第49話 追手の影
真夜中、アルカたちはある村に着く。そこには畑と数軒の民家しかなく、牧歌的な暮らしが浮かぶようだった。
馬車から降りたムナが、勝手知ったる顔でとある民家のドアを叩いた。しばらくして、ドア越しに声が聞こえてくる。
「誰だ? こんな時間に…」
「恩を返す機会を与えに来たというのに…。随分な態度じゃないか、コーレル」
ムナの図々しい態度に、ドア越しから驚く声が聞こえた。ドアが開き、一人の男性が出てくる。見たところ、三十代手前だろう。コーレルと呼ばれた男はムナの姿を見て、さらに驚きを強くした。
「ムナ、生きてたのか?」
「当たり前だ、間抜け。まさか命を救った貸しを踏み倒せると思っていたか?」
「いや、ははっ…」
コーレルはバツの悪そうに笑い、周りを警戒する。
「誰にも見られてないよな?」
「ああ、音も立てていない」
こっちだ、とコーレルに案内され、家から少し離れた納屋に連れられる。そして、納屋のロフトに匿われた。そこには干し草が大量に積まれている。おかげで視界を塞いでくれるし、音も吸収してくれる。それに暖も取れる。今は十二月下旬。冬の寒さを十分凌げるだろう。
夜も深い。アルカたちは必要な物をコーレルから借りて、夜を明かす。
ここまで、ヒオリは一度も目を開けなかった。アルカは募るばかりの不安を抑え、せめてすぐそばで守ってあげられるようにと、近くで眠るのだった。
◇
早朝、コーレルが食料を届けてくれた。アルカたちは礼を言い、かじりつく。納屋の隙間から外を見ると、畑仕事をする人たちが見えた。その中にはコーレルの姿もある。様子を見る限り、アルカたちのことはバレていないようだった。
この時間帯は仕事の時間だと、コーレルから聞いた。アルカたちはバレないよう、静かに過ごすのだった。
夕方になる。畑から人が消え、みな家へと帰っていく。仕事終わりのコーレルもやってきて、アルカたちの様子を見に来た。
「三日滞在したあと、ここを発つ。すまんが、物資を援助してもらいたい」
「……できる限りのことはする。だが、今の俺には妻がいるんだ。妊娠もしてる。だから、こっちの身を削ることはできない」
そう言えば、とアルカは畑仕事をする中に妊婦もいたことを思い出す。
「そうか…わかった。無理のない範囲で頼む」
と、ムナは申し訳なさそうにコーレルにお願いするのだった。
「……」
そのやり取りを、ヘリクだけは訝しげに見ているのだった。
◇
一方その頃、アルカたちに迫る追手の影があった。
「匂いはここまで続いてるっぽいですね~」
フーリエは、犬の形の折り紙を従えていた。犬の折り紙は地面に残された匂いを嗅ぐように、鼻を近づけている。
「ふむ。ここならば合流にうってつけだろうな」
ツアーは顎に手を当て、頷く。そこはアルカたちが合流地点に使った水車小屋だった。
「ツアー様、ここで黒い髪の少年を見たという目撃情報がありました。奴らがここに来ていたのは確実ですね」
「ご苦労だ、シン。それとここでは様はつけなくていい。今の私たちは流浪の旅人なのだからな」
「はい」
ツアーはシンの肩に手を置く。触れられたシンは少し萎縮するように返事をした。
「はいはい、さっさと先を目指しましょうよ〜。敵方は待ってはくれませんよ。早くしないと逃げ切られちゃうかも」
フーリエは気の抜けるような声で二人を催促する。
「そうだな、疾く向かおうか」
ツアーたちは馬に騎乗し、駆け出すのだった。




