。あの歳では慣れることと常識を知るので精一杯なのが普通だ」


「過保護ですねぇ。結構基礎練頑張ってますよ? そうだ。森で弱いのが出たら叩かせてみてもいいですか?」


「むう、それなら防具を付けてやりたいところではあるが……。慣れない内では逆効果か。間違っても致命傷を負ったりしないよう見ていてやれるならいいだろう」


「そこは任せてください。最初はさすがにちょっと弱らせてからにしますし」


「それならいい。加減は任せる」


「りょーかいです」


 防具か……。

 町に子供用の防具を売っていただろうか。

 いや、防具に興味が無さすぎて全く把握していないから分からないな。

 凝ったものではなく最初は軽い木製などでもいいので売っていればいいが。


 ――そうだ。依頼の木材が鉄より硬いという話であったな。多めに採るなり端材をもらうなりすればフロッサ用の防具程度なら問題なく作れるに違いない。その方向で考えておくか。




 ◇ ◇ ◇




 王都の門を出てひと気の無い辺りまで進み転移門を展開、先に入って転移先に障害物が無いことを確認してから馬車を誘導した。


「私はこれからエイラ達を送って行くが、今の内に渡しておいて欲しい荷物はあるか?」


「お母さんたちへのお土産は手荷物で持ってるから大丈夫です」


「じゃあ茶色い紙袋のヤツだけお願いします。みんなでそれ食べながら待ってますニャ」


「――これか? 距離は短いが気を付けて帰るように」


「それです! ふへへ。ありがとうございますニャー」


「はーい。先に帰ってます」


 御者をアリシアから引き継ぎ学園へと再出発する。


 特に何事もなく学園に到着し馬車を返却、男性陣の荷物はそこまで増えていなかったので寮の2階の階段ロビーに2人分積んでしまって完了。

 女性陣の荷物は3階の各部屋を回って部屋のあちらに3箱こちらに5箱と細かく指示されながら何とか荷下ろしが完了した。

 私は疲労しないはずなのだが疲れた気がする。


 今日まで授業が免除らしいエイラたちと別れ、職員室と学園長室を回って王都饅頭を配ってから学園を出た。職員室は授業中らしく教師たちの姿がまばらだったので教頭先生にまとめて渡しておいた。学園長は小躍りしていたので大人にとっても甘味は貴重なのかも知れない。


 学園から降りる山道を下りながら思い出す。

 さて、土産として頼まれたのはどれだったか……。

 荷物が色々増えすぎて当初の目的が薄れてしまった感があるな。


 確か小麦粉は頼まれていたはず。

 お菓子を作りたいという話に発展していたので砂糖と蜂蜜とナッツ類だったか?

 香辛料も買ったはずだがパンに香辛料は使わないな。これは頼まれたものだっただろうか……?

 確か干し肉は頼まれていないと思う。

 塩も買ったが頼まれてはいないものを念のために買ったのだったか?

 ううむ。大丈夫だろうか……。




 家に帰り着くとちょっとしたパーティーのような状態であった。

 皆笑顔でアリシアの買ってきたお菓子の食べ比べに興じているようだ。

 私が参加しないのを皆分かっているのでそこに遠慮など無い。


 帰還の挨拶をしながら通り過ぎ、台所の水瓶に水を補充しつつ片手で空間収納から小麦粉を2袋取り出す。パンを作る方とお菓子を作る方の両方である。

 さてどこに置けばいいのかと迷っているとメリルが手伝いに来てくれた。


「ポン様、お土産ありがとうございます。小麦粉はあちらに収納庫がありますので運んでおきますね」


 そうなのか。確かに湿気が多い場所は向いていないかも知れない。

 メリルは小麦粉2袋を軽々と担いで奥の方に行ってしまった。

 意外と力持ちだな。さすがは獣人である。


 台所の作業台の上に蜂蜜やミックスナッツの袋、砂糖に塩に香辛料にと並べているとメリルが戻ってきた。




「まぁ! 挙げたもの全部買ってきてくださったんですか!? ポン様は優しすぎます……。あっ、私の方で片付けておきますのでそのままで結構ですよ」


 逆にどれを削除して買ってくればいいのか分からなかったので後で揉めないように全部買ってきただけではある。だが評価が上がったようなので言わないでおこう。


 ――あと香辛料は頼まれていたものに入っていたらしい。恐る恐る置いて観察していたが大丈夫なようだ。危ない危ない。


 そうこうしているうちに居間の方も落ち着いたようなのでアリシアとフロッサを呼んでこちらの方の荷下ろしを開始する。


「あっ。ポン様、洗濯物があれば先に下さい」

「すまん。どれだ」


「大きな袋にまとめておいたはず」

「大きな袋――これか?」


「あっそれですニャ」

「これだそうだ。メリルすまんな」


「いえいえお仕事ですから。ありがとうございます」

「1階のフロッサの荷物から先がいいか――しまった。一緒に入れたのでどれがフロッサの荷物か分からん……」


「とりあえず全部出しちゃえば?」

「それしかないな」


 どんどんと荷物を出していく。結構あるな。


「アリシア……? 後でお話があります」

「なんでニャ!?」


 珍しくメリルが怒っている。まぁそんな気はしていた。




 ◇ ◇ ◇




 私の監督責任になるといけないのでギルドに行くことにする。

 怒れる羊獣人の頭突きは洒落にならない威力があることが良く分かった。

 ニコニコと眺めていたアンナの顔が引きつるほどには。

 そっとフロッサに下級回復薬を渡してきたのできっと大丈夫であろう。


「ポンさんお疲れ様です! 昇格試験に使えそうな依頼はまだ無いですよ」


 ツェシカ嬢が開口一番残念なお知らせを教えてくれる。

 それ以外でギルドに来ることもあるであろうに。

 ……いや、無いかも知れん。


 私にも思いつかない何かを取り繕うように募金箱へ金貨を2枚投入しながら空間収納から手紙を取り出す。


「はっ……! その手紙は……!」


「既視感があるであろう?」


「ええ、とっても」


「良い読みだ。次は南の方らしいぞ」


「お疲れ様です……!」


 ツェシカ嬢は哀れみの表情で手紙を受け取り、近くのペン立てからペーパーナイフをサッと取ると手早く開封していく。

 むう、ペーパーナイフが常備化されているな……。


「――なるほどぉ。これを採取依頼とは呼びたくないですが採取依頼ですね」


「確かに。モノが大きいようだな。昇格試験としては使えないか?」


「いえ、そんなことはないです。難易度としては高すぎるくらいですね」


「それは良かった。受注処理を頼む」


 どうやらギルドへの依頼と同時に私が受注するような形になっているらしく、いつもより書く書類が多いようだ。


「――これで完了です。場所は分かりますか?」


「地図をもらってある。恐らく大丈夫だ。それよりダンジョンそのものの情報は無いか?」


「んー……。ちょっと待ってて下さいね。資料庫見てきます」


 そう言って立ち上がると奥の扉の向こうへ消えていき、しばらく経つと帰ってきた。さすがに各地の情報を丸暗記とはいかないのだろう。


「お待たせしました。『樹魔の楽園』については管理されているためか詳しい情報がありましたよ」


「それは助かる」


「『樹魔の楽園』は全域が森林エリアとなっている5層の大迷宮のようです」


「森林エリアとは……?」


「そのままの意味です。ダンジョンに入ると森が広がっています」


「壁も部屋も通路も無いということか。果実が採れるという話ではあったがまさかそういう意味だったとは……。空はどうなっている?」


「空もあります。でも空を飛んでも一定の高さより上には行けないようになっているらしいですね。天井がある、という意味なのかどうかまでは分かりません」


「なんと……。そうだ、目的の樹は何層にあるか分かるか?」


「残念ながら5層です。しかもボスの背後に見えているらしいですよ」


「つまりボスを倒してからでないと伐採ができないのか」


「いえ、ボスは討伐が禁止されています」


「……んん? なんだと?」


「ボスを倒してしまうと、しばらくダンジョンが元気を無くしてしまうらしくて……。つまり果実の収穫量が落ちてしまうらしいんです」


 ボスの再生産のせいで一時的に何らかのリソースが枯渇するということか。

 これは想定以上に大変な作業かも知れない。


「ボスの情報はあるか? 回避できそうな大きさだと助かるのだが」


「回避は厳しいかも知れません。城ほどの大きさがある動く樹の化け物だそうですよ」


 やられた……のんびり果実を収穫している場合ではないではないか。

 ボスの攻撃を受けながら伐採するか、ボスを討伐しない程度に弱らせるか拘束するかしながら伐採するか、どちらにせよ一筋縄ではいかない依頼のようだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。