第46話 二兎追い人
それはアルカが目覚める前のこと。リズリアは、ミラとの戦闘によってアルカたちが壊滅的な被害を受けたと聞き、政務を代理の者に引き継がせて、急ぎ駆け付けていた。
「私のことは、構わないで下さい」
それが、ヒオリの言葉だった。ベッドに横たわるヒオリはあっけなく、自らが犠牲になることを了承した。リズリアはその言葉に思わず、拳を握りしめた。
「私は騎士です。ならば、身命を賭して国に尽くすのは当然のことです」
ヒオリは、リズリアにとって初めての友人で、そして親友である。
リズリアは昔、感情検知の顕現から忌み嫌われていた。誰からも気味悪がられ、遠ざけられてきた。
だがそんなとき、ヒオリと出会った。ヒオリは無邪気で、純真な心を持っていた。盲目のことを受け止めてくれて、感情検知の顕現を知った後も気にせず接してくれた。ヒオリは、軟禁されていた幼少期のリズリアを最も近くで支えてくれた存在だった。
ヒオリがいなければ、生きることも、王になると決心することもなかったと断言できる。
しかし、その命は今、風前の灯火となっている。
助かる方法はある。ヘリクを逃すことだ。リズリアはそれを提案したが、ヒオリにダメだと怒られた。
「あなたはこの国の王です。国のことを第一に考えてください」
非業の死だというのに、ヒオリは当然だと受け入れてしまった。
「私が死ぬことはどうでもいい……。でも……」
と、ヒオリは隣のベッドを見つめた。そこには今も眠るアルカがいる。
「アルカはきっと、私が死ぬことに納得しないでしょう」
優しいから、と小さな声で言い、ヒオリが微笑む。
「もしかしたら、リズリア様に刀を向けるかもしれません。そんなこと、アルカにさせたくない」
ヒオリは憂うように、アルカの横顔を見つめる。
「だから、私が死ぬことは伝えないでください。アルカのことを匿って、そして全てが終わったとき、私は納得して死んだと、伝えて欲しい」
そのときのヒオリは、涙を浮かべながら、笑っていた。
◇
体力の限界なのか、ヒオリは眠りについた。リズリアはヒオリの頭を愛おしく撫でていた。
「ムナ、お願いがあります」
ヒオリの頭から手を離し、リズリアは近くにいるムナに話しかける。
「アルカが目覚めたら、ヒオリが犠牲になることを伝えて下さい」
「…いいのか?」
「よくありません。決してあってはいけないことです」
リズリアは、矛盾する言動を堂々と言い放つ。
「王とは、個人に肩入れし、その涙を掬ってはいけません。だから――」
リズリアは今も眠るアルカに、我儘を託す。
「アルカ。ヒオリのことをお願いします。私はこの国を統べる王。王国のすべて、どんな者も、犠牲にしてはならないのです」




