第53話 蹂躙
「咬合結界の中か、ここは?」
ヘリクは見覚えのある風景のように、慣れた様子で歩き出す。
「いや、なぜだ? なぜまたここにいるんだ?」
ヘリクはまるでそれまでの記憶をなくしたように、自らの手のひらを見つめた。
「夢か――」
いきなり、ヘリクは自分の頭部を殴った。脳みそが辺りに散らばり、そのまま倒れた。少しして、吹き飛んだ頭部が徐々に再生し始める。
「? なぜこんなに遅いんだ?」
ヘリクは起き上がり、自分の再生能力に疑問を持つように両手を見つめた。顔面はまだ完全に再生しておらず、筋繊維が剥き出しのままだ。
「痛みはあった。夢では、ないな」
ヘリクはまだ癒えていない顔のまま、アルカを向く。
「アルカ、なぜお前も咬合結界の中にいるのかは知らんが、またとない機会だ。ここなら誰の邪魔も入らない。あのときの約束を――殺し合おう!」
声高らかに、ヘリクが戦いを挑んできた。
「……」
「なんだ、その目は」
しかし、アルカの目は冷え切っていた。
「今、お前に構う余裕はない。あとにしてくれ」
と、アルカはヘリクから視線を外し、咬合結界をどうやって解除するかを考える。 だが、邪魔するようにヘリクの触手が襲い来る。アルカは億劫そうに斬り落とす。
「おい、アルカ。なぜだ? あの殺意はどこへやった!? 今のお前は蝋人形のようではないか!?」
まるで駄々をこねる子供のように、ヘリクが攻撃してくる。対するアルカは大人のような冷めた眼差しで、全て薙ぎ払う。
「状況が変わったんだよ」
冷ややかな声で、アルカは端的に答えを示した。
「ふざけるな!」
ヘリクは納得できないように、再び肉の触手を押し寄せる。
「静かにしてくれ」
――一双火灼
アルカは一瞬にして、ヘリクの両腕を切断する。
「一応聞く。咬合結界を開ける方法を知っているか?」
言いながら、アルカは何度もヘリクを切り刻む。抵抗も許さず、作業のように捌いてゆく。返り血に、アルカの顔は真っ赤に染まる。
一方的な蹂躙だった。
「……、知らん」
「そうか。使えないな」
アルカはヘリクの首を両断し、髪を掴み、同じ目線まで持ち上げた。
「なら協力しろ。咬合結界の解除方法を探す」
交差する視線。しばしの沈黙。答えは行動で示された――ヘリクはアルカの顔に唾を飛ばした。
「そうか」
アルカはヘリクの顔面に縦一閃を走らせ、真っ二つに両断する。
「どうして…こんなにうまく行かないんだろうな。俺はたった一人の女の子を守りたいだけなのに…」
心の底から落胆するような声が、咬合結界にこだまするのだった。




