第38話 古今統一
「古今統一」
ミラの言葉とともに、大地が裂ける。同時に、アルカ、ヘリク、シアハの三人の脳裏に、目まぐるしいほどの映像が流れる。
それはアルカたち、それぞれの記憶だった。
ミラは死の間際、顕現の別の解釈を得た。それまでは、相手が直前に受けた過去の傷を再現していた。だが、傷とは目に見えるものだけではない。記憶や経験、感情。それらも人に影響を与える一種の傷であると。その理解を以て、古今統一は完成した。
古今統一を受けたアルカたちは、記憶を強制的に掘り起こされる。
その断片を一人一人、覗いてみよう。
◇
アルカの場合。
『一匹残らず、全て殺せ』
老人のしゃがれた声が聞こえた。
『奴らを根絶やしにしろ。それこそがお前の使命だ』
アルカは霞む視界に老人の姿を見るが、靄がかかっていてよく見えない。しかし、老人に片腕がないことだけはわかった。失ったばかりなのか、断面からは血がポタポタと落ちていた。アルカは老人によって棺の中に押し込められる。
『今から《《五百年後》》に、目覚めろ』
棺に蓋をされ、アルカは沈む暗闇とともに眠るのだった。
◇
ヘリクの場合。
『ありがとう。あのとき、私を救ってくれて』
双子だろうか、二つの小さな命を抱き締める女性が、ヘリクの前にいた。
『ほら、あなたも』
そう言われ、ヘリクは一人の赤ん坊を渡される。ヘリクは目覚めさせないよう、細心の注意を払って抱っこする。
『うん、上手よ』
そう言って、女性は幸せそうに微笑む。つられて、ヘリクも笑うのだった。
◇
シアハの場合。
『シアハ』
一人の女性が笑いながら、名前を呼んだ。シアハはその女性を愛していた。そして、女性もまた、シアハを愛していた。相思相愛。二人は同じ村に生まれた幼馴染。結婚するのも当然の成り行きだった。
幸せだった家庭の一風景。
『――』
しかし、愛しの妻の手にはいつの間にか、十字架が握られていた。それはシリウス教を信仰しているという証左。
シアハは戦争に参加した際に重傷を負い、生死の境を彷徨った過去を持つ。彼女はシアハの回復を願っていた。それは祈りにも等しく、彼女は日ごと憔悴していた。そんなある日、彼女はシリウス教の教えを知った。いや、知ってしまった。
元々、彼女は神を信じる人間ではなかった。だが、そのときの彼女には救われるほど、沁み渡った。
彼女は一変した。シアハが目覚めたとき、彼女はシアハではなく、姿形もない神に感謝を告げた。いつしか、彼女が向ける愛にはそんな不純物が仲介するようになった。
シアハには、彼女の顔はもう見えない。どれだけ記憶を掘り起こされても、やはり見えないのだった。
◇
古今統一による膨大な情報量に当てられ、アルカとヘリクが気絶し、倒れる。しかし、一人だけ意識を保つ男がいる。
シアハだ。シアハは、最後の矢を番える。
「知らない記憶だ、全て」
そう言い、ミラの腹部を貫くのだった。




