第40話 反旗
「起きたな」
目を覚ましたアルカは、声の方を向く。そこには灰色の短髪と群青色の瞳を持つ、中性的な人物が立っている。
「ムナ――さん…?」
「ほう…覚えていたか」
アルカは掛ふとんを除けて、ベッドから上半身だけを起こす。その人物には見覚えがあった。初めてリズリアと対面したときに一緒にいた、透視の顕現を持つ人だ。
アルカは周りを見る。無機質な部屋にベッドが並んでいる。そして、薬品の匂いが鼻腔をくすぐる。ここが病院であるとすぐにわかった。
「身体に問題は?」
ムナは片眼鏡を掛けており、それ越しにじっくり観察される。おそらく片眼鏡は創生なのだろう。創生特有のモヤがかかっている。
「特には――ないな」
「今のお前は見ての通り、四肢の創生を生成して、一命を取り留めている。絶対に創生を解除するなよ。すぐに失血死する」
アルカは自分の四肢を眺める。普段通りに動かせるが、見た目は以前と全く異なり、影のような見た目をしている。
「透視の顕現で診てみたが、問題はなさそうだ」
そう言って、ムナは片眼鏡の創生を霧散させた。
「さて、ここからが本題だ」
ムナが、アルカの隣にあるベッドへ視線を移す。
「ヒオリ――」
そこには眠りについているヒオリがいた。
「残念だが、こいつはもうすぐ死ぬ」
「は?」
「覚えているか? ヒオリは致命傷を受けた。そこにヘリクが自らの肉を移植したことで延命できている。だが、対ヘリクの毒が完成した。これからヘリクに毒が投与され、死刑が執行される。そうなれば、ヒオリも共死にだ」
「なんだ……それは!?」
アルカは思わず立ち上がる。
「ベッドの上に立ち上がるな。話は最後まで聞け」
アルカはベッドから降りて、ヒオリのそばに寄る。ヒオリは今も眠っている。顔は生気が抜けたように青白くなっている。死が間近に控えていると報せているようだった。
「私は、自分の患者には責任を持つ。クズは助けんが、それ以外は最後まで面倒を見る。そう決めている。だから、こいつがこれから殺されるというのは看過できん」
そう言って、ムナは壁に掛けてあった外套を羽織った。
「私はここからヒオリを連れ出せる。アルカ――お前はどうする?」
ぎらりと、ムナから鋭い視線が突きつけられる。しかし、愚問だった。
「ヒオリは死なせない。ヘリクは今、どこにいる」
「それを聞きたかった」
アルカは刀を腰にかけ、ヘリクのもとへと向かうのだった。




