第61話 妨害者
「へいへーい、ツアー様よー。今のアルカに勝てんのかよー?」
それは、リズリア一行が物実の樹に到着する少し前のことだった。
馬車の中、チルが酒を飲んで酔っ払っていた。飲む前にツアーは酒臭くなるからやめろと注意したのだが、聞き入れるチルではない。ツアーは言及を諦め、質問に答える。
「勝つか負けるかじゃない。勝たねばならないんだ。でなければ、王国は滅びる」
「……」
その返答に、チルは顔を傾けてじっとツアーの横顔を覗き込んできた。
「なんだ? じっと見て」
「いやぁ、なんでもー」
――あの時、チルはわかっていたのか
今になってツアーは気づく。それがただの、意気込みだということに。
◇
「俺の勝ちだ」
アルカは、片腕が無く、血だらけで倒れるツアーを見下す。ツアーは奮闘したが、アルカの不死性を破れなかった。そして、アルカは次の標的を――フーリエとシンに目を付け、いとも容易く倒した。
アルカは吸収した創生・顕現を駆使し、三人を圧倒した。そのまま物実の樹へ向かう。
「お待ちなさい!」
リズリアがアルカのもとへ走る。だが、盲目の彼女はすぐに転んでしまう。アルカは構わず、先に進む。
『それがアルカの意思ならば、仕方ありません』
咬合結界である白い人影は、アルカを止めなかった。ただ後ろ姿を眺め、アルカの考えに理解を示していた。
その場にアルカを止めようとする存在は、リズリアだけ。リズリアは立ち上がり、再び走る。気配を頼りにアルカにしがみつく。
「邪魔だ」
鬱陶しいように、アルカはリズリアの首筋に、自らの骨で形成した刀を押し当てる。だが、リズリアは刃を自ら掴んだ。
「やってみなさい! 死んでも、あなたを止める」
リズリアが掴む刃に血が伝う。
――その根性を、もっと早く発揮してくれればよかったのに…
そんなタラレバを打ち払うように、アルカは刃を引く――
「!?」
が、アルカの腕は動かない。腕の関節に岩のような骨が突然現れ、刀を引けなくなる。
そのとき、アルカの意に反して背中の触手が動き出し、リズリアを退避させるように押し除けた。
瞬間――ざくり、とアルカは背後から胸を貫かれた。白い爪のようなものがアルカの胸から生え、血が吹き出す。凶刃の主を見てやろうと、横目で背後を見る。それは、黒い人影だった。
――咬合結界…じゃないな?
その影は、骨で形成された鎧を体の一部に纏い、鋭利な爪を腕に備えていた。黒い人影、という特徴は咬合結界に当てはまるが、明らかに気配が違う。
『もうやめましょう、アルカさん』
影から発せられた声は聞き慣れたものだった。
「そうか。お前はまだ完全に殺してなかったな、ヘリク」
善良なほうのヘリクだった。
ヘリクは、同時に至る四つの斬撃で撃退した。しかし、ヘリクは死んでおらず、アルカを乗っ取ろうとした。アルカはこれを乗っ取り返し、ヘリクと半分共生している状態だった。
そして今、半殺しにした弊害が現れた。ヘリクは、アルカが吸収したアガッシアの創生を奪い、アルカから分離したのだ。
「今度はちゃんと、殺してやるよ」
アルカは貫かれた胸をすぐさま再生させ、爪を固定して引き抜けなくする。そして、触手の制御権を取り返し、切り刻む。ヘリクの肉体が地面に落ち、散乱する。アルカは首だけのヘリクを掴み、持ち上げる。
「俺が吸収した創生を横取りするなんて、驚いたよ。それで、どうして邪魔するんだ?」
『あなたにはまだ、希望がある』
「はっ、希望? そんなものはもう、ない――!」
アルカはヘリクの顔面を空中に投げる。骨の刀を手にし、串刺しにしようと突きを放つ。だが、それが届くことはなく、アルカの両腕は何者かによって寸断される。
「次から次へと――今度は誰だ!?」
次々やって来る妨害者に、アルカは苛立つ。断ち斬られた両腕の断面は不恰好だった。それだけで、剣士として二流だということがわかる。
どんな奴なのか見てやる――と思うが、その姿を見たとき、アルカは膝から崩れ落ちる。
「――……、ヒオ、リ…?」
そこには、燃えるような真紅の長髪と瞳を持つ少女がいた。




