第48話 罪と罰
「聞きたいことがあります」
「なんだ?」
走る馬車の中。ヒオリの具合を看ていたアルカの背後から声がかかる。
「アルカさんの、育ての親についてです」
「ああ…」
ヘリクの恐縮した表情を見れば、言いたいことはすぐわかる。
「ああって…なにも思わないんですか? 僕はあなたの親を殺したんですよ? 恨まないんですか!?」
ヘリクは、罪の所在を表すように自分の胸に手を当てた。
「そう…だな。最初は死ぬほど憎かったよ。でも――今のお前は別人だ。だから、気にするな」
その言葉は本心だった。そして、アルカの中でも腑に落ちていた。
肉を纏う邪悪なヘリクと、骨を纏う善良なヘリク。以前のアルカは違いを受け入れられず、懊悩していた。だが、今のヘリクはただの善人だ。そのおかげでヒオリは一命を取り留めた。昔のヘリクの罪を、今に問うのはお門違いだ。
時間の経過で心の整理がついた。諦めと言ってもいい。振り返ると、なぜそれだけのことを当時理解できなかったのだろうと、アルカは思った。
「いや、納得できない」
しかし、一人頷くアルカに対し、ヘリクは納得できない様子だった。
「罪と罰は、例え記憶を無くそうとも消えない! 赦しなんて、いらない」
それはほとんど懇願に近いものだった。しかし、アルカはヒオリを見つめる。
「今の俺は、ヒオリのことしか考えられない。だから正直、お前に対する怒りはもうないよ」
「だったら…! ヒオリさんの無事を確保できたとき、そのときにもう一度話し合いましょう。二人を救って、罰を受ける。それが僕の使命です」
使命。アルカはその言葉に頭を抑える。
『奴らを根絶やしにしろ。それこそがお前の使命だ』
『これまでお前の肉片を採り続けたのは、お前を殺す毒を調合するためだ! お前にはまだ使命があるんだろう!? 誰か、大切な人がいるんだろう!? このままじゃ見つけることもできないまま終わってしまう! いいのか!? ここで終わっても!?』
ミラから古今統一を受けた日から、アルカはその言葉に引っかかりを覚えていた。しかしなぜかは、アルカにもわからない。わからないが、確かなことが一つある。
――俺の使命は、ヒオリを守ることだ
アルカはヘリクに話は終わりだと言わんばかりに、眠りにつくのだった。




