第51話 開門
大量の折り紙が、まるで横殴りの大雨のようにアルカたちへ降りかかる。だが、ヘリクが骨の礫で迎え撃つ。
ヘリクが撃ち落としたカエルの折り紙は爆発せず、ひらりと落ちる。他の形の折り紙も同様で、破損させることで顕現の効力を消せるようだった。
折り紙一つ一つは脆い。だが、量が多すぎる。加えて小さいため、少しの風圧で折り紙が舞い、仕留め損ねてしまう。
「う、ぐッ――」
そのとき、幾千剣がヘリクに迫る。予兆もなく、突然のことだったため、ヘリクは兜鎧加装ごと斬り裂かれる。ツアーは幾千剣を大量の折り紙の中に紛れ込ませていた。そのため、ヘリクは直前まで気づけなかった。
「すまないな」
ツアーは謝罪を示すが、堂々とした態度だった。
破壊されたヘリクの兜鎧加装の隙間を狙い、再び大量の折り紙が飛来する。ヘリクは迎撃するが、撃ち漏らした折り紙に容赦なく爆撃される。
――このままじゃ埒が開かない
アルカは姿勢を低くし、ヘリクの背後から離れる。そして、迂回するように折り紙を操るフーリエへ走る。
刹那、アルカはなぜか次の一歩を踏んではいけないと直感した。そして、それは当たっていた。アルカが逡巡した一歩先の地面からいきなり小太刀が現れた。
「いや、なんでわかるんだよ」
それはいつか見た、シンという少年だった。両手には小太刀の創生があり、地面から生える小太刀と同じものだ。地面に小太刀を仕掛ける顕現を持っているのだろう。アルカは足元へ留意し、シンと対峙する。
一瞬で決着を付けなければならない。背後に味方を庇う戦いでは、味方を気にしなければならないため、守る側が不利となる。今はヘリクが、ヒオリとムナを守ってくれているが、いずれジリ貧になる。自由に動けるのはアルカだけ。ここでシンを倒し、すぐに加勢する。
――一分、いや三十秒で倒す
アルカはそう意気込むが、そんな猶予はもうなかった。
「がはッ――!」
ヘリクが血反吐を吐いて倒れた。強く痙攣し、顔は真っ青になっている。いつもならすぐ再生するはずの傷も塞がっていない。
その様子には覚えがあった。
「毒…!?」
アルカは近くの地面に、蜂の形をした折り紙を見つける。蜂の尾は湿っていた。そして、ヘリクの周りにはその残骸が大量に落ちていた。
急ぎ、ヘリクの下へ駆ける。考えるまでもない。ヘリクに不死性を破壊する毒が投与されたのだ。
――毒の投与はまだ少量のはずだ! 間に合う!
倒れるヘリクに、毒瓶を手に近づくツアーの姿が目に入る。本格的に毒を投与されれば、終わる。
「させるかよ」
「くっ――……!」
だが、走るアルカにシンが追随してくる。そのせいで一瞬、足止めされる。焦る気持ちが加速する。
「邪魔だ!」
シンはアルカより小柄だ。アルカは体当たりし、強引に退ける。
しかし、一歩遅かったか――。
ツアーはヘリクの顎を斬り裂き、毒瓶ごと喉奥へ突っ込んでいた。ヘリクは拒むこともできず、されるがままだった。
「やめろ!」
アルカはツアーへ刀を振るう。ツアーはすぐに離れていった。その手には空になった瓶がある。
ヘリクを見ると、肉体の再生が完全に止まっていた。悶え苦しみ、地面にのたうちまわっている。
――え? これ終わりじゃないか?
アルカの思考が止まる。冷や汗が止まらない。吐きそうなほど立ちくらみがする。
「仕上げだ」
追い打ちをかけるように、アルカの足元に真っ黒い正八角形の物体が投げ込まれた。
「開門」
咬合結界だ。一度閉じれば、二度と開くことのない封印装置。ヘリクと、そしてアルカもまとめて封印しようと開かれてしまうのだった。




